その1  星



18才の時からお坊さんになるために高野山大学に通いました。三宝院というお寺で小僧として修行しながらの生活でした。1年生の時のお話です。お寺の仕事が終わって自室に帰り、ぼんやりと窓から見える星を眺めていました。星の数は下界よりもはるかに多く、下界のものとは違ってキラキラと美しく輝いています。高野山は海抜約1000メートルに位置する聖域・・・星が美しいのは空気が澄んでいるせいでしょう。
手が届くほど近くに輝く星を眺めながら、小学生の頃に先生がお話されたことを思い出しました。
「星の数はたくさんあるけれど、その中には何万光年も離れたところにある星があるんだよ」
という言葉でした。
光年・・・それは光りの速度。光は1秒間に地球を7周半します。その速度で何万年前に放たれた光が今、私の目に届いていることに気がつきました。とすると、何万年前に放たれた光ならば、今現在その星は存在しないかもしれません。また、光の速度で何万年もかからないとその星には行けないということです。大宇宙の想像もつかない大きさに気がつきました。
では、その大宇宙の広さ、大きさに比べて私たち人間の生命の大きさはどうでしょう。いくら頑張っても100年とちょっと・・・大宇宙の生命から比べるとアッという間の人生です。
しかし、私たちひとりひとりの人間は、何億分の一の確立でこの世に生命を受けたのです。また、私たちの両親にそれぞれの両親がいて、それらの人たちにもそれぞれ両親がいるのです。そうやって10代先まで数えていくと実に2046人の先祖がおられるのです。例えば、5代前の先祖が違う人と結婚していたら・・・それ以降の人間は、まったく違った人間が生まれてくることになるのです。
生命・・・それは大宇宙から比べるとちっぽけなものかもしれません。しかし、大きな大きなものなのです。

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