(戻る)

アンドレ・クリュイタンス


〇1957年2月2日・4日・5日

シューマン:マンフレッド序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、グリューネバルト教会、EMI・スタジオ録音)

テンポをあまり動かさず、正攻法で曲に対しているのが、成功しています。ベルリン・フィルの音色暗めの、低音がよく利いた響きを生かして、重厚でドイツ的な構造を感じさせます。


○1958年11月

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

ダヴィット・オイストラフ(ヴァイオリン独奏)
フランス国立放送管弦楽団
(パリ、仏EMI・スタジオ録音)

ゆったりとしたテンポで実に懐ろが深い演奏であると感じ入る名演です。オイストラフのヴァイオリン独奏は決して派手さはないのですが、豊かで温かみのある音色でたっぷりと旋律を聴かせてくれます。器の大きさが自然のうちに出てくるような恰幅の良さを感じさせます。これをサポートするクリュイタンスの指揮がまた素晴らしいもので、オイストラフの作り出す音楽にぴったりと寄り添い、内側から温かさが染み出てくるような感じです。ことさらに精神主義的な厳しさを打ち出さなくても、このように音楽自体にベートーヴェンらしい気品と風格を感じさせる演奏が可能であるということを実感させます。圧巻は第1楽章で、いささかも揺るがないような足取りで、風格のある音楽を作り出しています。第2楽章はオイストラフの独壇場です。息の長い旋律の歌い回しでじっくりと聴かせます。第3楽章もテンポを急くことなく、ゆったりと通すところにこの演奏の真骨頂があると言えます。


○1958年11月4日・5日

ラヴェル:ラ・ヴァルス

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール)

後年のパリ音楽院管との録音では一層のしなやかさが加わっていると思いますが、この演奏もフランス的な香気を感じさせ、明るい響きでもとても素晴らしい演奏だと思います。オケはとてお優秀です。ウインナ・ワルツの揺れるリズムの処理が実に上手く、余計な粘りのないサラりとした表現が如何にも洒脱に感じられます。


○1959年5月10日・11日ライヴ−1

ラヴェル:クープランの墓

パリ音楽院管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

テンポを若干早めに取って、四曲のバランスがとても良い。ただ第1曲・プレリュードはまだエンジン暖まっていないのかリズムが若干上滑り気味のところがありますが、純音楽的表現に徹してそこから情感がさりげなく漂ってくる第3曲・フォルラーヌは素晴らしく。第4曲・リゴドンはリズムが斬れています。


○1959年5月10日・11日ライヴ−2

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

パリ音楽院管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

オケの透明で明晰な響きのなかで、木管の響きがこれまた明滅するが如くに美しい。純音楽的表現に徹していて、ムーディなところはまったくないのですが、曲自体に甘さがあるので・それが情感となって楚々としてしみ出てくるような感じです。まさに水彩画のような軽さと透明感を持つ名演。


○1959年5月10日・11日ライヴ−3

デュカス:交響詩「魔法使いの弟子」

パリ音楽院管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

これは名演。早めのテンポで、各場面の描写が生き生きとして色彩的で、場面の人物や情景が絵を見るように彷彿としてきます。この曲の機知とユーモアを余すところなくひょうげんしています。そこにクリュイタンスの芝居っ気が出ているのでしょうが、それがちっともわざとらしくないのです。オケはリズムがよく斬れていて、響きが透明。弦は軽やかで斬れが良く、木管は煌めくようで、実に楽しそうに演奏しています。


○1959年5月10日・11日ライヴ−4

ベルリオーズ:「ファウストの業罰」〜鬼火のメヌエット、妖精の踊り、ラコッツィ行進曲

パリ音楽院管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

第1曲・第2曲はやや抑え気味の・おとなしい表現のように思いますが、第3曲・行進曲ではオケを全開にしたかのように熱狂的なリズム処理で、最終音はたっぷりと引き伸ばした大見得を見せます。


○1959年5月10日・11日ライヴ−5

ビゼー:「アルルの女」〜ファランドール

パリ音楽院管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール)

当日のアンコール曲目で、かなり芝居っ気たっぷりで、曲が進むにつれてテンポの速度を上げて、最後は猛スピード、圧倒的な興奮のなかで締められます。


○1959年7月

ラヴェル:ピアノ協奏曲

サンソン・フランソワ(ピアノ独奏)
パリ音楽院管弦楽団
(パリ、EMIスタジオ録音)

とても魅力的な演奏であると思います。リズムが飛び散るようであり・音色が透明かつ香気に溢れており・すべてが明晰なところにありながら、刺激的なところがまったくなく、同時にメロウな感覚に満たされています。まさにマ・メール・ロアの世界に遊ぶような遊戯感覚がそこにあります。このような演奏を「フランス的」というのであろうかというようなことを考えてしまいます。フランソワのピアノはリズム感といい・色彩感といい言うことなしです。決して自分だけが突出することなく、しかし、彼にしかなしえない世界があります。同じことはクリュイタンスにも言えますが、リズムが前面に出る両端楽章と 、叙情的な第2楽章との連関を、これほど一貫性を持って描き出した演奏は聴いたことがありませんでした。


○1961年11月27日・29日・30日−1

ラヴェル:ボレロ

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

テンポは早めに感じられますが、リズムの打ちが軽やかで、全奏になってもオケの動きが重ったるさをまったく感じさせません。繰り出す独奏楽器がどれも見事で、色彩が煌めくようです。音楽が盛り上がって行っても、響きが決して混濁することなく、熱さを感じさせない炎のような感覚です。この身の軽やかさが、実にフランス的センスだと思わざるを得ません。


○1961年11月27日・29日・30日−2

ラヴェル:ラ・ヴァルス

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

クリュイタンスのラヴェルはどれも見事なものですが、ラ・ヴァルスはそのなかでも屈指の名演だと思います。まず導入部からワルツに入っていく過程、混沌とした雲の間から舞踏会の光景が見えてくるところの描写が素晴らしい。それと終盤に至ってワルツが破局していく時の切なさも、クリュイタンスの演奏は際立って素晴らしいと思います。色彩的かつ透明な響きが、何とも言えぬ香気を放ちます。ワルツはさりげないう語り口ですが、光とリズムの揺らめきが実に魅惑的です。ラヴェルの管弦楽法の威力を心ゆくまで堪能させてくれます。


○1961年11月27日・29日・30日−3

ラヴェル:スペイン狂詩曲

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)
 

「祭り」での色彩感、リズム感、オケのダイナミックな動きの見事さもさることながら、「前奏曲」や「マラゲーにゃ」での静かな場面での響きの精妙さに魅了されました。響きの涼しさ、さわやかな香気が素晴らしいと思います。動的な場面においても、リズム感覚が実に軽やかで、図体の重さを感じさせないところが、何ともラテン的であると感嘆させられます。聴き終わって、陽光さんさんと降り注ぐなかで音の絵巻物が刻み込まれていくような印象。ラ・ヴァルスと並ぶクリュイタンスの名演です。


○1962年9月26日・27日、10月2日・3日−1

ラヴェル:組曲「クープランの墓」

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

心持ち早めのテンポを取っていますが、リズム感覚が明確で、響きがとても透明で旋律線がくっきり浮かび上がること、4曲の連関が緊密であることなど、素晴らしい演奏だと思います。ただし、スタジオ録音ということもあるでしょうが、新古典的なスタイリッシュな感覚があって、4枚の明るい色調の精妙な絵画を見るような気分があります。その点においては、62年5月東京ライヴでの演奏では過去を回想するような古風な情緒があって良いということも云えますが、どちらが良いかは好みの問題です。印象の違いは、多分、62年の演奏の方が若干テンポが早いせいもあるかと思います。第1曲・前奏曲での木管の乱れのない動き、弦の細身で引き締まった動いも素敵です。特に中間部の、第2曲・フォルラーヌ、第3曲・メヌエットは、透明な響きが清々しい雰囲気を描き出しています。


○1962年9月26日・27日、10月2日・3日−2

ラヴェル:古風なメヌエット

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)
 

ラヴェルの若書きの曲ですが、冒頭部でしっかりとリズムを刻んでいくところに、ほのかに厳しささえ感じられ、そこに古典的な様式感覚が浮かび上がってくるようです。


○1962年9月26日・27日、10月2日・3日−3

ラヴェル:海原の小舟

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

響きが透明で、明晰なラヴェルの管弦楽法が味割れます。漂う波の上に明滅する光の動きが、実に見事です。


○1962年9月26日・27日、10月2日・3日−4

ラヴェル:道化師の朝の歌

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

リズム処理が明解で、オケの響きがすみずみまで澄み切っています。全体がラテン的明晰さに満ち溢れています。早めでキビキビとしたリズムが音楽に活気をあたえていて、響きが色彩的であるだけでなく、香り立つような気さえします。この曲の代表的な名演であると思います。


○1962年9月26日・27日、10月2日・3日ー5

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

パリ音楽院管弦楽団
(パリ、ワグラム・ザール、EMIスタジオ録音)

クリュイタンスの取るテンポは意外に早いと感じられますが、ともすれば甘い旋律で通俗的感傷に陥りやすいこの曲に、客観性を持たせようとするかのように醒めてすっきりした味わいを持たせているようです。さりげない語り口のなかに、過ぎ去った過去を懐かしむ趣きが感じられます。淡い色彩でありながら、響きに何とも言えぬ香気を感じさせてくれます。
 


○1964年5月7日ライヴ-1

ラヴェル:組曲「クープランの墓」

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

これは素敵な演奏です。テンポをしっかりと締めて造型は簡素、古典的な趣きを醸し出すセンスの良い演奏であると思います。リズム感の良い第4曲リゴドンも聞かせますが、印象的ななのは中間の第2曲 フォルラーヌ・第3曲メヌエットです。遠く懐かしい時代に引き戻されるかのよう な・ゆったりとした流れに身をゆだねて・心が癒させるような音楽です。


○1964年5月7日ライヴー2

ラヴェル:スペイン狂詩曲

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

録音がデッドで反響をあまり多く取っていない感じなので、有名なEMIのスタジオ録音(61・62年)と比べると、やや直截的に聴こえて、響きの艶や香気がやや弱い感じ、その分、響きに芯があって硬質的な冷たい輝きが出ているようですが、演奏は素晴らしいと思います。スペイン狂詩曲はスタジオ録音が素晴らしいですが、このライヴ録音も興味深い出来です。リズムは明確に刻まれて、線が太く聴こえるので、繊細さよりも、力強さ・躍動感が強くなっているようです。面白いのは、第2曲マラゲーニャと第4曲祭り。ダイナミクスの幅が大きく、荒削りの迫力がある。リズムが飛び散るようです。一方で、第1曲夜への前奏曲などでは香気に若干譲るところがあるようですが、大きな不満ではありません。


○1964年5月7日ライヴー3

ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

比較的早めのテンポで、あまり思い入れを入れずにサラりと描いています。それでも十分に甘い旋律ですから、これで曲自体の抒情性は適度な甘さとなっています。ここでは録音がデッドであることも良い方へさようしているようで、線が太い感じであるが、好演であると思います。


○1964年5月7日ライヴー4

ラヴェル:ラ・ヴァルス

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

スタジオ録音と全体の解釈は変わっていませんが、録音が弦の旋律線が太く感じることにより、曲の繊細さよりも、荒削りな迫力が魅力的なものに仕上がっているようです。冒頭部はちょっと乾いたような印象がありますが、ワルツに入ると、旋律がストレートに歌われて造形が引き締まり、躍動感に満ちています。むしろここではウイーン風にこだわらないところが、好感持てるようです。終盤のワルツの破局も素朴な力の湧出が、ライヴならではの迫力です。


○1964年5月7日ライヴー5

ラヴェル:組曲「マ・メール・ロア」

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

この演奏も素晴らしいと思います。この曲の幻想的かつメルヒェン的な雰囲気を十二分に描き出しています。特にリズム処理が実に上手い。旋律を息深く余裕を以て歌わせていて、細部までふっくらとニュアンス豊かです。特に第1曲・眠れる森の美女のパヴァーヌ、第2曲親指小僧など、ユーモアとウイットに富んでおり、洒落たフランス的センスに満ちており、どこか懐かしい気持ちにさせられます。


○1964年5月7日ライヴー5

ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第2組曲

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

「夜明け」の煌めく音の輝き、息を深く保ってどこまでも旋律線を引っ張って行く、音楽の推進力が素晴らしいと思います。光り輝く、明晰なラテン的感性を感じさせます。響きの精妙さではスタジオ録音の方が優れていますが、音楽の生気と力強さではこのライヴ録音も捨てがたいものがあります。全員の踊りも、オケの機動力を全開したダイナミックな仕上がりで、この名コンビの息の合ったところを聴かせています。


○1964年5月10日ライヴ

ベルリオーズ:幻想交響曲

パリ音楽院管弦楽団
(東京、東京文化会館)

これはなかなか素晴らしい演奏です。五つの楽章のテンポ設計が良く、安定感があります。まずテンポが安定していて・リズムが深く打ち込まれていて、音楽が深く落ち着いています。「幻想」に落ち着いているという表現は変かも知れませんが、そう表現したくなるほど旋律がじっくり歌われていて、張ったりがないのです。気品があると言う表現もできると思います。第1楽章でもその実直な味わいが好ましく、スミスソンの主題も淡々としているのが良いと思います。第2楽章のワルツも流麗豪華と言うのではなく・素朴な味わいですが、これが良いのです。全体のなかで第2〜3楽章の占める意味が良く分かります。第4楽章の行進曲もガンガンリズムを打ち込む騒がしさがありません。第5楽章はなかなかパワフルです。ここでちょっとリズムに荒々しさが加わるのはハッとして効果的に思えます。


(戻る)