ソランジンのお話 |
鷲林寺にとって「大鷲」は切っても切れない鳥獣です。 古くから伝わる鷲林寺の物語にも「大鷲」がでてきます。 この「大鷲」は「ソランジン」と呼ばれる悪神として登場します。 ソランジン・・・ 何とも奇妙な名前です。 昔は鷲のことをソランジンとでもいったのでしょうか?? このページでは「ソランジン」とは一体何ものなのかということをご紹介いたします。 |
鷲林寺開起伝説に登場するソランジン 今を去る約1200年前、淳和天皇の勅願を受けて、観音霊場を開くために弘法大師さまが広田神社で通夜をして拝んでおられました。すると化人が現れて 「あなたの求められている地は、ここから西の方角にあります」 と教えられました。 翌朝、広田神社から出て、西の方角にある山にむかって歩き始められました。山にさしかかった時、大鷲が出現して、口から火を吐きお大師さまの入山を妨げたのです。その大鷲は「ソランジン」と呼ばれる悪い神さまで、このあたりに住む支配者だったのです。 ここに寺を作って仏教を広められると、自分のいうことを聞いていた人間が良い心をおこして、自分の言うことを聞かなくなるということから「ソランジン」はお大師さまの入山を妨げたのです。 お大師さまは、かたわらの木を切り、六甲の山から湧き出る清らかな水をもってお加地(かじ)をして、その大鷲を桜の大木に封じ込めました。すると再び化人が現れて 「観音示現(かんのんじげん)の地、なんじの求める霊域はこの処なり。なんじ、しばらく礼拝(らいはい)せよ」 と告げられました。お大師さまはご自分の体を地に投じて礼拝をすると、不思議にも観音さまが現れました。そのお姿を写して大鷲を封じ込めた桜の霊木にて十一面観世音菩薩(じゅういちめん かんぜおんぼさつ)を刻み寺号を鷲林寺(じゅうりんじ)と名付けられました。その後八幡高良(はちまんこうら)などの社を再建し新たに白山権現(はくさんごんげん)、栂尾明神(とがのおみょうじん)などの神々を祭り、さらに八面臂(はちめんひ)の荒神(こうじん)をまつられました。先の十一面観世音菩薩を本尊として、脇立に薬師如来(やくしにょらい)・鷲不動明王(わしふどうみょうおう)・毘沙門天(びしゃもんてん)をおまつりしました。 |
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神呪寺開起伝説に登場するソランジン ソランジンを伝えるお寺は鷲林寺だけではありません。実は、鷲林寺のお隣のお寺 神呪寺さんの開起伝説にもソランジンは登場します。 甲山(かぶとやま)とソラジン むかし、むかしのことでした。 都から、天皇のおきさきが、お寺を建てる場所を探して甲山に来られました。このおきさきは、西の方の山にあまりにも美しく光る雲がかかっているのを見て、ふしぎに思い、甲山までたどりつかれたのです。 甲山に来てみると、野にはいろんな花が咲き乱れ、地中からは蒸気が立ちのぼって五色にかがやいていました。そこへ大きな美しい蛾(が)が現れ、この山を守るように、黒い息をはきながら空高くまっているのでした。 おきさきは、「なんてふしぎなところだろう」と思い、頂上に登ってしばらくぼうぜんとしていました。すると、むらさきの雲がたなびいて来て、みねいっぱいになりました。その中からとつぜん美しい女神が現れて。 「ここは『摩尼(まに)のみね』と言い、むかし宝をうめた所です。仏さまをまつるにはとても良い所です」 と告げて姿を消しました。 都から来たおきさきは、たいへん喜んで、さっそくお寺を建てようと決め、自分も尼さんになって名を如意尼(にょいに)と変えました。 如意尼は、仏さまの心を知ることかせできるようにと、毎日熱心にお経を勉強しました。やがて弘法大師を招いて如意輪観音(にょいりんかんのん)像を彫ってもらい、大勢の人の力で甲山にりっぱなお寺ができることになりました。 |
ところが、甲山の西の方の鷲林寺あたりに、悪神・ソラジンが住んでいました。 ソラジンは 「仏をまつると人々はみな良い人間となって、自分の言うことなど聞かなくなるだろう。これは絶対反対だ。お寺ができないようにじゃまをしてやろう」 と考えました。 そこでソラジンは、大ワシに化けて火をふきながら甲山をおそい、寺を焼いてしまおうとしました。 お寺には、仏さまにお供えする水をくむきれいな井戸がありました。如意尼をはじめ尼さんたちは、その井戸から水をくんで火を消そうとしましたが、火をふくソラジンの勢いが強く、お寺があぶなくなりました。 その時、とつぜん、その井戸から水か吹き出しました。水は水柱となって立ちのぼり、それが四方広がると雨のように降りそそぎ、またたく間に火を消してしまいました。 火を消されたソラジンは 「おれの力では、どうすることもできない。無念じゃ!」 と、逃げて帰っていきました。 尼さんたちはほっとしました。が、いつまた現れてくるかもしれぬソラジンです。どうしたものかと弘法大師にたずねますと、 「悪い神でも、決してにくんではならない。にくめばまたきっと悪いことをするだろう。東の方に大きな岩があるから、その岩の上にソラジンをまつつてやれば、きっとおとなしくなるであろう」 と教えてくれました。 如意尼は、そのとおりに、ソラジンを神としてまつりました。それからというもの、再びソラジンは現れませんでした。
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神呪寺ではソランジンがソラジンとなっていますが、同一のものと見て良いでしょう。 いずれにしても、ソランジンは相当な悪神として登場します。 もうひとつの資料として「大社村史」(たいしゃそんし)に掲載されている「鷲林寺開起伝説」中に “三世荒神の上首 麁乱神 八臂荒神をまつる” という文章がでてきます。“麁乱神 八臂荒神”(そらんじん はっぴこうじん)、すなわち、鷲林寺開起伝の中に登場する 「本尊十一面観音などをおまつりしたあとに、八幡高良(はちまんこうら)、白山権現(はくさんごんげん)、栂尾明神(とがのおみょうじん)などの神々を祭り、さらに八面臂(はちめんひ)の荒神(こうじん)をまつられた」 とある荒神さんを麁乱神(そらんじん)として登場させています。 そこで密教大辞典にてソランジンをひいてみますと ソランジンではのっていませんが麁乱天(そらんてん)として紹介されています。 麁乱天(そらんてん) 麁乱天(そらんてん)のこといまだ経軌の説を見ない。けだし、三宝荒神の異名か。この天の讃が諸秘讃に収載されている。云々 ソランジンは八臂荒神のことだった 「大社村史」「密教大辞典」などから考えると、ソランジンは荒神さんのことであると言っても良いでしょう。大鷲に化けた悪神として登場するソランジンではありますが、鷲林寺にとって八臂荒神、すなわちソランジンは大切な鎮守さんであります。何故このような物語が誕生したものなのかは定かではありませんが、いずれにしてもソランジンが大切な神さまであるということが解かりました。 現在の八臂荒神は、本堂の裏に小さなホコラを建てて、その中に「八臂荒神」と書いたお札をまつっているだけです。 いずれの時代にか正式に仏像を刻み、おまつりさせていただこうと考えております。 |