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グィド・カンテルリの録音


○1952年10月22日

ロッシーニ:歌劇「泥棒かささぎ」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングス・ウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

小品ながらカンテルリの才能が光る演奏。印象に残るのはリズムの軽やかさ、旋律のしなやかさです。スケールの大きい演奏なのですが、決して重さを感じさせないのは見事です。特に展開部からの旋律の伸びやかな歌わせ方の巧さ。軽いオペラの序曲という扱いに終わらせず・真正面から曲に取り組む真摯な態度を感じさせます。


○1954年3月7日ライヴ

ドビュッシー:交響詩「海」

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

曲の構成をしっかり把握し、造形をキリット引き締めて曖昧なところがない、実に巧みな演奏であると感心させられます。オケから透明な色彩感を引き出しており、第3部ではダイナミックな音絵巻を展開しています。


○1955年3月15日・21日

シューマン:交響曲第4番

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングス・ウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

フィルハーモニア管の響きが明るく色彩的なのを生かして、テンポを速めにして・あまりテンポを揺らさず、しかし、手綱に若干の余裕を持たせたカンテルリの手腕の巧みさを感じます。古典的な風格のなかに淡い情感が漂う演奏に仕上がっています。第2楽章の明るく爽やかな叙情性にカンテルリの良さが出ているようです。


○1955年8月

メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

この曲にはトスカニーニの名演もありますが、それとは別の魅力を持つ名演だと思います。テンポはトスカニーニほど早くはなく・むしろ中庸のテンポですが、第1楽章からリズムのみずみずしさ・旋律の柔らかさなど、ふっくらとしたロマン的な美しさを湛えていて、引き締まった古典的な美を感じさせるトスカニーニとは全く違った魅力があります。「イタリア」は第1楽章の印象が鮮烈過ぎて・後半の曲の出来がいまひとつと感じることが多く・実はトスカニーニも例外ではないですが、カンテルリの演奏では後半も素晴らしいと感じられます。第3楽章はゆったりした構えに・旋律が実によく歌います。さらに感心するのは第4楽章で強引なところがまったく無くて、音楽の大きさが自然に現れています。この交響曲全体の納まりがぴったりと付いているのです。この辺がカンテルリの巧いところだと思います。


○1955年8月16日

ブラームス:交響曲第3番

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングス・ウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

テンポはゆったりして・低音を強調して・響きのボリューム感を出しており、なかなか聴き応えのするブラームスです。全体にたっぷりとした印象があります。構成的にもバランスがよく取れていて、第3楽章を淡くあっさりと処理しているのも納得できます。両端楽章は表現に余裕を持たせて、歌心のある・スケールの大きい演奏に仕上げています。


○1956年

ベートーヴェン:交響曲第7番

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

表現が実に的確です。誰もが表現に工夫を凝らし・挑戦的になるこの交響曲に、これほど自然体で臨んだ指揮者の珍しいのではないかと思います。両端楽章ではリズムを鋭角的に以って・推進力で曲を引っ張っていくのはよくある行き方ですが、カンテルリはむしろ表現の尖ったところを抑えて・表現を自然な丸みのあるものにしてくのです。表情の細やかさ・しなやかさに注意を払っている演奏なのです。したがって、強引な・セカセカした感じはまったくなくて、くつろいだ自然体のなかで・曲のスケールがおのずと立ち現れてくる感じです。こういう演奏が36歳の若者に出来るというのはちょっと信じがたい感じさえします。逆に言うと・この老成した音楽は天才指揮者の短い運命を予感しているようにさえ思えます。テンポ・表情ともに中庸をわきまえた演奏ですが、そのゆったりした流れがとても心地良く感じられます。両端楽章にカンテルリの特長がよく出ていますが、第2楽章の豊かな流れも魅力的です。フィルハーモニア管は特に弦の暖かさが魅力的です。


○1956年6月

モーツアルト:交響曲第29番

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングス・ウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

1956年11月に飛行機事故で36歳の若さで亡くなったカンテルリの最後の録音のひとつですが、この演奏だけ聴いても・その才能は歴然。これが36歳の指揮者の演奏とはちょっと信じがたいほど・練り上げられた気品あるモーツアルトです。特に前半3楽章までは息遣いの細やかさ、表情の柔らかさ、歌い方のしなやかさなどどの点をとっても文句の付けようがない気がします。表現に硬いところがまったく無くて、この小交響曲の魅力を余すところなく表現しています。表現に出過ぎたところがなく・音楽を押さえるツボを良く心得ているという感じがします。ただ第4楽章だけはややアクセントが強い感じがして・多少違和感を感じますが。フィルハーモニア管の弦は暖かく優秀です。
 


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