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カラヤンの録音(1962年)

1962年2月5日:ウイーン国立歌劇場芸術監督を辞任。ウイーンを去る。


○1962年2月13日ー15日

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

全体に早めのテンポで・一気に駆け抜けた感のある演奏で、発表当時は「スポーツカーで田園を疾走するかのような流線型の演奏」などと言われたものです。 しかし、ベルリン・フィルの線が太い・色調の暗めの響きで描かれた「田園」は今聴くと、むしろ油絵具で描かれたプリューゲルの農民画を見るような感じがします。聴き終わって情景描写による音のドラマというよりは、純音楽的表現に徹した一幅の絵を見るような感じを受けるのです。優れているのは第2楽章で、軽やかに純音楽的に流れていくなかにも濃厚な味わいがあります。一方、第1楽章はややリズムが前面に出過ぎで、ベルリン・フィルが重量感ある動きをもてあまし気味の感なしとしません。第4楽章「嵐」はベルリン・フィルの合奏力が生きており、稲妻の閃光の鋭さはハッとさせます。第5楽章は自然への喜びを味わい深く歌い上げます。


○1962年3月9日−12日

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

早いテンポで曲を押し進め、一分の隙もない引き締まった力強い造形の名演です。若さと自信が全体にみなぎっています。リズム叩きつけるように進める・その推進力の強さは確かにトスカニーニを想わせます。しかし、これは決してトスカニーニの亜流の演奏などでは決してありません。前任フルトヴェングラーが最も得意にしたこの曲をカラヤンが録音するのに、どれほどの準備と覚悟が必要であったかは想像もできません。フルトヴェングラーが偉大であればあるほど、それを乗り越えるためにカラヤンは全く新しいスタイルを創り出す必要があったのです。「カラヤン/ベルリン・フィル」というと、今の私たちはインターナショナルなヴィルトゥオーゾ・オーケストラのように思いますが、この録音でのオケの響きはまさに黒光りする重厚なドイツのオケの響きなのです。これはまさにフルトヴェングラーとトスカニーニという偉大な個性をカラヤンが引き継ぎ、一筆書きで描き上げたという感じの「運命」なのです。全体に緊張感が張り詰め、建造物のようながっしりした構成感が実感できます。ベルリン・フィルの高弦の鋼鉄のような力強さ、低弦の分厚い響きをドイツ音楽の正統性を高らかに主張しています。特に第4楽章は輝かしい表現で、クライマックスに向かって突き進んでいく迫力が実に素晴らしいと思います。


○1962年3月14日、11月9日

ベートーヴェン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

壮年期のカラヤンの力強い演奏です。解釈としてはトスカニーニに近いものを感じますが、第3番と第5番の奇数交響曲につながるものをこの曲に見出そうとしているようにも思われます。力強いリズムの刻みと・それが生む出す推進力によってそうした印象が生まれるのです。第1楽章はその好例です。しかも、それだからと言って決して大柄で威圧的な演奏になっていないのです。第2楽章は旋律の息を大きくつかんだ簡素で美しい表現です。全体を早めのテンポで通して、がっちりとした構成感を感じさせる名演です 。


○1962年10月8日・9日、12日・13日、11月9日

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(S),ヒルデ・レッスル=マイダン(A)
ワルデマール・クメント(T)、ヴァルター・ベリー(B)
ウイーン楽友協会合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

全体にテンポ速めにして・造形の線が太く・音楽が明快です。特にベルリン・フィルの高弦の力強さが効いています。スケールの大きさを追及するというよりも・内に凝縮する力を感じさせる密度の高い演奏です。演奏は両端楽章が傑出しています。第1楽章は造形が明快なうえに・リズムの推進力が素晴らしく、音楽がグイグイと進んで行く感じです。中間2楽章がやや小振りと言うか・淡くサラリと感じられるのも、第4楽章への流れを考えると納得が行きます。第4楽章ではカラヤンの声楽陣の扱いの巧さが生きています。引き締まった端正な造形から古典的な美が感じられます。特にベリーのバスは声が明るめなこともあって・その力強い歌唱が印象に残ります。


○1962年11月11日〜15日

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

60年代のカラヤンらしい・内に凝縮する表現ベクトルを感じさせる・引き締まった演奏です。第1楽章は推進力を感じさせ・表現に無駄なものをまったく感じさせません。第4楽章も速いテンポで一気に描き上げる勢いがあります。四つの楽章が緊密に関連しあっていると感じます。インテンポで淡々と曲を進めており、余計な感情移入をせず・音だけに語らしめようとするかのように感じられる点では、トスカニーニに近いコンセプトだと言えます。第2楽章はそのため聴きようによってはアッサリした感じに聴こえかねないかも知れませんが、これが曲全体を引き締まったものにしていると思います。ベルリン・フィルの弦の低重心の力強い響きはドイツのオケらしい意志の力を感じさせるものです。


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