南山進流声明の音符記号

五音博士図
上の図に表わされた音符の書き方を五音博士といい、現在も南山進流の教則本で音符を表わす博士として使われています。南山進流ではこの博士がはじめから使われていたわけではありませんでした。根本の博士は“譜博士”といい、わかりにくいものであったということですが、どんなものであったかは明らかではありません。
この博士を発明したのは、金剛三昧院流の祖といわれる証蓮房 覚意(かくい)師です。この五音博士の図をつくり、師匠である祐真師に見せたところ、大変喜ばれ絶賛されたということです。ところが、当時の高野山では、これほど重大な発明が理解できずに受け入られませんでした。その後、高野山内の学徒が根本の博士を改めて、この五音博士を使うようになりました。
覚意師は五音博士を発明するなど南山進流にとって重要な人物にもかかわらず没年月日など正式な記録がありません。よって、色々な問題はありますが、ともかくこの五音博士の考案によって南山進流声明が特徴付けられました。
なお、南山進流声明の博士は、他流のように細い線で描く博士をきらい、太い線で描くのが特徴です。
覚意師の五音博士は、当時としては画期的な発明であり、声明を非常に学びやすくしました。しかし、五音符は文字を中心に一本の線の方向によって、その音を知らせるだけのものですから、旋律を表現することが不可能てす。そこで、これに文字をつけ加えて約束記号を表現します。
図は南山進流声明の「散花」(さんげ)の譜であり、実際に使われるものです。五音符の線のまわりにいろいろな文字が書かれています。この線に約束事が書き加えられて始めてひとつの音符としての働きをします。
なお、その約束記号とは以下のようなものです。
ユリ・賓由・荒ユリ・ツキユリ・ユリソリ・ユリ合セ・ユリオリ・ユルグ・イロ・イロモドリ・ツキモドリ・ツヤ・ソル・ソリキリ・能断・トメ・早重ネ・折捨・マワス・カカル・アタル・口内アタリ・打付・打カケ・延付・自下・ハネ切・吹・引・ハル・スカシ・押・本オロシ・ヨコオロシ・引上ル・和ニハヌル・ステル・ワル・半音・短・長・延・急などです。

これを江戸時代に寛光師が仮譜というものをつくられました。これは上図のようなものです。散華の「我」「道」「場」「花」「養」「仏」を例にあげております。
寛光師の仮譜では不備があり不合理な点を含んでいるということで、岩原諦信師が新しい工夫をされて発表されたものが上図の昭和改板の譜です。


先徳方がご苦労され、研究されて後世にできるだけ的確な音を伝えるために努力されて改善されてきた譜でありますが、微妙な人間の声の変化を譜にて伝えるということには大変難しいものです。
結局は、師匠について正確な譜を習い、練習に練習を重ねることが大切なことと思います。


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