高野山真言宗第六地域伝道団
平成17年度 お盆用リーフレット


高野山真言宗第六地域伝道団 (兵庫支所 播磨支所 但馬支所 淡路支所)では年に数回、檀信徒さまに配る布教資料 リーフレットを作成しています。リーフレットには担当住職の日頃の思いなどを綴った文章が掲載され、毎回檀信徒の皆さまから好評を頂いております。この度、平成17年度“お盆用リーフレット”の文章を住職が担当しました。

お盆の行事は年々略されるようになったように思います。特に都会では精霊迎え・精霊送りの行事なども簡素化される傾向にあります。昔はお盆にお迎えしたご先祖さまにお供えしたおさがりを船に乗せて川に流しました。今では環境破戒につながるとして、このような情緒ある風景も見られなくなってしまいました。しかし、いつの時代になっても、どのような環境になっても、ご先祖さまを思う心は変わらないでいてほしい。そんな思いから綴ってみました。内容は下記の通りです。ご笑覧ください。

高野山真言宗第六地域伝道団
お盆用 リーフレット表紙


心を取り戻す機会『お盆』

ここは田園風景が残る静かな農村。うっすらと明るくなり始める早朝、あぜ道を進むチョウチンの明かりが見えます。稲の花が咲き始め、夏の風に揺れています。チョウチンの明かりは自分の足元を照らすものではなく、大切な客人の足元を照らし案内するものです。時折客人を気づかうように振り返りながら進みます。ようやく家に到着すると丁重に客人を仏間に案内します。しかし、客人の姿は私たちには見えません。これは私が住まいする地方に残るお盆の「精霊むかえ」の様子です。八月十三日早朝に先祖が祭られるお墓にチョウチンを持って行き、お墓の前でチョウチンの明かりをつけてご先祖さまを仏間まで案内します。
仏壇の前には季節の果物や野菜などがたくさんお供えされています。お盆の間、農家のお家は一切の仕事を休み、八月十五日の夕方までご先祖さまの供養をするのです。この間にお寺から棚経のお参りに行かせていただきます。都会ではこのような行事の代わりにオガラを焚いて「精霊むかえ」をしますが、地方では伝統行事として大切に守られています。
私たち人間一人を形成するのに八百五十万人の血が混じっていると言われています。私たちには両親がいます。その両親にはそれぞれ両親がいますから祖父母は四人ということになります。その数は代を重ねるごとに倍・倍に増えていきます。十代前では千人、二十代前では百万人を超すご先祖がおられることになります。では仮に五代前のご先祖が違う人と結婚されていたらどうなっていたでしょう。それ以降はまったく違う子孫が生まれてくるということになります。どのご先祖についても同じことが言えますが、こう考えていくと私たちは勝手に生まれてきたのではなく、色々な縁をいただいて生まれてきたということに気付きます。その縁のひとつでも書ければ私たちは生まれてこなかったのです。「生きている」のではなく「生かされている」のです。
科学の発展とともに私たちの生活はスピード化され大変便利になりました。しかし、それとは裏腹に心の貧困が問われています。
お盆はご先祖に感謝をする期間です。都会・地方によって供養の仕方は違っても、ご先祖に手を合わせる心は一緒でありたいものです。                                  合 掌

                                       兵庫支所下  鷲林寺  藤原 栄善


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