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バレンボイムの録音 (1990年ー1999年)


○1994年10月19日〜23日ライヴ

ブルックナー:交響曲第8番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、テルデック・ライヴ録音)

後年95年のシカゴ響との日本公演の演奏と比べると、その時のシカゴ響の方がテンポの変化が大きく、ダイナミクスの変化も大きいようです。この違いはオーケストラの 個性の違いから来るようです。このベルリンでの演奏ではテンポの変化をできるだけ抑えて、全体のフォルムに注意を払っているように思われます。その分表現はおとなしくなったと言うことも言えますが、朝日のもとに晴れ渡ったアルプスに見渡すようなブルックナーであることには変りありません。その意味で早いテンポでキビキビとした表現の前半の2楽章が好ましいと思います。第3楽章はちょっと表現が重い感じです。ベルリン・フィルの金管も素晴らしい出来です。弱音の繊細さ はベルリン・フィルならではですが、ドイツ的な分厚い響きではないのがちょっと残念ではある。しかし、バレンボイムの意図するところはこうした透明な響きなのでしょう。第4楽章はダイナミクスの変化が大きく見事です。


○1994年12月18日ライヴ−1

モーツアルト:コンサート・ロンド・ニ長調・K382

ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

ゆっくりとしたテンポでリズムをしっかりとインテンポに刻んで、いかにも生真面目。ちょっとリズムが重めで、この曲本来の魅力とはちょっと異なるような気がしないでもありませんが、しかし、端正な美しさで 、古典的な風格さえ感じさせます。


○1994年12月18日ライヴー2

モーツアルト:ピアノ協奏曲第24番

ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

全曲を通じてテンポは遅めです。リズムはちょっと重めで、律儀に思うほど、インテンポにしっかりリズムを刻んでいます。第1楽章の序奏は重々しく荘重に始まり、まるで ベートーヴェンのようでもあります。バレンボイムのピアノの響きも暗めで、これもちょっとベートーヴェン向きかも知れません。しかし、このモーツアルトは厳しさと哀しみがどこかに漂い、古典的な風格を感じさせます。特に第2楽章はしっとりと落ち着いた深い味わいを感じます。


○1994年12月18日ライヴー3

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」からの情景

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

夜明け〜ジークフリートのラインへの旅〜ジークフリートの死〜葬送行進曲〜フィナーレをつないだハイライト版。とてもロマンティックなワーグナーです。 油絵的な暗い色調の響きで粘っこく歌い上げています。そのせいか主旋律が浮かび上がってこない感じで・低音と金管が強調されているように聴こえるのは、あながち録音のせいでもないようです。フィナーレで澄み切った感動に至るのにいまひとつと感じるのはそのせいかも知れません。夜明けのテンポはちょっと遅すぎるのではないかと思うほど 、じっくりと粘らせた音楽造りが印象的です。一方、ジークフリートの葬送行進曲は早めのテンポに感じられます。ウイーン・フィルは渋い響きの金管が魅力的です。


○1995年6月5日ライヴ

ブルックナー:交響曲第8番

シカゴ交響楽団
(東京、サントリー・ホール)

ハース版を使用。全体の設計が行き届いており、明晰さを感じさせる見事な演奏です。それを可能にしたシカゴ響の水準の高さ、特に金管の壮麗さには感嘆せざるを得ません。バレンボイムの指揮はテンポを若干速めにとって躍動感あり、緊張感が途切れることなく 、無駄のない運びです。特に見事なのは第1楽章と第4楽章です。よく練り上げられた表現で、弦の緻密な動きと金管の見事さは言うまでもなののですが、霧がなく晴れ渡って、すべてが見渡せるような、分かりやすく説得力のあるブルックナーに仕上がりました。もしかしたらこの演奏に余韻がないと文句をつける人もいるかも知れませんが、これはこれで徹底した表現だと思います。バレンボイムは勘所では、それほど大きなテンポの伸縮ではないのですが、テンポを速めたり遅くしたりして曲のコントラストを明確につけています。それが実に効果的に作用しています。ブルックナーは出来る限りテンポの変化は抑えたいと私も思っていますが、機能的かつ色彩的なシカゴ響を振るならば 、この表現は納得できるものだと思います。


○1995年7月28日ライヴ-1

モーツアルト:ピアノ協奏曲第24番

ダニエル・バレンボイム(ピアノと指揮)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

バレンボイムは前年12月にウイーン・フィル定期でも同じ曲を演奏しています。その時の重いリズムをインテンポに律儀に刻む印象よりもリズムは軽く、しなやかで良い演奏になっていると思います。出来の良いのは第2楽章で、しっとりと渋みのある美しい演奏に仕上がりました。第3楽章も厳しさのある表現になっていて、バレンボイムの渋い響きが内省的な要素の濃いこの曲に似合っていると思います。


○1995年7月28日ライヴー2

ブルックナー:交響曲第9番

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

曲全体をすっきりと見渡すような明晰さにあふれています。テンポを早めに取り、リズムの斬れが良いので・躍動感あるダイナミックな演奏になっていて、あたかもジェット・コースターでアルプスの山々を巡っているような爽快な気分にさせられました。ブルックナーの朴訥さ・不器用さは消えて 、宗教的な深みに欠ける感じは否めませんが、華麗でダイナミックな音絵巻になっています。その意味で前半の2楽章は聞かせます。ウイーン・フィルも力のこもった演奏で、特に第2楽章のリズムの鋭い取り方・金管の荒々しい咆哮は印象的です。しかし、第3楽章ではこの行き方では表現がスッキリしすぎて 、この楽章の持つ情感が十分に捉えきれていない不満があります。


○1996年3月31日ライヴ

ワーグナー:楽劇「ラインの黄金」

ジョン・トムリンソン(ヴォータン)、ペーター・シュライヤー(ローゲ)、
ギュンター・フォン・カンネン(アルベリヒ)、ペーター・メンツェル(ミーメ)、
ルネ・パペ(ファーゾルト)、ジークフリート・フォーゲル(ファフナー)、
アンティー・スフォネン(ドンナー)、ウータ・プリエフ(フリッカ)、
メッテ・エイジング(エルダ)他

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ1996)

ベルリン・フェストターゲはこれまでも断続的に行なわれていましたが、バレンボイムにより96年から春の音楽祭としての体制を整えることになり、このリング・チクルスがメインを飾ることになりました。なお演出はハリー・クプファーで、環境破壊により神々の世界が滅亡するというコンセプトでした。バレンボイムのワーグナーはゆっくりしたテンポで・熱い情感のうめりを感じさせ・それでいて響きに透明感があり・素晴らしい出来です。特に高弦が重厚かつ強靭で輝きがあり 、オケがとても雄弁に感じられます。バレンボイムはまさに当代最高のワーグナー指揮者だと実感させます。


○1996年4月1日ライヴ

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」

ポール・エルミング(ジークムント)、ルネ・パペ(ヴォータン)、
ジョン・トムリンソン(ヴォータン)、ワルトラウト・マイヤー(ジークリンデ)、
デボラ・ポラスキ(ブリュンヒルデ)、ウータ・プリエフ(フリッカ)他

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ1996)

粒揃いの歌手陣のなかでもマイヤーのジークリンデが特に素晴らしいと思います。声量・声の張りとも申し分なく、生き生きとした歌いぶりで・他の歌手がかすんで聴こえるほど。バレンボイムのワーグナーはロマンティックへの回帰だと感じます。テンポを遅めに取っているが旋律をじっくりと歌い上げ、実にスケールの大きい演奏に仕上がっています。


○1996年4月4日ライヴ

ワーグナー:楽劇「ジークフリート」

ジュークフリート・イェルザレム(ジークフリート)、グレアム・クラーク(ミーメ)、
ジョン・トムリンソン(さすらい人)、ギュンター・フォン・カンネン(アルベリヒ)、
ジークフリート・フォーゲル(ファーゾルト)、デボラ・ポラスキ(ブリュンヒルデ)、
メッテ・エイジング(エルダ)

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ1996)

特にクラークのミーメが癖のある役どころを見事に演じています。イェルザレムは若干声に疲れが見えますが、ふたりの掛け合いによる第1幕後半はとても充実しています。加えて第3幕に登場するポラスキのブリュンヒルデも声に輝きがあって素晴らしい出来です。


○1996年4月8日ライヴ

ワーグナー:楽劇「神々の黄昏」

ジークフリート・イェルザレム(ジークフリート)、ギュンター・フォン・カンネン(アルベリヒ)、
ジョン・トムリンソン(ハーゲン)、デボラ・ポラスキ(ブリュンヒルデ)、
ウッタ・グスタフソン(グンター)、ワルトラウト・マイヤー(グートルーネ)

ベルリン国立歌劇場合唱団
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ1996)

バレンボイムの指揮は曲が進むにつれて・雄弁さを増して、響きが豊穣になっていくようです。今回のリング・チクルスでは後半の「ジークフリート」〜「神々の黄昏」でのオケの雄弁さは・ワーグナー指揮者としてのバレンボイムの素晴らしさを明らかにしています。「ジークフリート」に続きポラスキのブリュンヒルデが抜群に素晴らしい出来です。


○1997年2月23日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

ウイーン・フィルの柔らかい音色をよく生かして、格調高く味わいの深い名演だと思います。特に量感がある金管のたっぷりした響きはウイーン・フィルならではの魅力です。「田園」には手練手管は無用で・旋律を淡々を歌わせた方が曲本来の味わいが醸し出されると思いますが、バレンボイムの指揮はまさにそういう感じです。そこから自然に生み出されたスケールの大きさは、さまに巨匠の芸という感じがします。第1楽章はやや遅めのテンポでちょっと暗めの湿った響きが 、バレンボイムの尊敬するフルトヴェングラーにも似た感じがありますが、テンポは気分的に揺れることはなく・また重苦しく沈滞したムードに陥ることもありません。表情に無理がなく、伸びやかに歌われており、そのゆったりと落ち着いた味わいが好ましいと思います。ここではウイーン・フィルの弦がとても魅力的です。第2楽章も優れています。小鳥の鳴き声が曲になかに自然に溶け込んでいるようで、心が洗われるような思いがします。後半楽章の組み立ても巧いと思いますが、第5楽章は自然への感謝をじっくりとしたテンポで歌い上げて感動的に締めくくっています。


○1997年2月23日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

「運命」・「田園」というプログラムはオーソドックスなプログラムですが、しかしこの性格が異なるふたつの交響曲を描き分ける充実した演奏会には滅多に出会えないものです。このバレンボイム/ウイーン・フィルの演奏会はまさに期待通りと言うか 、これだけ充実した演奏が出来るなら、バレンボイムは現代の正統的なベートーヴェン振りとして、まさに第1級であると感嘆しました。バレンボイムの「運命」はその前に演奏された「田園」との関連を抜きにして考えられないと思います。もし単独で聴くならば、もう少し線の強めの演奏の方が好ましいと感じたことでしょう。しかし、「田園」の名演の後に続けて聞くと、そのゆったりして急くことのない店舗と茫洋としたスケールの大きさが自然と納得される気がします。第1楽章冒頭なども・フルトヴェングラー張りの大上段に振りかぶった演奏を予想していたら・拍子抜けするくらいに響きが柔らかいのです。しかし、「運命」の構築美への配慮は万全です。特にそれを感じさせるのは第4楽章で 、線が太い重量感のある演奏であり、このフィナーレは聴き応えがします。ウイーン・フィルの低弦に威力があります。


○1997年9月23日ライヴ

シューマン:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、ベルリン芸術週間)

録音が響きを取りすぎるような気がちょっとしますが、演奏は素晴らしいと思います。この交響曲は構成に難があると云われますが、確かに旋律が十分に生かされているとは言えずイメージが取りにくいところがありますけれど、バレンボイムはこの曲をフォルムから縛るのではなく、淀みのない流れのなかで大きく捉えて成功したと言えると思います。聴き終わって滔々たる流のなかに光が煌めくような印象が残りました。その意味では残響を長めに録った録音が良い方向へ作用しているかも知れません。テンポは全体を速めにとって、音楽の流れが停滞しません。特に前半第1〜2楽章では、そのキビキビしたテンポが好ましく感じられます。第3楽章はロマンティックだが下手をすると粘りやすいと思いますが、バレンボイムはここをサラリとした感触で処理しているのも成功しています。バレンボイムは、この交響曲のロマン性を無理ない形で引き出していると思います。


○1998年4月16日ライヴー1

ベートーヴェン:交響曲第8番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ)

ベルリン・フィルの重厚な響きが如何にもベートーヴェンらしく、四つの楽章のバランスが取れて、オーソドックスな聴き応えがする演奏になっています。テンポも落ち着いた感じで、リズムの刻みをあまり前面に出すことをしないので、重厚でがっしりした構造が印象に残ります。特に出来が良いのは第1楽章で、テンポを逸ることなく、しっかりした足取りが、音楽に深みを与えています。第2楽章はもう少し軽快さがあってもいいかも知れませんが、この第2楽章のおかげで、前半の重厚さが増しているのも事実です。後半の2楽章も手堅い出来です。


〇1998年4月16日ライヴ−

シューマン:4本のホルンのためのコンツェルトシュティック

ディル・クレデンジャー、イグナシオ・ガルシア、シュテファン・ドール、ゲオルク・シュレッケンベルガー(以上ホルン)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ)

クレデンジャーはシカゴ響団員、ガルシアはベルリン・シュターツカペレ団員、ドールとシュレッケンベルガーがベルリン・フィル団員です。 腕利きの奏者揃いなので、冒頭からホルンの響きが力強く闊達で、特に第1楽章「生き生きと」や第3楽章「とても生き生きと」で朗々とした見事なホルンの響きが楽しめます。


○1998年4月16日ライヴー

リスト:交響詩「前奏曲」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場、ベルリン・フェストターゲ)

重厚な演奏を予想していましたが、どちらかと云えば精神性よりスタイルに重きを置いた感じで、テンポが心持ち早めで造形がシャープで締まった演奏に仕上がっています。だからちょっと軽めの印象もあり、もう少しテンポを遅めにベルリン・フィルの金管を朗々と鳴らしてもいいかなという気もしましたが、まあこれは好みの問題かも知れません。


○1998年4月16日ライヴー

ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」〜ワルキューレの騎行

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン国立歌劇場 ベルリン・フェストターゲ)

当日のアンコール曲目ですが、バイロイトで鳴らしたワーグナー指揮者だけに、手慣れた感じで指揮しているという感じです。


○1998年6月21日ライヴ

ラヴェル:ボレロ、ビゼー:カルメン組曲第1番、ロドリーゴ:アランフェス協奏曲

ジョン・ウィリアムス(ギター)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ワルトビューネ、ワルトビューネ野外音楽堂)

ボレロはベルリン・フィルの重めのリズムが、終盤になって威力を発揮して聴かせます。カルメン組曲はコンサート・ピースとして割り切った演奏で、まあ一応の出来。アランフェス協奏曲はギターを聴くべき曲で、オケは添え物みたいなものですが、ベルリン・フィルがウイリアムスの繊細なギターを邪魔せず、優しくサポートできていて、これはなかなか楽しめました。


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