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朝比奈隆の録音 


○1996年5月16日ライヴ

ブルックナー:交響曲第5番

シカゴ交響楽団
(シカゴ、オーケストラ・ホール)

朝比奈のシカゴ響デビュー・コンサート。得意のブルックナーであったので期待されましたが、シカゴ響を十分に掌握できずに終わった感あり残念でした。構成が複雑で・旋律が親しみやすくないので扱いが難しい曲ですが、この曲をデビューに選んだのを見ても朝比奈の覚悟のほどが分かる気がします。朝比奈はテンポをゆっくり取ってスケールの大きい作りを目指していますが、如何せんシカゴ響の豊穣で色彩的な響きが朝比奈の音楽に似合っていないようです。朝比奈特有のゆったりと動じないテンポは確かに良いと思うのですが、このテンポでやるとシカゴ響が大きな身体を持て余しているような感じがして・ブルックナーの悠然たる風格が出てこないのです。響き渡る金管が刺激的に感じられ、なんだかいつものシカゴ響らしくない神経質的な響きに聴こえます。シカゴ響を振るならば、多少テンポを動かしてオケにダイナミックな動きを即した方がその良さが生かせた気がしますが。


○1997年3月6日ライヴ

ブルックナー:交響曲第8番

NHK交響楽団
(東京、NHKホール)

テンポをあまり揺らさず・しっかりとした足取りで、骨太な音楽を作っています。N響の響きが渋いこともあって・重厚な印象のブルックナーになっていて、手堅い出来であると思います。しかし、ブルックナーの魅力のひとつはふっとした色彩の揺らめきであると思うのですが、この点ではN響の色調は単調で・いまひとつブルックナーの面白さを引き出せていません。木管が弦の響きのなかから・木々の間から射し込む光のように響けばいいのですが。それと金管の響きが美しいとは言えないのも残念です。その遅めのテンポがスケールの大きさと・朴訥な雰囲気を生んでいるのはよろしいのですが。


○1998年3月16日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第4番

新日本フィルハーモニー管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

テンポを遅めに取り、あまりテンポを動かさず、骨太な作りで男性的印象の演奏に仕上がっています。泰然としたスケールの大きさがあって、生気があるとか・推進力があるのというのとはまた違いますが、まあ曲には似合っているかも知れません。それにしてもやや古いタイプのベートーヴェンかなという印象がします。第1楽章序奏から展開部に入るところでの休止の間のながさなどは、どことなく歌舞伎の大見得の如くなのは、微笑ましく思えます。第2楽章は遅いテンポがますます遅く、リズムの打ち方が独特ですが、音楽が若干響き中心に流れている感じがします。第3・4楽章とも遅いテンポに、器の大きさが感じられるのは確かですが、音楽の生気というものにはやや遠いようです。


○2000年3月10日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

大阪フィルハーモニー交響楽団
(大阪、大阪フェスティヴァル・ホール)

テンポ遅めでおっとりした感じの演奏で、活気には乏しい感じですが、曲の雰囲気はよく捉えられていて・第1楽章は好演です。オケの色彩感が乏しく・旋律の輪郭がボケた感じがするなど難はありますが、それも第1楽章においては大きな不満になっていません。のんびりした気分が合っているのでしょう。全体に遅めのテンポですが、そのなかで第2楽章がバランス上早めに感じられます。旋律がサラサラして・じっくりと息をつかんでいない感じです。第3楽章以降はかなり不満が残ります。テンポが遅いのはいいですが、やはり音楽に活気が不足しています。第5楽章はちょっと息切れの感じ。もう少し熱い想いがほしいところです。


○2000年5月25日ライヴ

ブルックナー:交響曲第9番(ハース版)

NHK交響楽団
(東京、NHKホール)

ブルックナー指揮者と云われた朝比奈隆にふさわしい見事な演奏だと思います。NHK響は低弦にもう少し厚みが欲しい気もしますが、高弦はニュアンス豊かであり、金管も渋めですがよく鳴っていると思います。第1楽章が特に素晴らしいと思います。インテンポを基調にゆったりと進める・その足取りがブルックナーの本質に迫っており、旋律も息深く歌われています。しかし、決してインテンポ一辺倒ではなく、微妙にテンポを伸縮させながら音楽に微妙な色合いの変化を付けているところが本当は大事なのです。第2楽章もリズム処理の巧さで活力のある表現に仕上がっています。この楽章も印象に強く残ります。


○2000年11月3日ライヴ

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ハース版)

NHK交響楽団
(東京、NHKホール)

全体のテンポを心持ち早めに取り引き締まった造形を心掛けていて、演奏の密度は濃い。NHK響の響きは暗く渋めで、金管の輝かしさなどはいまひとつですが、音色の微妙な色合いの揺らぎで勝負するのではなく、造形の骨組みの太さで勝負というところです。早めのテンポで一貫した四つの楽章のバランスも良いですが、特に後半の2楽章がオケが乗って来て・金管も冴えてきて、良い出来になりました。第3楽章はテンポ感覚が良く、生気のある表現です。第4楽章も足取りをしっかり取った骨格の太さが成功しています。


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