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ラトルの録音(2010年ー2014年)


○2010年2月4日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番

内田光子(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これは名演。まず内田光子のピアノが実に素晴らしい出来です。これは今回のラトルとのベートーヴェン協奏曲チクルスの・前半の1〜3番について言えることですが、モーツアルトのようなタッチの軽やかさ・華やかさと、繊細で柔らかな味わいが込められていて、軽快な両端楽章ももちろん良いのですが・それ以上に緩徐楽章が息深くしっかりと歌いこまれていて・内容があります。特にベートーヴェンのピアノ協奏曲では先行作曲家であるモーツアルトの影響を無視できませんが、内田光子のピアノではその関連性が実感として納得されます。細部の軽やかなタッチがとても魅力的で生きています。よく内田光子とラトルの組み合わせは非常に相性が良いようです。ラトルの指揮は内田を包み込むように・とても自然にサポートしていて、まったく出過ぎることなく・ツボを押さえた見事な出来です。テンポ設定も実にバランスが良いと思います。


○2010年2月10日ライヴ−1

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第2番

内田光子(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これも名演。2月4日の第1番と同じことが言えますが、モーツアルトにも共通するしっかりした古典性と・ロココ調の華やかさが、内田光子のピアノではとてもバランス良く表現されています。内田光子は細部の表現がとても細やかで、ニュアンス豊かで聴かせます。両端楽章も素晴らしい出来ですが、やはり緩徐楽章がテンポが実に適切で・息深く歌われて・全体のなかでしっかり位置付けされていることがこの演奏の説得性を増しています。


○2010年2月10日ライヴ−2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番

内田光子(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

今回のラトルと内田光子のベートーヴェン協奏曲のチクルスはとても実りが大きいイヴェントであったと思います。第3番ではベートーヴェンらしさが増してくるわけで・ついオケの響きを重めに取りたくなるところですが、ラトル指揮のオケが重過ぎることなく・ピアノとのバランスが実に良く取っていて、モーツアルト的な軽やかさが損なわれていないのが素晴らしいと思います。それが内田光子のピアノの魅力をよく引き出しているのです。ここでも緩徐楽章が重く粘らないのがとても良いのです。最終楽章でもラトルはテンポをしっかり取って、音楽が前のめりになることがなく、とても格調あるサポートをしてくれます。


○2010年2月14日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

内田光子(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ラトルと内田光子のベートーヴェン協奏曲のチクルスは前半1−3番の出来が素晴らしかったので後半を期待しましたが、後半の第4〜5番はちょっと期待はずれと言わざるを得ません。まず第5番ですが、ラトル指揮のベルリン・フィルが第1〜3番の時と比べるとピアノをさりげなく支える印象からガラリと一転して、オケが前面に出てピアノを威圧する印象が強いようです。低音がかなり増強されて響きが重く、アクセントが強く・リズムを揺らす傾向が強くなっています。確かに後期のピアノ協奏曲はオケ主導の要素が強いのかも知れませんが、そのために内田光子の音楽の美質が損なわれているとまでは言いませんが、美質が生かされていない感じがします。内田光子の美質はたとえ小振りであったとしても、リズムの軽やかさとニュアンスの細やかさであると思います。もちろん内田光子もオケに負けておらず、意欲的にオケに対して対抗していて見事なものですが、打鍵の打ち方がかなり強めに硬質な感じがあり・柄になく突っ張った印象が出てきています。そのため第1〜3番の時のようなリラックスした自然な表情が乏しくなっています。逆に言うと、これをオケとピアノが真っ向ぶつかって緊張感のある出来だと褒める方もいるのかも知れません。確かに従来イメージの「皇帝」ということならば、これはそれ相応の出来だと言うことはできるかも知れません。事実、演奏後の聴衆はかなりエキサイトしている風ではあります。しかし、内田光子との共演ならば、ちょっとスケールが小さくなったとしても、ひと味違った軽やかな「皇帝」のイメージを作れたであろうにもったいないことだと思います。


○2010年2月20日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

内田光子(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

14日の「皇帝」の時の印象が、そのままあてはまります。内田光子との共演ならば、ひと味違った軽やかな第4番イメージを作れたであろうにもったいないことだと思います。確かに第4番はそれまでのベートーヴェンのピアノ協奏曲とはちょっと違ってオケ主導の要素が強く出ているのかも知れませんが、第1楽章冒頭からオケの響きが重くて・音楽が粘る感じがします。特に不満を感じるのは第2楽章で、これはブレンデルとの演奏(97年ウイーン)でも同じように感じましたが、これも実に退屈で、第4番のなかでのこの短い楽章の位置付けがまったく見えてこないように思います。両端楽章はまあそれなりとも言えますが、正直申して可もなく・不可もないといったところ。あえてモーツアルト的な第4番を志向しても良かったのではないかと思います。


○2010年8月27日ライヴ-1

ベートーヴェン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

前半の出来はなかなか良いと思います。まず第1楽章はリズムをしっかり取って・古典的なフォルムを押さえた感じです。ラトルにしてはちょっと落ち着き過ぎて渋い印象に聴こえるくらいです。これに続く第2楽章がまた良い出来です。テンポは心持ち早めにして・淡々と進むように見えながら、その簡素な美しさが際立っています。ただし、良いのはそこまでで、後半・第3楽章以降はさほどテンポが早いわけでもないのに、リズムの打ちが前のめりで浅い・いつものラトルの癖が出ています。この場面の手綱をじっくり押さえて息深く歌ってくれれば全体が良い演奏になったのにとても残念です。


○2010年8月27日ライヴー2

マーラー:交響曲第1番「巨人」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体としてロマン性濃厚な演奏だと言えますが、表現としては「ぬるい」印象です。冒頭から濃い靄の漂う森のなかという感じですが、かなりの濃霧で・しかも生暖かい風が吹いているかのような雰囲気と言うべきか。響きがふんわりとして・輪郭が弱く・なかなか上等なムーディーな音楽ですが、朝靄のなかに朝日が差すような爽やかさが欲しいと思うのです。しかも、どの楽章でも叙情的な中間部分になるとちょっとテンポを落として・情感に甘く浸るので、印象がどうしてもヤワい感じなのです。ダイナミクスを心持ち押さえ気味のように思えるのもちょっと不満に思います。第2楽章などラトルならもっとリズムを明確に刻んで仕掛けることができたであろうに、全体にキリッとした表情が乏しいので、ラトルがこの交響曲にマーラーの世紀末的感性の何を見ているのかが最後まではっきり分かりませんでした。


○2011年2月12日ライヴ

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

リズムをしっかり取って・表情の変化を極端につけることをせず、古典的な印象が強い演奏に仕上がりました。その分・スケールは小振りな感じで・ダイナミックなオケの動きは抑えられた感じもあって・若干地味な印象もありますが、第2楽章は造型が引き締まって・シューベルトのどこかひなびた味わいもあって、なかなか手堅い表現です。ちょっと意外に感じましたが、後半第3〜楽章などはラトルならば音楽の勢いをつけてダイナミックに迫るかと予想しましていましたが、そこのところはしっかり手綱を持ってリズムが逸るところを押さえてオケをドライヴしていたのにも感心しました。おかげで古典的な印象が全曲一貫して好ましい演奏になったと思います。


○2011年3月29日ライヴ

ブラームス:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、東日本大震災ユニセフ救援基金コンサート)

同年3月11日に起こった東日本大震災のユニセフ救援基金コンサート。前半がバレンボイム指揮ベルリン国立管弦楽団、後半がラトル指揮ベルリン・フィルというプログラム。ラトルのブラームスは構えは大きいですが、表現がロマンティックに重い方向へ傾き気味で、リズムが前面に出る場面・例えば第3楽章などはなかなか良いのですが、叙情的な旋律にあるとリズムが重めに表現が甘ったくなるところがあり、全体的にもう少し表現の一貫性が欲しいと思います。その不満を強く感じるのが第4楽章のパッサカリアで、中間部分が重くなるので形式感が損なわれています。この楽章には表現にもっと締まったところが欲しいと思います。第2楽章の表現がもたれて重ったるい感じに聴こえるのも、バランス的に良くないと感じます。いまひとつラトルがこの曲に求めるイメージが伝わってこない感じがします。


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