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アバドの録音 (1994年)


○1994年ライヴー1

ムソルグスキー:交響詩「はげ山の一夜」(原典版)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

原典版好きのアバドらしい選択です。いつも聞く「はげ山の一夜」とはかなり様子が異なり、響きは粗野であるし・旋律構成も異なりますが、まあリムスキー・コルサコフ版がよく出来ている ことを改めて確認できたというのが正直なところ。しかし、ムソルグスキーの着想の革新的なところが響きで直接的に伝わって来て、部分的ではあるが新鮮な驚きがあります。


○1994年ライヴー2

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

アバドはこの曲を得意としており、これまで数多くの名演を聞かせてくれました。それらはどれも鋭敏なリズム処理と斬れの良さが魅力であったと思いますが、今回のベルリン・フィルとの演奏は若干様相が異なるようです。良く言えば重厚で線が太い感じの仕上がりです。悪く言えばリズムの斬れが悪く鈍重な印象を持ちます。響きが豊穣に過ぎるのです。正直に言えば自分の個性を生かしきれておらず、豪華な椅子に座らされて居心地悪そうにしているアバドを思わせて、この時期のアバドとベルリン・フィルの関係の微妙なところを見せているように感じられます。アバドがベルリン・フィルにムソルグスキーなどやらせるのはそんなところが関係するのだろうと思います。ただし、最終プロのような大曲になればやはりベルリン・フィルは聴かせますが。「火の鳥」では子守歌の旋律に暖かさを感じさせるの が良いですが、火の鳥の登場の時のリズム処理などやはりもう少し斬れと印象の軽やかさが欲しいところです。


○1994年ライヴー3

チェイコフスキー:交響曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

前曲のストラヴィンスキーでは物足りなかった点が本曲のようなスタンダード名曲であるとまさにピタッと決まるわけです。ベルリン・フィルは大見得の仕方を知っているというか 、聴かせところのツボは心得ていますから、こういう曲になればアバドとベルリン・フィルの威力はさすがです。アバドの良さは曲全体を見渡した構成力の良さ、テンポ設定の巧さです。しかるべき流れを以って旋律が歌われており、その通りに鳴り響くという感じです。その良さは両端楽章によく出ています 。第2楽章の抑えたテンポのなかでもゆったりした大きい流れがあるのは、やはりベルリン・フィルの卓越した技術のなせるものです。


○1994年2月ライヴ

マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」

チェリル・スチューダー(S),シルヴィア・マクネアー(S),アンドレア・ロスト(S),アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(A),ローゼマリー・ラング(A),ペーター・ザイフェルト(T),ブリン・ターフェル(Br)、ヤン・ヘンドリク・ロータリング(B)
ベルリン放送合唱団
プラハ・フィルハーモニー合唱団
テルツ少年合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

アバドはさすがに声楽の扱いが巧みで、テンポを無理なく取って・響きを混濁させることなく響かせる術を心得ています。旋律が息長く豊かに歌われて、余計な力みがありません。全体の設計がしっかりしており、第1部や第2部後半のスケール感も見事です。また第2部前半の静寂感・神秘的な雰囲気もよく出ています。ベルリン・フィルの金管が朗々と響き渡ります。独唱陣も充実。


○1994年5月10日ライヴ

マーラー:交響曲第9番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン音友協会大ホール、ウイーン芸術週間)

アバドのマーラーは若いころの鋭敏な感覚はやや後退した分、重厚なタッチで安定感が増したと云えましょうか。ベルリン・フィルは低弦に威力があるので、線が太い印象に出来上がっています。感心するのは全体の構成がしっまりしていることです。旋律をじっくり聴かせる両端楽章が素晴らしいのは当然ですが、この演奏が安定感を感じさせるのは、中間2楽章の出来が良いからです。リズムはやや重めで、最初はやや渋い印象がありますが、決して躁鬱症にならない・うるさくないマーラーです。ある意味では健康的な感覚でとらえられているマーラーかもしれませんが、視点がしっかりしてブレがない感じがするのです。この2楽章があってこそ、重厚な最終楽章アダージェットが生きてくるのです。このアダージェットは、マーラーが苦しみぬいた果ての悟りの境地のように聴こえます。


○1994年9月ライヴ

チャイコフスキー:幻想曲「テンペスト」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、DGライヴ録音)

スケールが大きく・チャイコフスキーの旋律の魅力を堪能させます。ベルリン・フィルの色彩感・豊穣な響きが素晴らしく、特に前半の凄みさえ感じさせるオケの動きは聴きものです。後半の抑えた表現も見事で、アバドの集中力と劇的構成力はさすがです。


○1994年9月5日ライヴー1

チャイコフスキー:幻想曲「テンペスト」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

前半の響きはちょっとワーグナー的な感じにも思えるほど濃厚で・緊張感あるオケの動きが聴き物です。リズムが重めにして・重量感のある出来に仕上がりました。


○1994年9月5日ライヴー2

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

アバドがロンドン響を振った録音(72年)ではリズムが鋭い・透明な響きでしたが、この演奏では暖かみのある線の太い響きであり、かなり印象が異なります。リズムは重めに感じられて・鋭さよりもその重量感が強く印象に残ります。曲の先鋭さが薄れた分、古典として・オーソドックスにまとまったという感じがします。「子守歌」での暖かさと懐かしさを帯びた表現は魅力的で、ここではベルリン・フィルの木管のうまさと、弦ほ艶やかさが生きてきます。「カスチェイの凶悪な踊り」や最終場面では重量感のあるベルリン・フィルの低弦が効いています。


○1994年11月13日ライヴー1

シューベルト:「ロザムンデ」序曲

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

早いテンポで・一気に駆け抜けたような爽やかな演奏です。いささかスマートに過ぎる所なきにしもあらずですが見事な演奏です。キビキビしたリズム感が好ましく・新鮮な息吹きに溢れています。


○1994年11月13日ライヴー2

ヒンデミット:交響曲「画家マチス」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウイーン、ウイーン楽友協会大ホール)

第1楽章「天使の合奏」が素晴らしいと思います。キビキビとした早いテンポのなかに清冽で透明で美しい流れを描き出しています。アバドの巧みなリズム処理をウイーン・フィルはマイルドに受け止めて・落ち着いた色調に仕上げています。ここではウイーン・フィルの木管が活躍します。第2楽章は暗い弦の響きのなかに沈痛な趣きがあります。第3楽章もウイーン・フィルの特性を生かして・古典的な佇まいに仕上がっています。


○1994年12月4日ライヴ

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

スリリングでライヴ感覚に溢れた演奏です。生演奏ゆえにミスタッチ・オーケストラとの息が合わない箇所も散見できなくはないですが、それがむしろライヴの緊迫感を盛り上げているようにさえ感じられるのはアルゲリッチの人徳というべきかも知れません。アルゲリッチはもう十年以上もソロ活動を停止し、デュオや室内楽中心で協奏曲のソリストをつとめるだけですが、テクニックは十分です。打鍵の強さと荒々しさ・音の粒立ってクリスタルで実に魅力的です。自由奔放で・やりたい放題やっているようでいて、実はアバドの作り出す枠のなかにピタリ納まっているところなどやはり只者ではありません。アバドの指揮は全体に早めのテンポですが、旋律を大きくとらえた・構えたゆったりした演奏なので、アルゲリッチは安心してその息に乗れるのでしょう。ベルリン・フィルは透明な響きで、第2楽章の澄んだ美しさ・第3楽章 中間部の第2主題の入り方などサラリとしていながら心に残る歌いまわしです。


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