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カルロス・クライバーの録音


○1973年1月22日〜2月6日

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

ドレスデン国立管弦楽団
(ドレスデン、聖ルカ教会、独グラモフォン・スタジオ録音、全曲録音の一部)

クライバーの独グラモフォン・デビューの録音です。クライバーらしい、テンポ早めの颯爽とした演奏です。とにかく音楽の生きが良いのが信条ですが、鬱蒼とした黒い森の暗く湿った雰囲気などは見事に吹き飛んでいて、ダイナミックで色彩的な音絵巻にあれよあれよと云う間に曲が終わるという感じです。スッキリと割り切り過ぎの感はありますが、中間部からの盛り上がりはなかなかのものだと思います。ドレスデンのオケは素晴らしく、特に引き締まった弦の響きは魅力的です。


○1974年3月・4月

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、DGスタジオ録音)

クライバーの名声を一気に高めた録音です。確かに高いレベルの演奏ですが、響きがこれがウイーン・フィルかと思うほどに神経質的でとげとげし く感じるのはちょっと意外でした。リズムはピチピチ跳ねて・第1楽章は音楽に勢いがあります。しかし、リズムの刻みが浅い感じが しなくもなく、音楽がせかせかした印象ではあります。基本的なアプローチはカラヤン/ベルリン・フィルの62年の録音を思わせ、テンポのとり方・フレーズの歌わせ方、いたるところでカラヤンを想わせます。


○1975年11月・1976年1月

ベートーヴェン:交響曲第7番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、DGスタジオ録音)

父エーリッヒが手を加えたパート譜を使用しているようで、木管の使い方にいつもと違う響きがあり、また第3・4楽章ではかなり大きな改変が見られます。たしかに響きに古風な味わい があります。カルロスの演奏は全体に早めのテンポで生きはいいのだけれど、リズムの斬れと推進力を前面に出すというのではなく・むしろ滑らかであり、ユニークだがいまひとつおとなしい表現のように思われます。第2楽章アレグレットは音楽が サラサラした流れになっています。第3楽章は面白いリズム処理に思われます。第4楽章もスコアの改変でいつもと違うユニークな解釈ですが、リズムの取り方はむしろ重めです。全体にクライバーらしいユニークな表現だと思います 。


○1976年12月7日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「オテロ」

プラシード・ドミンゴ(オテロ)、ミレルラ・フレーニ(デズデモーナ)
ピエロ・カップチルリ(イヤーゴ)、ジュリアーノ・チャネルラ(カッシオ)、ジューン・ジョリ(エミーリア)
ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団
(ミラノ、ミラノ・スカラ座)

クライバーの作り出す音楽はダイナミックかつ繊細で、ヴェルディの音楽のなかにこれほどのニュアンスが込められているのかと驚くほどに・微妙なテンポの揺れ・フレーズの揺らしに生々しい感情が感じられます。イタリアオペラにしてはちょっと神経質に過ぎるほど繊細で入念な音楽造りですが、スカラ座のオケも乗りに乗っている感じで・観客も熱狂的に反応しています。観客の声援をほとんど指揮者がさらっていて・オケ主体のオペラという感じすらしますが、歌手の方も揃っていて・全体の出来も素晴らしいものです。ドミンゴのオテロは声の張り・伸びとも申し分なく、この時期から既に最高のオテロです。カップチルリはちょっと重厚で重い感じのイヤーゴですが、ドミンゴと互角に対します。第2幕のオテロとイヤーゴの二重唱は圧倒的です。フレー二のデズデモーナはもったいないほどの配役で、第4幕は彼女のためにあるようなものです。


○1978年9月−1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、DGスタジオ録音)

テンポが早くて威勢のいいシューベルトですが、少々響きに神経質なところがあります。 リズムの刻みが浅くて、旋律を息深く歌う感じでないので、聴いていてセカセカした印象が終始つきまといます。全奏のアタックが強くて、聴き手に対して挑戦的な感じがします。テンポ設定については60年代のカラヤンに近い感じがしますが、ダイナミクスはこちらの方がさらに大きい感じです。輪郭のはっきりした曖昧なところのない演奏で、ロマンチックな情感に乏しく 、醒めたようなところがあります。第1楽章第1主題からして従来の「未完成」のイメージを壊そうとしているかのように荒々しい感じです。 およそゲミュートリッヒカイトからはほど遠い演奏です。第1楽章最終和音のデミュニュエンドも意表を突かれます(これについてはシューベルトがアクセント記号とデミュニュエンド記号を取り違えたとの研究もあるそうです)が、未解決のまま終わるという感じで 、従来のやり方に慣れた耳には ちょっと吃驚です。この第1楽章に比べれば第2楽章はおとなしい感じですが、早いテンポでサラサラ流れていくようです。 ウイーン・フィルがいつになく緊張しているように聴こえます。


○1978年9月ー2

シューベルト:交響曲第3番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、DGスタジオ録音)

シューベルトの若書きの曲を、威勢よく快速テンポで演奏しています。元気良過ぎて、シューベルトのロマンの香りは踏み飛ばされて、舞曲風の音の律動と貸している感じがしますが、同じ時期のウイーン・フィルとの「未完成」に比べれば、まだこじんまりとした曲の佇まいを残しています。もう少しゆっくり旋律を歌わせてくれた方が曲の良さが出ると思うのですが、とにかくピチピチ弾けていいます。このなかでは緩徐楽章が、すっきりした淡い情感が聴こえます。ウイーン・フィルの響きは引き締まって、気合いが入っていることはよく分かります。


○1978年9月ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール)

カルロス・クライバーのアメリカ・デビュー・コンサートということになります。基本的なコンセプトは、74年ウイーン・フィルとのスタジオ録音と変わるところはありません。早いテンポ、斬れの良いリズムを前面に出して、一刀彫りのような切り口鮮やかなベートーヴェン像をめざしているようです。ただし、腕利き揃いのシカゴ響にしても、この演奏では勢いにまかせたクライバーの棒についていけないようで、響きにちょっと濁りが見られるようで、全体としての出来はやや粗い感じがします。それでも第1楽章はさっそうとしたクライバーらしい勢いの良さを感じますが、問題は第2楽章。リズムがきつ過ぎでセカセカした印象があり、スケールが小さく感じられます。弱音と強音の差を大きく付け過ぎでバランスが悪いと思います。第3楽章もテンポが早すぎで、第4楽章の布石として決まっているとは思えません。通して聴くと、全体が一本調子で、四つの楽章が緊密に連関しているようには聞こえません。第4楽章はフィナーレに向けてひたすらに突っ走るクライバーがよく似合います。終結部を元気よく締めて、観客はよく反応しています。


○1978年9月ライヴー2

シューベルト:交響曲第3番

シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール)

全体のテンポは速めですが、同日のベートーヴェンほど勢いに任せたところはなく、抑制は効いているので、シューベルトの若書きの爽やかなところを表現できていると思います。このなかでは第2〜3楽章は好演です。もう少しテンポを遅めにして旋律をゆったり歌わせる方がロマン性が濃くなって本来かなとも思いますが、この速さでサラりとした淡い味わいも悪いものではありません。ただシカゴ響の弦にもう少し柔らか味が欲しいところで、旋律の歌い方がちょっと粗い気もします。両端楽章はやはりテンポが早すぎる感じは否めません。シューベルトとしては威勢が良過ぎる感がありますが、スタイル的には保っています。


○1979年12月16日ライヴ

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

オペラティックな雰囲気よりは、コンサート・ピースとして凝縮された純音楽的表現を目指していると言えそうです。クライバーらしい、しなりの利いた造形と、テンポ早めの疾走感が聴き物です。


○1980年3月12−15日

ブラームス:交響曲第4番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

第1楽章は心持ち速めのテンポを取り・流れるように奏される第1主題に対し、リズムをきつめに高弦の線を明確に取った第2主題との対比を意識的につけている感じです。同じような対比が第3楽章にも聞かれます。全体としては渋い印象のあるブラームスがずいぶんと色彩的になって・好みによりますが・第1楽章や第4楽章のフィナーレなどやたら威勢が良い演奏に聴こえます。全曲を通じて静と動の対比が際立っている・というよりあざとい感じであり、聴いていて非常に疲れる演奏です。こうした行き方がブラームスの重層的な音楽の作り方にマッチしていない印象を受けます。第2楽章は弦のピチカートを高潮して・クライバーのリズム処理の面白い面を出しています。また中間部の静かな弦の響きに乗って・木管が旋律を歌う辺りは流れるように美しいと思います。第4楽章でも中間部のフルート・ソロにはっとする美しさがありますが、これもやがて弦の激しい動きのなかでかき消されてしまうようです。


○1982年5月2日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第4番

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場、カール・べーム追悼コンサート)

クライバー人気を決定つけたとも言える録音です。これを生で聴いた聴衆が興奮するのは分る気がしますが、オケの質もあって演奏の完成度自体はそう高くないように思います。 第1楽章序奏から展開部への移行はハッとするような煌めきがあって・特に第1楽章はクライバー独特の即興性が生きていると感じられます。第2楽章は旋律を息長く捉え切れていない不満を若干感じます。 全体にテンポ設定が極端で、オケの技量が十分でない(特に木管の出来が悪い)ので余計な負担がかかっているようです。第4楽章のテンポ設定は早過ぎでオケがテンポについていけず音楽が雑になってしまった感があります。


○1983年11月7日ライヴー1

ハイドン:交響曲第94番「驚愕」

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場、アカデミー・コンサート)

クライバーはハイドンで何を仕掛けてくるかと期待しましたが、出だしからリズムをしっかり打ち込んで・端正な出来。第1楽章はインテンポに取って・端正な表情のなかにも生気を感じさせる好感が持てます。第2楽章も若干元気が良いきらいはありますが、まずまずの出来です。特に成功しているのは第3楽章メヌエットで、リズム処理が巧く・表情が生き生きしています。しかし、第4楽章はリズムが崩れて・勢いにまかせたクライバーの悪い癖が出ています。テンポが速過ぎて・造形が粗くなっています。


○1983年11月7日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、バイエルン国立歌劇場、アカデミー・コンサート)

全体に早めのテンポでサラサラ流れる演奏で・感触が淡い印象がありますが、いつものクライバーのように勢いに任せて・リズムが前のめりになることがないので、早いテンポではありますが・その流麗な音楽がなかなか心地よく感じられます。前半2楽章は叙情性と絵画性を感じさせるなかなかの出来。しかし、全体のテンポ設計に問題があり、どの楽章も同じような早めのテンポでだんだん一本調子に聴こえてきて、そのツケが第5楽章に来ます。第5楽章は先を急いでいるような感じで・高揚感がなく、旋律が十分に歌い切れていないようです。


○1986年5月19日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第4番

バイエルン国立管弦楽団
(東京、昭和女子大学人見記念講堂)

全体の解釈は82年のミュンヘンへのライヴ録音と大差ありませんが、ややおとなしい感じになっています。一聴するとリズムが斬れて表現は生き生きしていますが、リズムの打ち込みが浅いので音楽がせかせかして前のめりになって しまったように感じます。第4楽章の早いテンポ設定はこのオケにはやはり無理があるように思われます。


○1986年5月19日ライヴ−2

ベートーヴェン:交響曲第7番

バイエルン国立管弦楽団
(東京、昭和女子大学人見記念講堂)

ライヴのせいもあって表情が豊かであり、オケの質が少し落ちるのを割り引けば・76年のウイーン・フィルとのスタジオ録音よりこちらの方の出来の方がよいと思いました。しかしここでのクライバーもリズムが生き生きして聴こ えますが、リズムを十分に打ち切れていないので・音楽が前のめりになる感じが若干あるのは否めません。第2楽章は旋律をもう少し息を大きく歌ってほしいと思います。第3・4楽章はテンポを早く取り過ぎで、威勢は良いのですがちょっと勢いに任せた演奏に聴こえます。


○1986年5月19日ライヴー3

ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」序曲、ポルカ「雷鳴と電光」

バイエルン国立管弦楽団
(東京、昭和女子大学人見記念講堂)

当日のコンサートのアンコール2曲。クライバーの「こうもり」はミュンヘンの呼び物ですから、いかにも手馴れた感じです。ウイーンの雅びとはちょっと違う感覚なのは、いいの悪いのではなく・いかにもドイツのヨハン・シュトラウスといった感じです。柔らか味とウィットよりは元気の良さを押し出した感じというところでしょうか。「雷鳴と電光」は早いテンポで・ 元気がいい音楽になっています。


○1988年3月20日ライヴ−1

モーツアルト:交響曲第36番「リンツ」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン・ムジークフェライン・ザール)

印象としてひと昔前の演奏を聞いているような感じがします。弦の響きが通常より厚くて・響きに当面感がない感じがするせいかも知れません。それよりもアクセントが強くて・威圧的な感じがするのがモーツアルト演奏としてはちょっと気になります。もう少し旋律の歌いまわしに柔らかさが欲しい気 がします。特に第2・3楽章はウイーン・フィルにしては表情が硬い感じがします。テンポは全体的に早めで活気があって・元気のいい演奏になっています


○1988年3月20日ライヴー2

ブラームス:交響曲第2番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン・ムジークフェライン・ザール)

同日のモーツアルトにも言えることですが、響きのなかから主旋律が浮かび上がってこないので、主旋律を受け持つ楽器の受け渡し・からみ合いのなかから、ブラームスの音楽の持つ重層的な構造 を浮かび上がらせるというよりは、主旋律を強調した演奏になっていると言えましょうか。ウイーン・フィルにしては響きが神経質的にやや鋭い感じがします。したがって、ブラームスの音楽の量感・構成感より、音楽の流れ重視ということでしょう。テンポをかなり早めにとって元気のいい演奏になっています。第1楽章や第4楽章にオケを強力にドライブしていく躍動感が感じられ ます。


○1993年5月16日ライヴ−1

モーツアルト:交響曲第33番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン・ムジークフェライン・ザール)

テンポは早め・いつもながらリズムはピチピチですが、全体的に音楽の作りが神経質で、ウイーン・フィルの高弦がいつになくキンキン聴こえて・音楽が痩せて聞こえます。テンポが遅くなる第2楽章はサラサラした感触ながらよい出来です。他の楽章はモーツアルトとどうも響きがマッチぜず・ 元気が良いと言えば良いですが、安心して音楽に浸れない感じがします。


○1993年5月16日ライヴ−2

R・シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン・ムジークフェライン・ザール)

モーツアルトと比べれば響きはしっくり来ますが、テンポが早過ぎて・音楽がサラサラ流れる気がします。「英雄の伴侶」などもっとじっくり音楽を奏でて欲しい気がします。「戦場での英雄」もスケール感が小さく・こじんまりまとまった感じがします。逆に言えばすっきりした感じでもありますが、もう少し骨太い音楽作りをして欲しい気がします。 期待しましたが、いまひとつもの足りない出来だというのが正直な感想です。


○1994年6月28日ライヴー1

ベートーヴェン:コリオラン序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ワイズゼッカー大統領主催特別演奏会)

冒頭の音にタメが欲しい感じがちょっとしますが、ベルリン・フィルは低音が充実した重厚な響きです。オケの反応はやや腰が重い感じで、クライバーらしい鋭く斬れのある音を生んでいない印象があります。その一方で、クライバーの演奏によく見られるリズムの内の浅い欠点がここでは見られないので、満足できる出来に仕上がっています。テンポは早くて・勢いのある一筆描きの演奏で、曲が進むにつれて熱気が出てきます。第一主題の畳み掛ける迫力、第二主題ではベルリン・フィルの渋い弦の響きがよく似合います。


○1994年6月28日ライヴー2

モーツアルト:交響曲第33番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ワイズゼッカー大統領主催特別演奏会)

93年ウイーン・フィルとの演奏では弦が神経質的にキンキンして聴こえましたが、ベルリン・フィルは響きが重厚で・リズムの打ちがしっかり取れているので、旋律が十分に深く歌われています。その分音楽がちょっと重い感じになっているのは事実ですが、交響曲らしい安定感を感じさせます。両端楽章もテンポがしっかり取れていて、いい演奏に仕上がっています。クライバーとベルリン・フィルの相性はなかなか良いと思います。


○1994年6月28日ライヴー3

ブラームス:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ワイズゼッカー大統領主催特別演奏会)

ベルリン・フィルは演奏によく見られるリズムの打ちの浅さをカバーしており、その重厚で骨太いタッチはこれまで聴いたクライバーの録音にはない聴き応えがあります。この第4交響曲でもウイーン・フィルとのスタジオ録音では・どこか神経質的なキンキンした響きでしたが、ベルリン・フィルは旋律を息深く歌っていてはるかに良い出来です。こうして聴くと、クライバーの解釈は意外とオーソドックスで・がっちりした構成力を感じさせます。出来が良いのは第1楽章です。しっかりした枠組みのなかに熱いロマンを封じ込んだようで・音楽に勢いを感じます。逆にクライバーならもう少し仕出かしても良いのにと思うのは第4楽章で、渋くて悪くない出来ですが・ややフォルムを意識する方向に傾いたようで、特に終結部はもっと熱く出来そうな気がします。


○1996年10月21日ライヴー1

ベートーヴェン:コリオラン序曲

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)

トスカニーニの解釈に近い感じで、テンポを早く取り・一気に描き切った・勢いのある演奏です。冒頭から颯爽として・力のこもった響きで、クライマックスに向けて突っ走っていきます。こうした行き方であると・中間部の哀切感はいまひとつになるのは仕方ないところですが、ドラマティックな悲愴感はより強くなるようです。


○1996年10月21日ライヴー2

モーツアルト:交響曲第33番

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)

どちらかと言えば昔風の重いモーツアルトです。高弦がキンキンするような・粗い響きで、アクセントが強く、全体に音楽が角張った感じがします。特に第3楽章メヌエットはリズムの取り方が重く、軽やかさに欠けるのが不満に感じます。


○1996年10月21日ライヴー3

ブラームス:交響曲第4番

バイエルン国立管弦楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)

モーツアルト・ブラームスと進むにつれて、弦のきめが粗い・木管の音がよくひっくり返ることなどオケの質にちょっと不満が感じられます。しかし、まあクライバーの棒に一生懸命ついて・熱気のある演奏にはなっているとは思います。80年録音のウイーン・フィルの演奏と比べると、全体的にテンポが遅くなり・線が太くなり・低音に厚みがあるので・かなり印象が異なります。意外にオーソドックスな印象に仕上がっています。リズムを明確に取った・線が強い演奏であることに変わりないですが、静と動の対比を鮮やかに取ったウイーン・フィルの演奏ほどの仕掛けのあざとさは感じられません。逆に言えば表現が落ち着いてきた・円熟したと言うことかも知れません。しかし、映像で見るとクライバーもめっきり年を取った感じがありますが。後半2楽章はクライバーらしい活気に満ちた表現が見られて熱気のある演奏になっています。


○1999年2月20日ライヴ−1

ベートーヴェン:交響曲第4番

バイエルン国立管弦楽団
(ヴァレンシア、パラウ・デ・ラ・ムジカ)

全体として解釈は変化していないようですが、リズムの斬れが悪い・と言うより重い感じです。その分、セカセカした前のめりの印象が少なくなり、音楽に落ち着きが出てきたとはいえます。しかし、クライバーの魅力である表情のピチピチ感は後退していて、どことなく元気がないように聴こえます。オケの質はいまひとつで、響きに粗さがあって・もう少し洗練された響きが欲しいと思います。それでも気心知れたコンビだけに、細部ではクライバーらしい即興性が聴こえます。そう言う意味ではやはり第1楽章にクライバーの良さが出ていると思います。


○1999年2月20日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第7番

バイエルン国立管弦楽団
(ヴァレンシア、パラウ・デ・ラ・ムジカ)

全体の印象は同日の第4番と同じく・解釈に変化は見られませんが、リズムが重く・あまり元気がないように聴こえます。リズム主体で出来たこの交響曲では、音楽の推進力の点で物足りない感じがします。第4番の出来の方が良いと感じるのは、第7番の方がフォルムの制約が若干強いせいでしょう。手堅い感じはしますが、ここではクライバーの個性が生きてこないようです。オケの響きが粗いのも気になります。第4楽章後半にいたって・ちょっとエキサイトしてきたのか・オケを煽る感じがありますが、それにつれてオケの響きがますます粗くなって・聴きづらい感じです。


○1999年2月20日ライヴー3

J.シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」序曲

バイエルン国立管弦楽団
(ヴァレンシア、パラウ・デ・ラ・ムジカ)

当日のアンコールですが、互いに気心が知れている仲だけに・リラックスした出来です。表情にもクライバーらしい余裕と洒落ッ気が聴こえます。ただワルツに入る直前に「さあ・ワルツですよ」というような思い入れがあるのはちょっとどうも。ここはサラリと流した方が良いと思いますが。ワルツは心なしかリズムが重めで、他の部分と若干分離した感じがします。


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