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トスカニーニの録音(1951年)


○1951年1月10日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早いテンポで一気に描き上げた感じの・勢いのある演奏です。テンポの速い部分が颯爽とした若々しく、実に斬れの良い表現です。それだけに後半の寂寥感に乏しいのは否めませんが、前半の熱気は素晴らしいと思います。NBC響はトスカニーニのかなり強引なドライヴにも見事についていき、まったく造形に乱れを見せません。その高弦の力強さ・金管の輝かしさは聴き物です。中間部の木管の安らぎの表情が印象的です。


○1951年1月27日ライヴ

ヴェルディ:レクイエム

ハーヴァ・ネリ(ソプラノ)
フェードラ・バルビエーリ(
メゾ・ソプラノ)
ジュゼッペ・ディ・ステファーノ(テノール)
チェーザレ・シエピ(バス)
ロバート・ショウ合唱団
NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、ベルディ没後50周年記念演奏会)

怒りの日の冒頭から・怒涛の如くに押し寄せる激しいリズムと・粗野とさえ言えそうな迫力で、聴いていて鳥肌が立ってくるようです。NBC響もロバート・ショウ合唱団も渾身の力を込めて・トスカニーニの棒に喰らいついてきます。独唱陣も素晴らしいと思います。オペラティックな朗々とした歌唱ではなくて・フォルムに厳格な規制を求めるトスカニーニのもと・実に端正なスタイルの歌唱なのです。特にネリとシエピの歌唱はその力強さとスケールにおいて印象的です。全体にやや早めのテンポを取っていますが、旋律を大きく歌わせてスケールの大きさを感じさせます。民族音楽としてのヴェルディの根源的な力を感じさせます。通して聴いてみて・一分の隙も感じさせない緊張感漲る演奏で、その密度の濃さはまさに交響詩と読んでも良いほどに思われます。


○1951年2月3日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第4番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

緊張感ある密度の高い凝縮された表現になっていると思います。いわば前後の第3番と第5番の交響曲に相通じる厳しさをどこかに見ているとも感じられます。しかも、それがこの交響曲のフォルムを壊さないところで実現されていて感嘆させられるところの多い演奏です。厳格とも言えるほどにこの交響曲の古典様式の守っているのです。リズムの刻みが全面に押し出されている点はトスカニーニらしいのですが、まったく窮屈さを感じさせるところがありません。そのなかで第2楽章の流れるように美しい表現が印象的です。第4楽章もともすれば早いテンポで聴衆を急き立てるような感じになりがちなものですが、トスカニーニは手綱をしっかりと引き締めて抑制させた表現を聞か聴かせるのもさすがです。


○1951年9月28日ライヴ

ウェーバー(ベルリオーズ編曲):舞踊への勧誘

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

二人の男女の語らいと踊りを情緒豊かに甘ったるく表現することに興味がないようで、ひたすら純音楽的に表現しようとしているのがトスカニーニらしいところです。したがってクライマックスの舞踏会の場面も華麗ではあるのですが、どことなく乾いたところがないでもありません。もちろんトスカニーニのことですから歌心は十分なのですが。面白いのは前半のチェロ独奏を中心としちた音楽表現です。甘く聴かせてやろうという感じがさらさらないのに、どうしてこんなに切ないほどに美しいのでしょうか。


○1951年10月5日ライヴ

ドニゼッティ:歌劇「ドン・パスクワーレ」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

前半のチェロ独奏の素朴な語り口といい、中間部の弦の美しい旋律の歌いまわしといい、リズムを明確にとって旋律の美しさをのびやかに表現して、じつに聴きごたえのある演奏です。後半はリズムに活気を持たせて・景気よく締めくくります。短い曲ですがトスカニーニの設計のうまさを感じさせる演奏です。


○1951年10月15日ライヴ

プロコフィエフ:古典交響曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

第1楽章からリズムの力強さ・硬質な弦からくる旋律の強靭さが印象的であり、古典的な佇まいのなかに近代的スタイリッシュな感覚があります。第3楽章もハイドン的メヌエットの典雅さというよりも・リズムの遊びという印象が強くなるのも、この曲の特性をよく表現していると思います。第4楽章もリズムがよく斬れています。NBC響の弦は透明で、リズムが軽やか。トスカニーニの感性の若々しさを感じます。


○1951年10月22日ライヴ

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」〜第1幕への前奏曲・第3幕への前奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

NBC響の弦のピアニシモの透明感のある響きが素晴らしいと思います。天国のような清らかで美しい世界を描き出していて・澄み切った感動を与えられます。クライマックスへの盛り上げも見事であると思います。第3幕への前奏曲は活気のある華やかな演奏ですが、終結部分がトスカニーニにより編曲されており、ローエングリンの誓いの動機が回想されて・後の悲劇を予感させて終わります。


○1951年10月29日ライヴ-1

ウェーバー:歌劇「オイリアンテ」序曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

冒頭の疾走する迫力・中間部のゆったりした旋律の歌いまわし、テンポの緩急を大きくつけたスケールの大きい演奏です。NBC響の高弦の力強い響きにより全体の造形が引き締まり、緊張感がみなぎっています。


○1951年10月29日ライヴー2

ワーグナー:楽劇「ジークフリート」〜森のささやき

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

NBC響のぶ厚い暗めの弦の響きがすばらしく・刻々と移り変わる情景が走馬灯のように展開していきます。木管の小鳥の鳴き声が暗い森から差し込む太陽の光のように感じられます。これは魅力的な演奏だと思います。


○1951年11月6日ライヴ

ブラームス:交響曲第1番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早いテンポで一筆書きで描き切ったような快演です。躍動するリズムが聴き手に与える・その迫力はもしかしたら粗野な印象を与えかねないほどですが、見事な一刀彫りを見るような感銘を感じさせます。かなり早いテンポであるにもかかわらず・リズムが打ち切れているのでセカセカした感じがまったくありません。緊張感が持続して・最後まで聴き手をつかんで離しません。ブラームスが交響曲という形式のなかにそそぎ込んだロマン的情感を、これほどまでに凝縮して提示してみせた演奏があったかとさえ思います。41年の演奏と比べると基本的な解釈はあまり変化していないと思うのですが、やや重めでドイツ的表現に傾いたかなと思う面もあります。インテンポを基調としていますが、微妙にテンポに幅を持たせたところがあり、それが曲に変化をもたらしているのです。NBC響くの弦は鋼鉄のように強い響き・金管は輝かしいばかりでトスカニーニの強い意志を体現しているかのようです。


○1951年11月9日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第7番

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

36年とのニューヨーク・フィルとの名演はヨーロッパ風の重心の低い響きでしたが、このNBC響の場合は引き締まった硬質の響きなので・リズムの醸し出す躍動感がより際立つということが言えそうです。全体の解釈はそう大きく変化しているように思われません。この演奏でも早めのテンポで通しているにも関わらず、リズムがしっかり打ち込まれているのでせかせかしたところがまったくなく、安定感さえ感じさせるのはまったく驚きです。各楽章のテンポ設定も適切で、交響曲としての均整がとれており・全体に緊張感が漲っています。トスカニーニとこの交響曲との相性の良さを改めて感じさせます。


○1951年11月10日ライヴ

ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」〜マブ女王のスケルツオ

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

テンポ感覚の良さが聴きものです。リズムが実に軽やかなのです。NBC響の弦・管の水準の高さが光ります。


○1951年11月19日ライヴ

チャイコフスキー:バレエ組曲「くるみ割り人形」

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

早いテンポで音楽的に淡々と仕上げたチャイコフスキーです。メルヒェン的な雰囲気で楽しく聞かせようという意図はなくても、音楽自体に語らしむというところがあるので、改めてその音楽の素晴らしさを感じます。老巨匠がまったく手抜きせずに曲に向かっていることがよく分かります。オーケストラの音色がカラフルで見事なことは言うまでもありません。序曲や行進曲での整然としたオケの威力はさすがと思わせます。最後の「花のワルツ」では若干スコアに手を入れて派手に曲を締めています。ワルツのリズムの切り方がトスカニーニらしいところです。


○1951年12月10日ライヴ

エルガー:エニグマ変奏曲

NBC交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

トスカニー二は複雑な構成をよくまとめて、各変奏の性格をしっかり描き分けていて、曲の展開が実に面白く感じられます。NBC響の響きはやや暗めの湿り気をおびた色合いが、この曲にふさわしく、冒頭部などはっとさせる美しさです。オケが技巧的に素晴らしいことはもちろんですが、決して機能主義的な印象になっていません。


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