(戻る)

フルトヴェングラーの録音(1953年)


○1953年4月15日

ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ(リハーサル風景)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、北西ドイツ放送局スタジオ)

通し演奏されていますが・リハーサル風景であり、演奏途中にオーケストラに指示を出すフルトヴェングラーの声が聞こえます。フルトヴェングラーは25日にヘッセンでの演奏会でこの曲を振っているので・本音源はそのためのリハーサルの収録と思われます。しかし、演奏はフルトヴェングラーのフランス音楽への理解の深さを納得させるとても素晴らしいものです。ドイツ音楽ではあれほど重厚な響きの当時のベルリン・フィルをこれほど透明かつ繊細な響きに導くことがここまで可能なのかと思われる見事なラヴェルです。響きのブレンドが絶妙。透明ななかにもやはりベルリン・フィルらいい色合いの濃さ があって・それがまた良いのです。しかも中間部の微妙な揺れ・伸縮するリズムのなかにラヴェルの震えるように繊細な感性が感じられて、感嘆するほかない出来です。


○1953年5月14日

シューマン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

フルトヴェングラーの数あるスタジオ録音のなかで最も優れたもののひとつだと思います。フルトヴェングラーがライヴで見せる即興性と響きの色合い、スタジオ録音でのフォルム・構成への配慮というふたつの要素が程よく調和して、フルトヴェングラーの最良の姿が聴けます。ベルリン・フィルの響きは暗めで・線が太く、テンポが遅くて・シューマンにしては重い感じでブラームス的な感じが多少気になりますが・さして問題ではなく、ドイツ的な濃厚なロマンティシズムが充満しています。素晴らしいのは第1楽章で、その自在なテンポが音楽の説得力を高めています。しかも、やりたいようにやっていて・ピッタリとフォルムが決まっていて・がっしりとした構成感を感じさせるのには感嘆させられます。この演奏の価値を高めているのは全体のなかでの中間2楽章のバランスが良いことです。第2楽章の物憂げな旋律はロマンティックではありますが、決して甘くならず粘りません。ベルリン・フィルの響きの微妙な揺らぎが実に美しく感じられます。第3楽章の終結部には心に染み渡るような哀切感があります。第4楽章はライヴならば興に乗ってもっとスピードを上げたかなと思いますが、ここではじっくりした足取りで・聴き手を煽らないのが好ましいと思います。


○1953年9月4日ライヴ−1

ベートーヴェン:コリオラン序曲

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ドイツ博物館ホール)

ウイーン・フィルの響きは渋く重くて、いかにもベートーヴェンらしい響きです。しかし、フルトヴェングラーのテンポ設計は展開部に入って急に速度を落としたり・中間部からまた速度を上げたりして不自然で理解に苦しみます。テンポの早い部分は劇的な表現で聴き手を圧倒しますが、この行き方で全体を統一できないものかと思います。


○1953年9月4日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第4番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ミュンヘン、ドイツ博物館ホール)

第1楽章序奏はテンポはやや早めで雰囲気も重苦しくなく、展開部への移行も自然でオーソドックスな行き方だと思います。第1楽章前半はあまりテンポを動かす感じではありませんが、中間部になると一旦ぐっとテンポを落として・またテンポを上げるあたりがフルトヴェングラーらしいというのか、よく意図が分らないところです。第2楽章前半はややテンポ早めですが、旋律を大きくとって落ち着いた表現になっています。しかし、ここでも中間部でテンポが落ちてもたれた感じになっています。全曲を通して店舗がふらふらして、どの楽章でも中間部でテンポが落ちます。これではオケの方も棒についていくのが大変だという気がします。テンポが早くなっても激するでもなく、全体に活気が感じられない不思議な演奏です。晩年のフルトヴェングラーの体調の悪さを反映しているのかも知れません。


○1953年9月15日ライヴ

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ティタニア・パラスト、ベルリン芸術週間)

フルトヴェングラーの死のほぼ一年前の演奏ということになります。42年の演奏と比べると、第1楽章の基本的解釈はほぼ変わりませんが、デーモンに突き動かされたような熱狂的な感じはなく・深刻な重苦しい感じがないので救われる気がします。第2楽章は木管の響きが過ぎし日々を回想させるような情感深い演奏で素晴らしいと思います。第4楽章は自在のテンポでオケを動かすフルトヴェングラーらしい表現ですが、あまり強引な感じはしません。興味深いことですが、42年の演奏には見られない安らぎ・というよりも諦観の情がいたるところに、特に第2楽章には濃厚に表れているように思われます。精神的にも深い味わいがあって、古典的格調も持った優れた演奏であると思います。


○1953年10月13日

ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」序曲(全曲録音からの抜粋)

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

冒頭から気合いの入った響きで・さすがフルトヴェングラーのベートーヴェンだと思わせます。終結部でのテンポの盛り上げも巧く、劇的・かつ引き締まった表現に仕上がっており、短い曲ながら聴き応えがします。


(戻る)