その27  臭いを盗むのも泥棒です


十善戒の教えの一番目が「不殺生」(ふせっしょう)すなわち、ものの生命をとってはいけないということですが、二番目に「不偸盗」(ふちゅうとう)すなわち、ものを盗んではいけないという教えがあります。人のものを盗むということは“泥棒”になります。これについて、人のものを盗まなかったらそれでよいと思いがちですが、それだけではいけません。大切なカバンの中をのぞいたり、人のノートや手帳を黙って見たりすることも“盗む”という行為にあたります。また、人の話を障子やふすまの陰から聞いたりすることも盗み聞きとなり、やはり“盗む”という行為にあたります。
むかしのお話に“臭い”を盗むのも泥棒であるという笑い話があります。
ある蒲焼屋がありました。夕方になると、ウナギを開いて炭でいこした網のうえで焼きます。その店秘伝の特性のタレをウナギにかけて焼きますとなんともいえない良いにおいがあたり一面にただよいます。ある日、その蒲焼屋にひとりの男がやって来ました。蒲焼を買う様子もない、しばらく蒲焼の前に立って良い具合に焼きあがった蒲焼をジツと見つめ、お腹一杯にその臭いをかいで早足で帰っていきました。次の日もその男はやって来て同じことをして早足で帰っていきます。どうも蒲焼の臭いをおかずにして夕食を食べている様子なのです。あまりにも毎日続きますので、ある日蒲焼屋の主人がその男のあとをつけていきました。やはり、臭いをおかずに夕食をしていました。
「まいど!!蒲焼屋です。臭いのお代金を頂戴しに来ました」
主人は玄関先から声をかけました。すると男が出てきて
「いくらですか??」
といいながら財布に手を入れて小銭をザラザラとさせました。
「えっ、払ってくれはるんですか? おおきに・・・」
少し驚きながら蒲焼屋の主人はその小銭をもらおうと手を出しました。すると
「あかん、あかん、音だけもって帰って」
と言いました。
大阪に伝わる笑い話ですが、臭いを盗んでも罪になるということです。
あれがほしい、これがほしいと思うことが“いやしい心”となるのです。
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