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カラヤンの録音(1987年1月〜6月)

1987年1月1日:ウイーン・フィルのニューイヤー・コンサートを初めて指揮。


○1987年2月

ムソルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール, 独グラモフォン・スタジオ録音)

カラヤンの得意曲でもあり・悪かろうはずがないですが、各曲の個性を見事に描きわけて・パノラマのように展開していく情景描写が、ぴったりと枠のなかに収まって間然とするところがない。各曲のバランスが実に良いのです。ベルリン・フィルのくすんだ暗めの音色が、ビイドロやカタコンベなどで生きています。終曲「キエフの大門」でのスケールの大きい・息の長い表現の見事さが言うまでもないことです。


○1987年2月1日ライヴ-1

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポを若干速めにとって・引き締まった造形で、勢いのある演奏で・一気に聴かせます。特にベルリン・フィルの高弦が力強く魅力的です。強弱の変化がかなり大きく・各変奏の性格をきっちりと描き分けて構成の密度は高いのですが、テンポが全体 的に早めのせいか速いテンポの変奏において窮屈な感じが若干なしとしません。


○1987年2月1日ライヴー2

ブラームス:交響曲第1番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルのやや暗めの音色も渋いくて・いかにもドイツ的に感じられます。全体としてやや遅めの・たっぷりしたテンポを取り、旋律をゆったりと歌い上げ、ロマン性豊かな演奏になっています。第2楽章はゆっくりしたテンポで特に味わいが深いと感じます。恰幅の良い演奏になっていますが、この演奏でのカラヤンはテンポが意外と揺れる感じがあり・いつもより感情移入が強いようです。第1楽章でも 表情にメランコリックな印象が強いようですし、第4楽章はテンポの振れが特に大きく・終結部においてはカラヤンにしては珍しく最終音を二倍以上長く引っ張り・芝居っ気を感じます。 終演後の観客はかなり反応しているようで・これもライヴならではということでしょうが、どこか密度の粗い演奏の印象がしなくもありません。


○1987年3月1日ライヴ−1

モーツアルト:交響曲第29番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポ設定も良く・落ち着いた佇まいで、安心して聴ける演奏です。四つの楽章がしっかりとまとまった構成感も感じさせます。この曲にはディヴェルティメント的な軽さと遊び心も必要かと思いますが、その点ではベルリン・フィルの高弦にちょっと線の強さがあるようです。リズムにふわりとした軽みが加わればさらによい出来であったろうにと思われます。


○1987年3月11日ライヴー2

ベルリオーズ:幻想交響曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

カラヤンの「幻想」は奇怪さとかグロテスクさというのはあまり感じませんが・ベルリオーズのスコアにあるものを忠実に淡々と音化したという感じで、標題音楽としての各楽章の性格を見事に描き出していると思います。ベルリン・フィルは舌を巻くほどうまいと思います。しんしんと冷えるような弦のピアニシモから爆発する金管のフォルテまで、ダイナミクスが実に大きく、色彩とリズムが飛び散るような感じがします。その点で第4・5楽章はオケの威力の見せ場ですが、むしろカラヤンの「幻想」たる所以は前半にあるかも知れません。第1・2楽章では狂熱の愛というよりは真摯な愛を感じるから不思議です。ベルリン・フィルの弦でニュアンス豊かに旋律を歌い上げます。第3楽章の寂寥感も見事。これが第4・5楽章の狂気に転じていくのは分かる気がします。カラヤンの設計のうまさをまざまざと実感させます。


○1987年4月13日ライヴ

ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

カラヤンにとって手慣れた曲であり・安心して聴けますが、晩年の演奏では・オケの手綱を若干緩めて・オケに委ねたようなところが見えます。そのせいかところどころ響きに濁りがあったり、リズムが乱れるような箇所が散見されるようです。ベルリン・フィルの暗めの色調を生かした演奏はしっとりと落ち着いた印象がありますが、ここでもカタコンブのようなテンポの遅い曲では哀愁を感じさせる良い出来です。ババ・ヤーガや終曲キエフの大門での語り口の巧さは相変わらずで、オケを鳴らしきったスケールの大きい演奏で締めくくられます。


○1987年4月19日ライヴ−1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

テンポをこころ持ち早めにとったスケールの大きい演奏です。スケールは大きいですが、しかし、アタックやダイナミクスの変化を抑えることにより、全体の印象をマイルドで落ち着いたものにしています。これでこそシューベルトの歌謡性が生きるのです。第1楽章の表現は厳しいのですが、そのなかで第2楽章の息の長い歌いまわしが印象に残ります。第2楽章も落ち着きのある表現で、第1楽章とのバランスもとても良いと思います。


○1987年4月19日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」

アントニオ・メネセス(チェロ独奏)
ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ソリストがオケのなかに組み込まれ・一体となった音画と言うべきか。逆に言えば指揮者とソリストが火花を散らすような演奏ではないわけですが、カラヤンがその手の上でメネセスを自由自在に泳がせている感じで・しかしすっかり手のなかに入っているというわけで、この演奏は86年1月のスタジオ録音よりそういう印象が強いようです。カラヤンの語り口の巧さは言うまでもありませんが、ひとつひとつの音が意味を持って鳴り響いている感じであり、やはりカラヤンとシュトラウスは相性が良いと感じます。鳴るべき音がそのように鳴っているということの幸福を感じさせます。


○1987年4月30日ライヴ−1

モーツアルト:ディヴェルティメント第17番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、
ベルリン市制750周年記念行事オープニング・コンサート)

やや早めの快適なテンポとベルリン・フィルの流麗な弦の響きが素晴らしく、特に第1楽章は音楽が鏡面を滑るように流れていく心地がします。ベルリン・フィルの弦はやや硬質で・もう少しふっくらした柔らかさがあればという気もしますが、この辺は好みが分かれるところか。しかし、曲が進むについれて・表情がほぐれてくるような感じがします。第4楽章メヌエットのゆったりと優美な音楽作りが魅力的です。最終楽章もテンポが心地良く、生き生きした表現です。


○1987年4月30日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、
ベルリン市制750周年記念行事オープニング・コンサート)

全体としてむしろあっさりした感触を受けるほど簡潔な表現で、手練手管を使わず・ストレートに曲に向かっている印象なのは、この曲を手に入れている強みなのでしょう。演奏の密度が非常に高く・全体の構成への配慮が行き届いている印象を持ちます。冒頭「背後世界者について」でのベルリン・フィルの合奏能力全開とも言えるスケールの大きな表現。「大いなる憧れについて」では過度に歌い上げることはせず・むしろ抑えた表現が味わい深いと思います。「踊りの歌」にも同じことが言えます。あっさりした味わいながら・豊かで健康的な感性を感じさせます。ベルリン・フィルは色彩的な響きですが・決してけばけばしい感じはなく、まさにこれはドイツのR.シュトラウスだと感じる重厚な響きです。メカニカルなところはまったくなく、すべての表現が生きていると感じます。 実に見事な演奏です。


○1987年5月24日ライヴ

シューマン:交響曲第4番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

生前のカラヤンが許可した数少ないライヴ録音。カラヤンはこの交響曲を得意にしましたが、交響詩のような緊張感を持っていた壮年期のカラヤンの演奏と比べると、この演奏ではフォルムの締め付けが弱まっている感じがします。ウイーン・フィルは柔らか味がある響きで素敵です。両端楽章においてテンポが若干遅くなった感じで・表情がゆったりとしてスケールが大きい演奏になっています。しかし、中間楽章においてやや緊張が緩んだ感じがするのがちょっと残念です。

 


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