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カラヤンの録音(1969年)

1969年2月:パリ管弦楽団芸術監督に就任。(〜71年10月)
1969年5月25日:モスクワで作曲者を前にベルリン・フィルとショスタコービッチ:交響曲第10番を演奏。


○1969年1月3日〜6日

ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
エーリッヒ・シェロー(語り)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

シェローの語りは最後の部分で少し入るだけで・ほとんど音楽だけでつなげられているので、ドラマ的には少し分かりにくいところがあるかも知れません。序曲冒頭は少しテンポを遅くしている感じですが・展開部からはテンポを早くして緊迫感を増していく劇的設計で聴かせます。ベルリン・フィルの渋い響きと、引き締まった表現が素晴らしいと思います。全体としてはあくまで劇付随音楽なので・音楽だけで主張するような感じはなく、その意味ではカラヤンは客観的に曲に対しているようです。ヤノヴィッツは折り目正しい美しい歌唱です。


○1969年5月28日ライヴー1

ベートーヴェン:コリオラン序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

この時期のカラヤンらしく速めのテンポで描き上げ、一刀彫りのような勢いと力強さを感じさせます。特にベルリン・フィルの弦の力強さが魅力的で、充実した演奏になりました。


○1969年5月28日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

この時期のカラヤンとベルリン・フィルらしく・・早いテンポで一気に突き進む演奏で、全曲を通して無駄のない・引き締まった表現が魅力的です。特に第1楽章が早いリズムに畳み掛けるような迫力があり・とても気合いが入った演奏になっていると思います。第2楽章は心持ち早めに感じられますが、前楽章の勢いをそのまま持ち込んだかのようで、このバランスが全曲を締まったものにしていると感じます。第3〜第4楽章も力のこもった熱い出来で・クライマックスに向かって一気に駆け上がる迫力があります。ベルリン・フィルの重厚・かつ引き締まった弦の響きが魅力的です。


○1969年5月28日ライヴー3

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

この時期のカラヤンらしい解釈で・早いテンポはスポーツカーで田園を疾走するが如くという感じでもありますが、特に緊張感あふれる熱い第5番の演奏の後ではこのスタイリッシュな感じが・とても爽やかに感じられます。心地よく展開する音絵巻がキラメクように感じられ、純音楽的表現に重きを置いているようです。しかし、この演奏のクライマックスは第3楽章から第5楽章にあるようです。特に嵐の迫力ある表現から田園が晴れ渡っていく場面の語り口はカラヤンならではの巧さがあります。


○1969年6月6日ライヴ

ブルックナー:交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール)

カラヤンの第7交響曲と聞くといつも感じられる響きの抜けの良さ・音楽の線が天高くどこまでも上へ上へと伸びていくような崇高感があるのは、そのしっかりとした音楽の足取りにあると思います。特に前半2楽章の出来が素晴らしいと思います。滔々とした流れのなかに澄み切った叙情があって・それが宗教的な高みにまで高められていると感じます。第3〜4楽章でのリズム処理・オケのダイナミックな動きの見事さも言うまでもありません。ベルリン・フィルの渋い輝きを放つ金管も見事です。カラヤンとブルックナーとの相性の良さをつくづくと感じます。


○1969年8月5日〜7日

アルビノー二:弦楽とオルガンのためのアダージョ
パッヘルベル:カノンとジーク
ボッケリーニ:小五重奏曲「マドリッドの夜警隊の行進」
レスピーギ:リュートのための古代舞曲とアリア・第3組曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(サン・モリッツ、フランス教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

テンポはどの曲も遅めで、ベルリン・フィルの弦が実に繊細・かつ艶やかで、旋律を粘りを感じさせるほどに・じっくりと息長く歌わせています。濃厚なロマンティシズムを感じさて、古楽ファンには抵抗がありそうです。確かに曲本来の感触とは違いようですが、カラヤンはそれを承知でやっていることと思います。美しい旋律から過ぎ去ってしまった日々への追憶と哀しみの情感がふつふつと湧き上がってくるように感じられます。特にアルビノー二のアダージョはそれを感じさせます。カラヤンの旋律の息遣いは実に深く・情感のなかに聴き手を浸らせるヒーリング効果が確かにあるようです。レスピーギは ベルリン・フィルの弦の艶のある色彩的な、息の長い旋律の歌いまわしなど、カラヤン/ベルリン・フィルの魅力に溢れています。イタリアーナやシチリア舞曲では、ゆったりしたテンポと深い息遣いのなかに、世の喧騒を忘れて遥か昔の思い出に誘うような癒しの感覚があります。一方、パッサカリアでは弦のぶ厚い響きのなかでリズムが生きており、古典的格調が感じられる演奏になっていて見事です。


○1969年8月8日〜11日

オネゲル:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(サン・モリッツ、フランス教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

ベルリン・フィルにはフランスのオケのような響きの透明さはなく・暗めですから、曲冒頭の重苦しい雰囲気がより伝わって来きて、とても面白い演奏に仕上がりました。そこに時代の不安感・閉塞感がよく表現されています。第3楽章の早めのテンポの楽章でさえも、決して晴れ晴れすることのない鬱屈した思いが全体を覆っています。 それだけに最後のトランペットの響きが救いのように感じられます。

 


○1969年8月27日ライヴ

ブルックナー:交響曲第5番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

第5交響曲は後期のものよりもブロックの細部からの積み上げという印象が強いので・指揮者の構成力が試されると思います。テンポをしっかり取ってフォルムを抑えていくカラヤンの行き方はこの交響曲に合っていると思います。特に前半楽章の出来が良いと思います。第1楽章はテンポを心持ち速めに取って・引き締まった造形がかっちりした骨組みを感じさせて安定感を感じます。第2楽章もゆったりとした流れが美しいと思います。ウイーン・フィルは高弦が引き締まり・金管は渋い輝きを放ちます。密度が高い名演だと思います。


○1969年9月20日〜22日

R.シュトラウス:オーボエ協奏曲

ローター・コッホ(オーボエ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

コッホのオーボエは旋律を息長くとらえて・伸びやかで、聴いていて心地良く感じられます。特に第1楽章が朝日が差し込むようでまことに美しい出来です。カラヤンの伴奏もコッホのソロをまるで包み込むようで素晴らしいと思います。


○1969年9月23日

オネゲル:交響曲第3番「典礼風」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

ベルリン・フィルに響きは暗く湿った感じで、フランスのオケのような透明さと明るさがないだけに、その分、この曲全体を支配する祈りの感情には強い切実感があって、これが聴き手に重くのしかかってくるように感じられます。とても説得力のある演奏であると感じます。ベルリン・フィルの高弦の力強さが魅力的です。

 


○1969年9月24日・26日-1

スッペ:喜歌劇「軽騎兵」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

いわゆる通俗名曲と呼ばれる曲ですが、カラヤンはこうした曲でも真正面から対しています。60年代前半と比べるとベルリン・フィルの響きが次第に明るいものに変化しているようで、それがこの曲にも似合っています。マーチは確かにリズムが重めですが、これを造形が立派過ぎるというのは贅沢というものです。中間部の哀愁を帯びた調べがこれほど痛切に響く演奏も少ないと思います。


○1969年9月24日・26日ー2

スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

喜歌劇の序曲がこんなに立派な音楽になってという感じもありますが、スッペの音楽からこんなに豊かな音楽性を引き出したのには感嘆のほかありません。それでいて大編成オケの仰々しさもありません。特にゆったりと情緒豊かに歌いあげられるチェロの独奏から中間部への展開の表現の細やかさ・繊細な造形は見事で、スッペの音楽性をよく生かしています。後半はベルリン・フィルの威力が十分に発揮されています。こうした曲にも真正面に取り組むカラヤンの姿勢にはいつものことながら頭が下がります。


○1969年9月24日・26日ー3

スッペ:喜歌劇「スペードの女王」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

オケの響きは厚いのですが、リズムが斬れているので・その重さがまったく気にならないのは、ベルリン・フィルの巧さです。中間部の木管の絡み合いが実に美しいと思います。

 

 


○1969年11月25日〜27日、29日

フランク:交響曲

パリ管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMI・スタジオ録音)

カラヤンとパリ管との組み合わせは、ベルリン・フィルとは違った響きの透明さと軽さを持ち、現の斬れと力強さと言う点でもまたちょっと違った感覚があります。ベルリン・フィルを振ってのものならば重量感があって・響きが固まりのように聴き手にぶつかってくる演奏に仕上がったでしょうが、ここでのパリ管は力強さを持ちながらも・シャープであり、そこにラテン的な明晰な感性が感じられます。特にリズムの斬れが印象的です。旋律の歌い上げを直線的にシャープに取り、勢いをもって一気に描き上げたような交響詩的な密度がある演奏に仕上がっています。全体のテンポを早めにとって・たたみ掛けるように進めていく第1楽章は迫力があります。第2楽章は粘らず・流れのスッキリした情景を作り出しています。第3楽章も旋律を大きく取って、ロマンティックな密度を保っており、しかも、それが過度に濃厚に粘ることがありません。カラヤンの構成力が生きています。


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