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アルフレッド・コルトーの録音 (〜1940年)


○1925年2月21日

ショパン:エチュード Op.25−1、ワルツ第7番 Op.64-2、即興曲第2番 Op.36

(カムデン、ニュージャージー、ビクター・スタジオ録音)

比較的インテンポを守っており、全体にかっきりした印象があって聞きやすい演奏だと思います。。エチュードは端整な作りに仕上がっており、ワルツでは局所でのコルトーのテンポの揺らしが魅力的に聴こえます。即興曲も全体の造形がしっかり取れていて、曲想の色合いの変化が見事です。


○1926年3月22日・4月4日

ショパン:24の前奏曲 Op.28

(ヘイズ、ロンドン郊外、HMVスタジオ録音)

四種ある同曲のコルトーのスタジオ録音の一番古いものですが、比較的インテンポに近くリズムを刻んでいる印象で、コルトーの特徴としてよく云われるテンポ・ルバートもあまり強く感じられないのが面白く、この時代の新即物主義の影響をコルトーも強く受けていたということでしょうか。しかし、だからこの演奏が魅力が乏しいということは決してなく、造形の厳しさを感じる演奏にコルトーの別の一面を見る気がします。全体を通してがっしりとした構成を見極めた演奏だと思います。このような厳しい表現からコルトーも出発したということも、興味深く感じられます。


○1928年6月5日、7月11日

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 Op.35

(ロンドン、クイーンズ・ホール、HMVスタジオ録音)

四種ある同曲のコルトーのスタジオ録音の一番古いものです。ソナタの構成感を強く意識した演奏と言えると思います。全体にテンポを速めに取っており演奏に勢いがあります(特に前半の第1楽章・第2楽章)。比較的インテンポに近くリズムを刻んでいるせいか、造形が厳しい印象を受けます。第3楽章も感傷を排した表現ですが、それだけに中間部に明るい日差しが差し込んでくるような抒情性が感じられるのが強く印象に残ります。


○1929年3月19日

ショパン:ノクターン第2番 Op.9−2、 ワルツ第7番 Op.64−2

(ロンドン、クイーンズ・ホール、HMVスタジオ録音)

表現に自在さが増し、申し分ないコルトー節が聴かれます。ノクターン第2番は淡い情感がこの曲のイメージそのものです。表情が端整なので甘ったるくならないのが、とても良いです。ワルツ第7番は、25年の録音よりもテンポの緩急を付けて自由な表現になっています。テンポの変化が曲想によくマッチしており、これも見事な演奏です。


○1931年5月12日

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 Op.58

(ロンドン、クイーンズ・ホール、HMVスタジオ録音)

コルトーの第2番のソナタにはしっかりした構成感が感じられますが、この第3番の演奏は曲想の感じたまま流れに任せた即興曲風の印象で構成感を感じにくいように思います。これはコルトーと曲との相性にも拠るのでしょうか。今ひとつ一貫したものを感じ取りにくいようです。ある意味ではこの曲の構成の分裂した印象をそのまま素直に提示したと云えるかも知れません。


○1933年7月5日・1934年6月20日

ショパン:24の前奏曲 Op.28

(ロンドン、アビーロード・スタジオ・第3、英EMIスタジオ録音)

1926年の同曲の最初の録音から1957年の四回目のスタジオ録音まで補助線を引いて聞いてみると、回数を経て次第に表現の自由度が高まっていくことが感じられます。旋律の歌わせ方がより柔軟になっていきます。その過程の2・3回目の録音の存在感が薄くなるのは仕方ないところですが、決して魅力がない演奏ではありません。24曲の全体を貫くストーリー性が見えるような気がするのは、コルトーならではのことだと思います。


○1933年7月6日

ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 Op58

(ロンドン、アビーロード・スタジオ・第3、英EMIスタジオ録音)

同月8日のソナタ第2番の録音でも同様ですが、気力が充実して・緊張が持続しており、自由に弾いているようでいながら、全体の構成が引き締まって感じられ、良い演奏に仕上がりました。ただしコルトーの第2番の演奏は内に向かって凝縮する力を感じさせますが、この第3番は外に向かって開放する即興性の強い印象を持つのは、第3番の曲の性格に起因するものなのでしょう。31年録音ではうまく行かなかったものが、33年録音では良い方向に行ったという感じです。ただしコルトーとしては第3番は、第2番ほどに相性は良くないのかも知れません。


○1933年7月8日

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 Op.35

(ロンドン、アビーロード・スタジオ・第3、英EMIスタジオ録音)

コルトーの個性と曲が要求するところがぴったりと一致して、これは同曲の録音のなかでも特筆すべき名演となりました。録音記録から見ると恐らく一気に録音されたのではないかと思われる、尋常でない勢いが迸る演奏です。全体的に早めのテンポで疾走するような感覚があり、冒頭から第4楽章プレストの最後の音が鳴り終わるまで、音楽の流れがハイテンションで貫かれており、表現が弛緩するところがありません。特に低音の打鍵が強くて、表現のダイナミクスが大きく感じられます。特に前半の第1楽章・第2楽章の自由奔放のようでいて・それでいてまったく乱れを魅せない表現は、息を飲むほど見事です。第3楽章の葬送行進曲もスケールが大きく厳しい表現になっています。


○1934年6月19日、6月20日

ショパン:ワルツ集 第1番〜第14番

(ロンドン、アビーロード・スタジオ・第3、英EMIスタジオ録音)

軽やかな三拍子のリズムと魅惑的な旋律に溢れるショパンのワルツは、コルトーの芸術を考える時に最適な材料であると思います。この34年の録音では貴重となる三拍子のリズムをしっかり刻んで、これをテンポ・ルバートで崩すというよりも柔らかくいなす、そして元のテンポにさりげなく戻る、それがほんのりと色っぽい瞬間を生み出しています。そこに小粋な表情があります。それぞれの曲でその特質は聴かれますが、通しで聴くとテンポが速いワルツよりも、例えば第5番・第8番・第9番・第12番のような、テンポがゆっくりしたワルツの細やかな旋律の歌い廻しにコルトーのセンスの良さが味わえる気がします。


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