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ウラディミール・ホロヴィッツの録音(1960年〜1969年)


○1966年11月13日ライヴ

ハイドン:ピアノ・ソナタ第23番 ヘ長調、シューマン:花の曲 変二長調 Op.19
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 Op.35 「葬送」
ドビュッシー:前奏曲集第2巻より、第5曲「ヒースの荒野」、第4曲「妖精たちは良い踊り子」、第7曲「月の光が降り注ぐテラス」、 ドビュシー:喜びの島
リスト:巡礼の年 第1年:「スイス」より、第6曲「オーベルマンの谷」
スカルラッティ:ソナタ ホ短調 K.380、L.23
ショパン:ワルツ 第7番 嬰ハ短調 Op.64-2
ラフマニノフ:練習曲「音の絵」 ニ長調 Op.39-9

(ニュー・ヘイヴン、イェール大学 ウールジー・ホール)

力強い打鍵と冴えた技巧と色彩感で、どれも見事な演奏ばかりです。ハイドンのソナタは、両端楽章が軽快なテンポで純音楽的な愉しみに満ちています。テンポはハイドンの様式としてはやや早過ぎるのでしょうが、スタイリッシュで・どこか新古典的な感覚に仕上がるところがホロヴィッツらしいところです。得意のショパンの 葬送ソナタは、力強い響きが厳粛なほどに厳しい造形を聴かせており、実に見事なものです。特に第1楽章は息もtかせぬ緊張感に満ちていて、圧倒されました。 第3楽章葬送行進曲も悲壮感に満ちており聞かせます。ドビュッシーは音のひとつひとつが煌めく色彩が飛び散るようで、色彩の揺らめきで目が眩むような感覚に襲われます。特に「喜びの島」は、その爆発的なリズムが否応なく聴き手を興奮に誘って痛いほどです。ホロヴィッツのドビュシーの録音は多くはないですが、ドビュッシーの本質を突くものとして、これは忘れがたいもののひとつです。リストの「オーベルマンの谷」もスケールが大きく、精神性を感じさせる見事な表現です。アンコールではラフマニノフが圧倒されんばかりの推進力。

○1967年10月22日ライヴ

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番 Op.101 イ長調、ショパン:舟歌 嬰へ長調 op.60、夜想曲第15番 へ短調 Op.55-1、ポロネーズ第5番 嬰へ短調 Op.44、 スカルラッティ:ソナタ イ長調 K.101 L497 他5曲、 シューマン:アラベスク ハ長調、リスト:スケルツオとマーチ S.177、ショパン:ワルツ第3番 イ短調 「華麗なる円舞曲」 Op.34-2、メンデルスゾーン:エチュード イ短調 Op104b-3

(ニューヨーク、ニューヨーク市立大学クイーンズ校、コールデン・オーディトリアム)

ホロヴィッツのベートーヴェンは、ドイツのピアニストが弾くそれとはだいぶ違う趣きでが、それはそれで興味深いものです。第1楽章は抒情的な流れが美しくなかなか良いですが、第2楽章はまだ解釈に整理が付いていないようで す。付点リズムの跳躍を多用するシューマン的なリズムの跳躍は躍動感あって、ホロヴィッツの特質が生きて興味深いのですが、途中から造形が乱れて、表現がまだ未完成な印象です。第3楽章冒頭部の抒情的な部分はなかなか良いですが、後半部からの構成が弱い。まあ弾きこんでいくうちに流れは整理されていくものと思います。ショパンの舟歌は前半の弱音を基調にした場面はとても美しく魅力的ですが、後半部になると響きが強くなってややバランスを欠く感があ ります。夜想曲も中間部の響きがやや強いと思います。この傾向がポロネーズ第5番ではさらに強く、迫力があると言うよりも、勢いに任せて若干粗い印象がします。ということで、ホロヴィッツ得意のショパンだから部分ではもちろん面白いところはあるのですが、この日のホロヴィッツのショパンはやや神経質的な感じに聴こえ ます。プログラム後半はコンディションが持ち直して来ます。スカルラッティの5つのソナタは、粒の揃った色彩的な響きの移ろいが落ち着いた佇まいを見せます。シューマンは、ロマン的な 沈滞していく思索の流れが美しいですが、何と言っても圧倒的なのはリストで、驚異的なテクニックを冴えを見せて、悪魔的な凄みさえ感じさせます。アンコールではメンデルスゾーンが軽やかな指の動きが楽しめます。


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