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アバドの録音 (1989年)


○1989年8月5日ライヴ−1

マーラー:歌曲集「子供の不思議な角笛」

ジェシー:ノーマン(アルト)
トマス・ハンプソン(バリトン)
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

一貫して早いテンポであり、透明な叙情が全体を支配しています。その一方で、この歌曲集の根底にある中世の民衆の生活の暗く陰惨な部分はメルヒェン的なオブラートで包み隠されて・耳障りが良くなってしまいました。例えば「死んだ鼓手」でのハンプソンはうまいですが、戦争の惨過と呪詛の声は消し飛んでいるようです。「魚に説教する聖アントニウス」もどこかに皮肉な味わいが欲しいところです。ノーマンも声は豊かで巧いのですが、柄が大きい歌唱で、マーラーの民謡的な旋律では素朴さに欠けるのは否めないところです。「ラインの伝説」などもちょっと色気あり過ぎかも知れません。「トランペットが美しく鳴り響く所」はノーマンが歌っていますが、ちょっと歌いすぎる感じで・ピア二シモの表現が不足で・死と静寂が十分でないような気がします。ウイーン・フィルの響きもちょっとマイルド過ぎる感じで、アバドの指揮も震えるような鋭さとグロテスクさの表現がいまひとつであると思います。


○1989年8月5日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

86年のライヴでは第1楽章はリズムが重く暗い雰囲気でしたが、ここではテンポが若干早くなっていることと、リズムの刻みがしっかりしたことで、旋律の彫りが深くなったという印象があります。決して明るくはないですが、落ち着いた趣きに仕上がっています。素晴らしいのは第2楽章です。早めのテンポですが、音楽がサラサラ流れるのではなく、しっとりと情感豊かな表現になっており・心惹かれます。第5楽章も良い出来です。自然への感謝、神への賛美をさりげなく・しかし伸び伸びと歌い上げています。アバドの指揮はウイーン・フィルを自在に歌わせながら、要所をしっかりと締めて見事なものです。ウイーン・フィルの豊かな弦の響きが素晴らしく、89年のまだ手探り状態的な演奏とは見違えるような演奏で・誰をも納得させられる正統的なベートーヴェンです。


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