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トスカニーニの録音(1920年代)


○1920年12月17日、20日(18日、20日?)

モーツアルト:交響曲第39番〜第3・4楽章

ミラノ・スカラ座管弦楽団
(ニュージャージー、キャムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)

トスカニーニの最初の録音で、スカラ座のアメリカ演奏旅行の際にビクターのスタジオで録音されたもの。当時のアコースティック録音技術はまだまだのようで、高音はほとんどつぶれているし・テンポの変化がわかるくらいで、ファン向けの研究資料としての価値しかなさそうです。それでもトスカニーニの個性は鮮明に出ています。律儀にインテンポにリズムを刻んでいるのはトスカニーニらしいと思いますが、第3楽章中間でテンポを落とすのは意外に思われました。そのスタイリッシュで明解な音楽造りが当時の聴衆に実に新鮮な印象を与えたであろうことも十分に想像できます。 音楽の線が明確なのはトスカニーニらしいところですが、音楽が意外にゆったりとして・後年ほどビシッと決める感じでないのも興味深いところです。


○1920年12月18日

レスピーギ:「古い舞曲とアリア」第1組曲〜第2曲「ガイヤルド」
(ヴィンセンツォ・ガリレイ:ガイヤルドのレスピーギによる編曲)

ミラノ・スカラ座管弦楽団
(ニュージャージー、キャムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)

編成の小さい曲なので・録音としても録り易いのでしょう。音の崩れもなく聴き易い録音です。弦の旋律を直線的にとり・インテンポで骨格が明解なのはトスカニーニらしいところですが、スタイルの古さをまったく感じさせないのには感心させられます。 構成感が大事にされているので、古典的格調が高まってくるようです。


○1920年12月23日(24日?)

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」〜第4楽章

ミラノ・スカラ座管弦楽団
(ニュージャージー、キャムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)

音楽の骨格しか判別できない録音ですが、それでも響きを鋭く断ち切るトスカニーニの第5番の振り方がすでに確立されていることはよく分かります。リズムが明解で・刻みが十分に取れていること・フォルムの明確なことなど、トスカニーニらしさがはっきりと出ています。 べートーヴェンの音楽の形式感がしっかり把握されていて、この演奏の持つ器の大きさは貧しい録音からでも良く分かります。


○1921年3月9日

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」〜スケルツォ

ミラノ・スカラ座管弦楽団
(ニュージャージー、キャムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)

録音も聴きやすく・トスカニーニの得意曲なので、楽しく聴けます。リズムは軽やかで・透明感もあり、フルート独奏も見事です。リズムがしっかりとれていて・古典的なスタイルがしっかりと決まっています。


○1921年3月29日・30日

ドニゼッティ:歌劇「ドン・パスクワーレ」序曲

ミラノ・スカラ座管弦楽団
(ニュージャージー、キャムデン、トリ二ティ・チャーチ・スタジオ)

一連のビクター・アコースティック録音のなかでは聴き易い部類です。イタリアオペラ作品ではオケの乗りが違うように思われます。トスカニーニらしくリズムをきちんと取った・明解で近代的な感触ですが・堅苦しい感じは微塵もなく、旋律を伸びやかに歌わせた見事な出来です。 後年のNBC響の録音よりもテンポが若干遅めの感じであり、線をビシッと決めるのではなく・どこか表情に余裕が感じられます。オペラティックな喜びがあります。


○1929年3月18日-1

デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

当時のトスカニーニとニューヨーク・フィルの水準の高さをまざまざと見せ付けられるような・眼も覚める名演です。トスカニーニは純器楽的に処理していて・ことさらに描写的に聞かせようとはしていないように思われますが、スコアから引き出された音楽はまるで計算し尽くされたかのようにリズミカル・繊細かつダイナミックです。色彩感も素晴らしく、ストコフスキー・フィラデルフィア管の名演に匹敵するものです。


○1929年3月18日ー2

ヴェルディ:歌劇「椿姫」第1幕・第3幕への前奏曲

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

旋律自体が十分メランコリックで甘いために、巧く感動的に聴かせてやろうとすればするほど音楽的でなくなってしまう難しい曲です。 巧く聴かせてやろうなどという気がサラサラないようで・旋律の歌い方は簡素で・直線的で・そっけないように感じるほどなのですが、実はこれほど旋律自体から豊かなドラマを引き出している演奏は聴いたことがありません。 一見するとトスカニーニはそっかなく不愛想なくらいなのですが、弦の柔らかで繊細なピアニシモから、そこから曲の持っている哀しみのようなものがふつふつと湧き上がって来るのです。これが名人芸というものなのでしょう。ニューヨーク・フィルの暗めの弦の音色が曲によく似あいます。


○1929年3月29日・30日

ハイドン:交響曲第101番「時計」

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

オケの響きはヨーロッパ風の濃いめの音色です。第1楽章序奏がやや重々しく、ベートーヴェンのように響きます。トスカニーニは例によってインテンポに取っていて・これはハイドンにはふさわしいと思いますが、トスカニーニがハイドンを近代的に純器楽的にとらえようとしているのに対し・オケはロマンティックにマイルドに捉えようとしているようにも感じられます。したがって後年のNBC響との録音の方がリズムの歯切れも良く・トスカニーニのスタイルであるように思われますが、曲が進むにつれて・両者の個性が溶け合って見事なハイドンになってきます。第2楽章はトスカニーニらしい正確な刻みをオケが優美に捉えて魅力的です。


○1929年3月30日、4月14日

モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの重厚で線の太いドイツ風の音色と、トスカニーニの歯切れの良いリズムがほどよく調和して、柔らかくロマンティックな色合いながら・インテンポのリズムの刻みがフレッシュな素敵な演奏に仕上がりました。特に第2楽章は伸びやかで・流麗な演奏で素晴らしいと思います。一方で第3楽章はちょっとテンポが遅い感じで、ここだけ浮き上がっているように思われました。第4楽章はキビキビとした活気のある表現が魅力的で、このオケの素晴らしさが良く分かります。


○1929年3月30日

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」〜スケルツオ

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ドイツ的なロマンティックな響きで・この曲の幻想的な雰囲気をよく出しています。ニューヨーク・フィルの弦は低重心の響きですが、身体が重い感じはまったくありません。この弦の動きにフルートが蝶の方が軽やかに舞う。オケの軽やかな動きがハッとするほど 濃厚なロマンティッシズムを感じさせ、短い曲だけに一瞬の夢のように鮮烈に脳裏に残ります。


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