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バーンスタインの録音 (1984年)


○1984年ライヴー1

モーツアルト:交響曲第40番

スカラ・フィルハーモニー管弦楽団
(ミラノ、ミラノ・スカラ座)

スカラ・フィルの高弦がしなやかによく歌っており・魅力的な演奏に仕上がりました。特に両端楽章は聴き応えがあります。第1楽章はしっかりとテンポが守られており、旋律が滑らかに歌われながらも・音楽が甘ったるくなることがなく、古典的な格調が感じられます。第4楽章もテンポを急くことなく・造型がきりりと引き締まって、曲のなかにある悲壮感が自然に立ち上ってくるような気がします。この見事な両端楽章にはさまれた第2楽章はやや緊張を緩めた感じがあるのがちょっと残念です。


○1984年ライヴー2

マーラー:交響曲第4番

アラン・ベルギウス(ボーイソプラノ、テルツ少年合唱団)
スカラ・フィルハーモニー管弦楽団
(ミラノ、ミラノ・スカラ座)

バーンスタインの解釈はこの曲をメルヒェン交響曲として捉える行き方です。全体的にテンポ早めに・曲がサラサラと流麗に進むのはその解釈に即したものだと思いますが、表現の彫りが浅い感じがします。確かにホンワカしたムードは感じられますが、第2楽章のアイロニカルな側面・第3楽章のアンニュイで濃厚なロマン性などは綺麗に消え去って、感触がさっぱりし過ぎであると思います。ひとつにはスカラ・フィルの団員がマーラーに慣れていないせいがあると思いますが、本質的に楽天的なバーンスタインの解釈にも責任はあると思います。


〇1984年1月28日ライヴー1

モーツアルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」

ウラディミール・スピヴァコフ(ヴァイオリン独奏)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

若手スピヴァコフのヴァイオリン独奏はやや線が細く、特に第1楽章は緊張のせいか、表現に硬さが見えます。バーンスタインのサポートもテンポを速めに取って、颯爽と若々しい表現を目指していますが、やはり第1楽章は表現が細いようです。高弦がキンキン響く感じがして、もう少し余裕をもった表現で、スピヴァコフに配慮したリードをして欲しいと思います。しかし、第3楽章はやや落ち着いてきたのか、両者とも表現が和らいできて、良い演奏になりました。


○1984年1月28日ライヴ-2

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

手堅い正攻法のモーツアルトです。ただし生き生きとした印象と言うよりは・手堅くまとめた印象の方が強いようです。リズムをしっかり取って・インテンポを崩さないのもそうした印象を強めます。オケは編成を小さめにしていて・響きがすっきりとしています。旋律はあっさりと歌われていますが、ウイーン・フィルの響きが潤いを与えています。微妙な歌い廻しがニュアンス豊かで、そこにウイーン・フィルの素晴らしさがよく現れています。スケールの大きさを求めていない感じで・多少こじんまりした感じはしますが、古典的で均整の取れた美しさがあって・良い演奏です。


○1984年2月12日ライヴ−1

モーツアルト:交響曲第40番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

中庸のテンポですが、インテンポで淡々とした足取りのモーツアルトです。派手さもスマートさもないですが、古典的格調のある素晴らしい出来だと思います。うまく聞かせてやろうという気を見せずに、虚心にモーツアルトと向き合ったという印象の演奏です。どこか厳しささえ漂っています。第1楽章は表現がなかなか難しいところですが、武骨にさえ思えるほどに訥々とした表現です。リズムもどこか重め の感じです。しかし、どこか優しさを秘めたように思われるのはウイーン・フィルの弦の響きの柔らかさのせいかも知れません。第2楽章も素朴さをもった表現だと思います。第4楽章はバーンスタインならテンポを速めに激しい表現をしそうなところですが、そこをしないで 、オケの自発性に身を任せたような感じ なので、それがいい結果を生んでいます。


〇1984年2月12日ライヴー2

マーラー:交響曲第4番

アラン・ベルギウス(ボーイ・ソプラノ)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

第1楽章は、速くなったり遅くなったり、テンポが大きく変化して落ち着かない演奏です。まあ表情に変化があってダイナミックだという云い方も出来るかも知れませんが。曲想がそういう変化を求めている面はあるかも知れませんが、まとまりがなくて、躁鬱症的に聴こえます。第2楽章は録音のせいかも知れませんが、ヴァイオリン・ソロがオケに埋没して、意外とおとなしい表現です。早めのテンポでサラサラ流れる感じで、物足りなく思います。後半の第3楽章は、前半の印象が軽めのせいか、この交響曲のなかでの第3楽章の重さというものが実感される演奏になっています。この楽章でもバーンスタインの取るテンポは早めで、決して重く粘るわけではないのですが、旋律を息長く歌う熱い表現に仕上がっています。第4楽章は、ボーイ・ソプラノの起用したのが、予想以上の効果を挙げています。その汚れのない清らかな歌声が、これ以上ない安らぎを感じさせます。


○1984年9月4日〜7日

バーンスタイン:ミュージカル「ウェストサイド物語」

キリ・テ・カナワ(マリア)、ホセ・カレラス(トニー)
タチアナ・トロヤノス(アニタ)、クルト・ホフマン(リフ)他
管弦楽団
(ニューヨーク、独グラモフォン・スタジオ録音)

カナワのマリアとカレラスのトニーは、恐らく意図的にオペラティックな要素を加えており、声が主人公の設定年齢よりもかなり大人に聞こえて、歌唱が若干濃厚に感じられる点は致し方ないですが、バーンスタインの意図は、この曲をポピュラー音楽ではなく、クラシック音楽のなかに位置付けたい(できればオペラのなかに?)ということだと思われます。歌手は主役級以外はポピュラー界の腕利きを集めているようで、演奏は聴き応えがします。リズムは確かに時代を感じさせるところがありますが、当時のミュージカル界からすれば、春の祭典にも似た暴力的な粗野なリズムや不協和音の交錯が、革新的なものであったことは十分理解できます。トニーとマリアの純愛ストーリーを前面に押し出し、人種的な対立など社会的なプロテストとしての側面が若干後退気味に感じられるのは、聴くこちらの方にも時代の経過があるわけですが、「ウェストサイド物語」の古典化を志向するバーンスタインの意図に沿うものでしょう。


○1984年10月ライヴ

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

クリスチャン・ツィメルマン(ピアノ独奏)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

録音のせいかも知れませんが、ピアノが前面に出過ぎで、オケとのバランスが極端に悪い感じがします。もともとピアノ付交響曲のような曲なので、オケがピアノを包み込む器の大きさがないとどうも落ち着きません。ツィメルマンのピアノは打鍵が強くリズムを鋭角的に取ったテンションの高い演奏で、第1・2楽章などどこかホロヴィッツを思わせる引き締まった筋肉質のブラームスで、このこと自体が悪いわけではないですが、これを受けるバーンスタインのサポートがまったく良くありません。全体を早めのテンポで進めていますが、響きが薄手で、全奏ではこれが刺激的に響き、リズムの打ちが浅く、これはとてもウイーン・フィルのブラームスとは思えません。オケはピアノの攻めを落ち着いて受ける器の大きさが必要です。全体にオケとピアノががっぷり噛み合っているとは言えない演奏で、わずかに第2楽章にオケとピアノが火花を散らす場面が見られますが、聴きどころはそれくらいです。


〇1984年10月18〜21日ライヴ-1

シューマン:ピアノ協奏曲

ユストゥス・フランツ(ピアノ独奏)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

なかなかの好演だと思います。まずフランツのピアノが素晴らしい。タッチがキラキラ輝いて、引き締まった表現のなかにも、みずみずしい感性を感じさせます。バーンスタインとの息もよく合っています。バーンスタインは、やや早めのテンポで、斬れの良いリズムを聴かせて、緊張感が途切れません。第1楽章も勢いがある良い演奏だと思いますが、感心したのは透明な抒情が漂う第2楽章です。語り口が粘っこくなく、口当たりが良いのです。第3楽章も活気に満ちた表現です。


〇1984年10月18〜21日ライヴー2

シューマン:交響曲第3番「ライン」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

前半2楽章はテンポを快速に取って、生き生きとした表情が魅力的です。第1楽章は音楽にドライヴ感があって、印象がみずみずしい。第2楽章は、ちょっとテンポが早過ぎる気もしますが、ここでも音楽を前に進める力を感じます。水量が多いライン川という感じです。しかし、3〜4楽章はやや流れが重い感じがします。第5楽章はバーンスタインならばもっと爆発的に盛り上げても良さそうに思いますが、テンポは速くでも、リズムが表面的に上滑りした感があります。これは第3〜4楽章からの持っていき方に問題がありそうに思われます。



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