明日への讃歌〜ありがとう、アリス
2001年9月3日。今日、京都は明け方から雨になった。
昨夜からずっと涙腺が緩みっぱなしで、訳もなく涙が出かかったりして、恥ずかしくてしょうがない。

思えば26年前、1975年のある日、ラジオから流れてきたあの曲が、アリスとの出会いだった。
♪今はもう誰もぉぉ〜〜愛したくないのぉ〜 
叫ぶようなツインボーカルと力強いギターの音、ビートの利いたドラム。すべてが衝撃的だった。
「ちんぺいさん?べーやん?きんちゃん? 漫才トリオみたいやな〜」などと思いながらも、すぐに3人の名前を覚えてしまった。「おでこの広い人と、ひげの人と、面白い声でしゃべる人」
ある意味で、妙な3人組だったなあ。

アリスと過ごした青春は、今考えてみればほんの束の間のことだったような気がする。まだコンサート会場へ行く勇気のなかった僕は、ひたすらレコードを聴き、歌詞を覚え、彼らの出演するテレビを心待ちにすることくらいしかできなかった。
1977年、初の武道館公演。直前まで体調を崩していたちんぺいさん。
「僕がもし歌えなくなっても、ピンスポットだけをあててほしい。それで大丈夫だから」
本当に、この人は歌うことを大切にしている人なんだと思ったことを今も覚えている。
「ザ・ベストテン」に出演した時、まだ歌えなくて、それでもカメラの前で微笑んでいたちんぺいさんの姿。痛々しくて、でもファンのために出演してくれたことが何よりも嬉しかった。そして、2人のアリス。べーやんもきんちゃんも、カッコ良かったよね。

1978年、2度目の武道館公演では、7日間の動員数が実に8万人にもなった。すごかった〜。
当時、一世を風靡していたピンクレディーやジュリーと互角以上に渡り合うスーパーグループになったアリス。今のSMAPやモー娘の比じゃなかった。本当だよみんな!
もしかすると日本中が「ハンド・イン・ハンド」に酔いしれたんじゃないかと思うくらいだったね。
周囲には、いろんなことを言ったり批判したりする人がいたけど、アリスのことを知らない人や、外部の人が冷めた目でみたら、ひょっとすると滑稽に映ったかもしれない。でも、僕達ファンは、紛れも無く熱く燃えていた。世界中の人が手をつなげば、きっとこの地球に永遠の平和がやって来るんだと信じた。もちろん、僕は今でもそう信じている。信じなくちゃいけないと思う。

1980年5月21日、アリス活動停止の記者会見があった。「解散」ではなく「活動停止」だと彼らは言った。でも世間の人はみな「解散」だと言った。
「俺らがやりたいからやる。わかってもらえへん人にはわかってもらわんでもええと思う」
「君らはたぶんわかってくれるやろうと思う」
「絶対、俺らはいつか帰ってくるから」
「アリスっていうのは俺たちの夢やから将来自分の子供に『お父ちゃんらは、アリスしてたんやぞ』って言えるくらいにならんとアカンな」
「どっかでまた逢おな!」


あれから20年が過ぎた。
2001年1月17日、神戸。その時の言葉どおり、アリスは僕らの前に帰ってきてくれた。
それは、3人が20年間のソロ活動で育ててきた大事なものが散りばめられた、新しいバンドの誕生だと僕は感じた。目の前ではたしかに、ちんぺいさんとべーやんがハモっていて、きんちゃんがドラムを叩いているけれど、それは僕の知っているアリスをはるかに超越した、彼らにとっても、僕達ファンにとっても「夢」そのものだったような気がする。

2001年9月2日、大阪城ホール。この夜のことを、僕は一生忘れないだろう。
ちんぺいさんも、べーやんも、きんちゃんも涙もろくなったけれど、笑顔がずっと素敵になっていた。誰よりもアリスを一番楽しんでいたのは、3人のメンバー自身だったのかもしれない。
そして、僕は生まれて初めて、コンサート会場で泣いた。ひとつひとつの歌に思い出を重ねていくうち、涙があふれた。気がつくと、夢中で一緒に歌っていた。
アンコールの鳴り止まない拍手と声援をぼんやりと聞きながら、僕の中で何かが終わりを告げた気がした。けれどもそれは、新しい何かの始まりであると同時に、新しい夢の始まりに違いなかった。

ありがとうアリス。ありがとう、ちんぺいさん、べーやん、きんちゃん!
きっと今日からまた、前を向いて生きてゆける。いつまでも青春。そして、いつまでも誠実に。
そして今回のツアーで出会ったみなさん、また逢おうぜ! この出会いは一生の宝物だから。
僕はいつまでも、遠くからみんなにエールを贈り続けるよ!
Someday,Somewhere,Somehow, いつか、どこかで、どうにかして、また逢おう。
出会いこそが、永遠に消えないもの。勇気こそが、永遠に消えないもの・・・


今夜、久しぶりに部屋の片隅で眠っていたギターケースの蓋をそっと開けてみた。
弦は少し錆びていたけれど、音色は少しも錆びついてはいなかった。
弦を新しいのに張り替えよう。あれ?音叉がない。カポのゴムも緩んでいる。
明日、買いに行くことに決めた。
そして僕の心の中には、まぎれもなくあの日と同じ風が吹きはじめていた。

(北斗圭司)

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