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カラヤンの録音(1983年7月〜12月)


○1983年8月15日ライヴ

ブラームス:ドイツ・レクイエム

バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ独唱)
ヨセ・ファン・ダム(バリトン独唱)
ウイーン楽友協会合唱団
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

思いのほか線の太い演奏であると感じました。音楽の流麗さより・言葉を大事にした演奏で、特に第2部にそれを強く感じました。合唱もドイツ語の子音の発声を意識したような感じで、ゴツゴツした印象があります。それだけに音楽の持つ力が直接的に聴き手に迫ってくるようです。各楽章の正確はくっきりと描き分けられており、設計が実に見事です。カラヤンは旋律を優美に響かせるよりは・簡潔で力強い表現を目指しているようです。第6部は実にダイナミックで、音の塊りが聴き手にぶつかってくる迫力があります。ウイーン・フィルは第1楽章序奏などの弱音において繊細な美しさを見せます。ヘンドリックスの歌唱は澄み切って実に美しいと思います。対するダムの独唱は線が太く、この対比も効いています。


○1983年8月27日ライヴ−1

ブラームス:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク祝祭大劇場)

気力充実した見事な演奏です。カラヤン/ベルリン・フィル絶頂期の演奏ですからテクニック的に最高なのはもちろんですが、表現が筋肉質的に引き締まって実に若々しく、一分の隙もありません。リズムは完全に打ち切れていて、早めのテンポであるにも係わらずセカセカした感じがまったくありません。音楽が推進力に満ちていて曲を一気に聞かせる密度の高い表現です。全体に早めのテンポですが、第1楽章はややテンポに余裕を持たせて伸びやかに旋律を歌わせています。一方で第2楽章以降を早めにとって、第4楽章に圧倒的なクライマックスを持っていく・その設計に有機的な統合が取れて、すみずみまで曲を見渡したような・明晰な印象を受けます。全体がみずみずしく透明な印象はそこから出てくるものかと思います。


○1983年8月27日ライヴー2

ブラームス:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ザルツブルク祝祭大劇場)

83年ザルツブルクにおけるブラームス・チクルスは、4つの交響曲すべてに速めのテンポを基調とした簡潔な引き締まった表現を一貫して追求しているように思われます。しかし、この第4交響曲ではブラームスが形式という器になかに盛り込もうとした情感が溢れ出るような感じで、古典的というよりロマン的な様相を呈してきています。こうしてみると、第1楽章でのカラヤンの表現はちょっとすっきりと整理され過ぎの感じがなくもありません。しかし、第2楽章の中間部・あるいは第4楽章の中間部などはスッキリとした表現のなかに澄み切ったような情感が感じられ、実に美しいと思います。ベルリン・フィルの弦の力強さ・輝かしさを特筆に価します。特に第4楽章パッカリアはベルリン・フィルの威力全開という感じの圧倒的なフィナーレです。


○1983年8月28日ライヴー1

ブラームス:交響曲第1番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク祝祭大劇場)

これは超名演。速めのテンポの簡潔な表現のなかに曲全体に躍動感が満ち溢れています。それでいて旋律がよく歌われていて、しなりがあって量感も申し分ありません。ベルリン・フィルの重厚な響き、特に鋼のように強靭な弦の響きはブラームスの音楽の魅力を満喫させてくれます。特筆すべきは、カラヤンの音楽作りが各楽章を有機的に緊密に結びつけ、全体がスッキリと見渡せるような明晰さを保っていることです。どの楽章も素晴らしいのですが、第2楽章のちょっとテンポを遅めにとって・旋律をたっぷりと歌い上げた表現がこの緊張感ある演奏のなかでは心に残ります。第4楽章はテンポは速めに進みますが、終結部においてはテンポをちょっと落として壮大に締めくくります。


○1983年8月28日ライヴ−2

ブラームス:交響曲第3番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク祝祭大劇場)

これも気力充実の演奏です。全体に早めのテンポで簡潔な表現を目差していると言えますが、同時に旋律をたっぷりと歌わせたロマンティックな演奏になっています。特に第1楽章は壮麗とも言える見事な表現だと思います。第3楽章は粘らず・さわやかな感触ですが、歌心のある表現になっています。全曲を通じて無駄のない緊密な表現で、明晰な印象があると同時に、ブラームス独特の量感においても申し分ありません。


○1983年9月28日、1984年2月19日

ビゼー:劇付随音楽「アルルの女」第1組曲・第2組曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ラテン的なコントラストの強い・燦燦と陽光が射し込むちょっと貧しい南欧の農村風景と言うよりも・むしろ日射しの柔らかい豊かな田園風景を感じさせますが、それはそれで良いのではないでしょうか。独特の粘りを感じさせるところは好みの分かれるところかも知れません。前奏曲や「カリヨン」・「パストラーレ」ではゆったりしたテンポで細密画を想わせるような表現。響きは磨き上げられて・ディテールまで精妙に描かれます。ドラマというより・心象風景の音楽なのです。「メヌエット」では旋律を息長く歌い上げて・耽美的と言えるほどに美しいと思います。

 


○1983年12月1日〜3日、5日

ベートーヴェン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

12月3日のライヴについては別に記しましたが、スタジオ録音は完璧な出来だと思います。全体の均整が取れていて・ギリシア神殿のような格調を感じさせ・いかにも古典交響曲らしい佇まいを見せています。四つの楽章のバランスが良く、音楽の流れが実に自然です。ちょっと佇まいが落ち着きすぎという不満を感じる向きかも知れないと思うほどですが、これほどの格調の高さなら仕方ないところ。演奏は特に前半にカラヤンのよさが出ていると思います。第1楽章序奏部から展開部への移行も実に自然。流麗さのなかに煌めくような光と香気を感じさせます。第2楽章もゆったりとした・滔々たる大河の流れを想わせます。第3〜4楽章もオーケストラをリズムで急かすところがなく、自然で大きな動きを作り出しています。


○1983年12月3日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

気合いが入っているというか、カラヤンにしては妙に肩に力が入った演奏のように思われます。壮麗な構えの演奏なのですが、この曲の本来あるべき姿よりも立派過ぎるようにも思われ、多少威圧的に感じられます。第2楽章は早めのテンポで流れるような演奏ですが、私の好みだともう少し遅めで安らぎを感じさせる演奏の方が好きではあります。それにしても妙に響きに神経質的なとげとげしさがあるような気がします。第3・第4楽章にはいっても、この感じが解消されません。心なしか、この頃のカラヤンとベルリン・フィルの感情的な諍いがこの演奏に微妙な影響を与えているようにも感じられます。


○1983年12月3日ライヴ-2

ベートーヴェン:交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体を早いテンポで通していますが、リズムで構築されているようなこの交響曲を、そのリズムの刻みを強調するのではなく・むしろそのリズムの角を取り除いて滑らかにしたことを目指したような演奏です。したがって音楽の推進力はあるのですが、リズムの推進力をあまり感じさせない演奏です。これまで聴いてきたカラヤンのこの曲の演奏とはちょっと異なる印象を受けますが、別の意味でカラヤンらしいと言えないこともないかも知れません。そう考えると第1楽章も納得いく演奏だと思います。角が取れて滑らかですが・エネルギーを感じさせるのはやはりリズムがしっかりと打ち込まれているからなのです。第2楽章も流れるような優美なアレグレットです。第4楽章はオケが迫力ある動きを見せますが、ここではやや力任せで・リズムが上滑りする感じがあって、ベルリン・フィルにしては珍しくアンサンブルに乱れが見られるのが残念です。


○1983年12月28〜31日-1

ウェーバー(ベルリオーズ編曲):「舞踏への勧誘」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

こうした曲をカラヤンが振るとそのうまさは比類がありません。序奏の男女の語り合いの場面の優雅さ・舞踏会の華麗さといい、この曲の魅力を余すところなく引き出しています。ワルツのリズムの刻み方などウイーン風のちょっとした間合いが実にしゃれていて、夢のような気分になされます。71年のベルリン・フィルとの録音より響きがさらに艶と色気が増した感じで・見事としか言いようがありません。


○1983年12月28日〜31日−2

スメタナ:交響詩「モルダウ」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

こういう曲を振らせた時のカラヤンのうまさは言うまでもありませんが、刻々と変っていく情景を見事に描写しています。月光の場面のベルリン・フィルの弦の透明な美しさは例えようがありません。旋律の歌い方が実に伸びやかで自然なのです。


○1983年12月28日〜31日ー3

リスト:交響詩「前奏曲」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

テンポをゆったりとって・オケを伸びやかに歌わせた叙情的な部分の透明な美しさは格別です。67年のベルリン・フィルとの録音の引き締まった造形も捨て難いですが、こちらの方が全体がふっくらとしてスケールが大きくなった感じです。


○1983年12月28日〜31日ー4

リスト:ハンガリー狂詩曲・第5番「悲しい英雄物語」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

重厚な味わいの演奏です。テンポを遅めにとって旋律をじっくりと慈しむように歌い上げていきます。中間部の透明な美しさはカラヤン/ベルリン・フィルならではです。


○1983年12月28日〜31日ー5

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

極彩色でスケールが大きく・パノラマ映画を見るが如くに繊細かつダイナミックな表現です。テンポをゆったり取って・音楽が実にたっぷりとしています。特に冒頭のチェロ独奏の旋律が心に染み入るように美しく感じられます。四つの場面を的確に描きわけていて・さながら見事な小交響曲を聴く想いです。


1983年12月31日ライヴ−1

ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これは名演。こうした曲でのカラヤンの語り口のうまさは言うまでもありませんが、「朝」の部分は旋律をたっぷり聞かせるというより・むしろあっさりと聞かせて、後半の「嵐」・「スイス軍の進軍」にクライマックスを合わせていく設計 のように思われます。その表現の幅の広さはオペラの序曲というよりは、小交響曲的なこの曲を交響詩的に扱っている感じですが、それでいて重たい感じが全くないのです。オーケストラ・ピースとしての面白さを十二分に表現している と思います。


1983年12月31日ライヴ−2

スメタナ:交響詩「モルダウ」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これも素晴らしい演奏。比較的早いテンポであっさりとした歌い回しは、重い表現になるのを意識的に避けているような感じでもあります。モルダウ川の主題の息の長い歌い回し。農民の踊りのリズム処理のうまさなど、描写音楽として実によく練り上げられている と思います。と同時に、民族音楽としての素朴さも表現されていると感じられるのです。月の光にキラキラと輝く水面の描写の弦のピアニシモの清冽な美しさはまさにベルリン・フィルだけのもので す。


1983年12月31日ライヴ−3

シベリウス:悲しいワルツ

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これはもう絶品の演奏です。ジルベスター・コンサートのプログラムの最後に置かれた曲ですが、この日の演奏のなかで最も感銘深い演奏です。前半の悪魔的な不安と恐怖に満ちた旋律とリズム処理。リズムは コンサート前半のそれまでの2曲から一転して重く・糸を引くように粘ります。それが深層心理の深く暗い深淵を覗かせるかのようで、背筋が思わず寒くなるようです。それがやがて激しいリズムに次第に変化してい って、恍惚の状態に変化していくさまが見事に描き出されています。引き込まれるような見事な表現です。フィナーレの寂寥感も素晴らしくて、聴き終わってため息が出るばかり です。


○1983年12月31日ー4

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

カラヤンらしくロマン性豊かに歌いあげたスケールの大きい演奏です。第1楽章ではある種の悲劇性を秘めた厳しさが漂います。それだから優美な第2主題に安らぎへの憧憬の感情が現れるのです。第2楽章はさらに美しく情感が深い表現です。ベルリン・フィルの繊細な響きがこの曲のロマン性を余すことなく表していて、この2楽章で終わった交響曲の構成の完璧さを主張しているようにも感じられます。


○1983年12月31日ー5

ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「うわごと」
ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

「うわごと」はカラヤンのお好みのワルツのひとつ。やや編成の大きいベルリン・フィルを使って華麗な演奏に仕上げていますが、本来はもう少し小振りの曲かも知れません。ワルツのリズム処理にカラヤンらしいうまさと艶がありますが、ホントに微妙なところでリズムがちょっと強めになるのはベルリン・フィルのせいか。とは言え、それは高レベルでの話であって・楽しませる演奏であるのは間違いありません。「ジプシー男爵」はオペレッタの序曲としてはちょっと重い表現ですが、リズム処理が抜群にうまく楽しめる演奏です。


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