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フルトヴェングラーの録音(1930年代)


○1930年

R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

ベルリン・フィルが実にうまい。暗目の弦の響きがかもし出す濃厚なロマンティシズム、金管は渋く重みがあって、木管はユーモアたっぷりです。フルトヴェングラーは全体に早めのテンポをとって、スッキリとした古典的な感触に仕上げています。表現が自在で・しかもそのテンポの動きがぴったりと枠に収まっている感じで、これほど自由闊達な演奏なのに・不思議に整然とした印象が強いのです。この曲の模範的な演奏のひとつだと思います。


○1933年−1

ベートーヴェン:劇音楽「エグモント」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

前半部分が冴えない感じがします。テンポを遅めにとっているのはいいのですが、音の締りがなく・緊張感がいまひとつです。後半にテンポが速まると、木に竹を接いだみたいに表情が生き生きしてきます。あるいは前半と後半で録音日が違うのかなとも思います。後半部もちょっとテンポが早すぎで、オケを振り回すような感じが若干します。終結部はいったんテンポをぐっと落として・ぐいぐい加速していくのが、いかにもフルトヴェングラーらしい感じがします。


○1933年ー2

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

全体としては可もなく・不可もなくと言った感じです。リズムの軽妙さとさわやかさに欠けているのは仕方ない感じもしますが、表情は平凡です。テンポはフルトヴェングラーにしてはやや早めに感じます。ベルリン・フィルの音色はやや暗めで、オペラの序曲としては重い感じです。


○1933年ー3

モーツアルト:歌劇「後宮からの誘拐」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

テンポはえらく早いのですが・どこかセカセカした感じで。アンサンブルが粗いと思います。リズムが決まっておらず、曲の軽妙さが生きてこない感じです。


○1935年ー1

ロッシーニ:歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

いささか腰の重いロッシーニです。テンポの遅いのはまあいいとして、湧き上がっている躍動感に乏しいのは、やはりロッシーニには不向きです。特に前半は重い感じで、精神的なロッシーニと言うべきか。中間部からテンポは早くなっていきますが、オケが上滑りする感じなのも気になります。


○1935年ー2

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲と第3幕の導入曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

いわゆるライブ的感興には乏しいのですが、しっかりとまとまって・音楽の要求するものを十二分に表現しています。ロッシーニとは違って、やや暗めの湿り気を帯びたベルリン・フィルの作り出す音がまさにウェーバーの音楽にぴったりです。スタジオ録音のせいでしょうが、しっかりテンポを守って音楽を作っており・オペラティックな表現ではありませんが、表現に安定感があります。序曲の終わり部分ではテンポをちょっと早めて・フルトヴェングラーらしいところを見せています。


○1936年・1937年

モーツアルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

ベルリン・フィルの響きが暗めで、哀しみを感じさせるモーツアルトですが、どこか心を引きつけるところのある音楽になっています。まずテンポがしっかりととれていて、古典的構成が守られていること。歌うべきところをしっかりと歌い、しっとりと落ち着いた佇まいを見せているとです。控えめではあるが、音楽の枠をはみ出さない音楽にフルトヴェングラーの謙虚な人柄を思わせます。


○1937年

ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ポリドール・スタジオ、独ポリドール・スタジオ録音)

全体に重い感じで・弾けるような楽しさには乏しいのは仕方ないところですが、きっちり演奏してまずまずの出来だと思います。前半はテンポが遅いせいで表現が重いと思います。ワルツもリズムの取り方がいかにも生真面目ですが・折り目正しい感じあって、聴き手に媚びないところがフルトヴェングラーらしいところでしょうか。


○1938年2月11日

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベートーヴェン・ザール、独エレクトローラ・スタジオ録音)

当時のフルトヴェングラー/ベルリン・フィルの合奏能力の高さがまざまざと分かる演奏です。これがライヴであると熱狂のなかでうねりのある動きを見せるのかも知れませんが、クライマックスの高まりにおいても、その情熱は高まりこそすれ・熱に浮かされたようになることはありません。ある意味では醒めた演奏と言え るかも知れませんが、そこから透明感が救いのように湧き上がります。スタジオ録音のせいか・比較的早めのテンポでインテンポで曲を進めていくので、ライヴ神奉のファンには不満 でしょうが、逆にフルトヴェングラーのフォルムへの感覚の正しさを示すものです。ベルリン・フィルの響きは重厚で、特に弦の暗めの響きはワーグナーにふさわしいものです。


○1938年10月〜11月

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベートーヴェン・ザール、独エレクトローラ・スタジオ録音)

オケの響きの暗めの色調が印象的で、曲が進むにつれて感情移入が激しくなっていくように思われますが、曲の均整を崩すほどに大きな変化ではなく、抑制が効いているのはやはりスタジオ録音のせいでしょう。思いのほかスッキリした印象の演奏ですが、第1楽章第楽章の甘い主題の歌いまわしはこれがフルトヴェングラーかなと思うほど情緒たっぷりの甘い表現です。第3楽章終結部で大きくテンポを落とす大時代的表現がちょっと奇異に感じられます。


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