渋田見山再訪


 「山岳巡礼」の根橋平良さんと、春休み中に渋田見山に登る約束をしていた。前日、冬型の気圧配置に逆戻りし、少し緩んだら、また低気圧が近づいてくるという悪天候、しかし前々からの予定で、この日しかない。
 幸い、朝のうちは天候が持ちそう。しかも渋田見山は大分前だが一回登っている。標高も、標高差もそれほど無いし、根橋さんと二人だ、大丈夫だろうと出発。
 根橋さんの四駈車で、内の山林道を登る。悪路をしばらく登り、雪がかなり出てきて、車を置いて出発。
 以前登った時は、林道の下の方に車を置いてきたせいや、その後林道も上まで伸びたようで、かっての雰囲気が無く、登り口の広い所が見当たらなくて通り過ぎてしまっていた。(その場所は変わっていたのが、下山時に分かった。)
 ちょっと、行き過ぎたのかな、と思う場所まで林道を上る。林道はまだ続いている。右手に尾根が張り出して、そこが小さい沢になっている。
 天候も悪化のきざしで、簡単に登り口まで案内できると思っていた思惑がはずれて、少しあせってきた。「どうもおかしいです。こっちの尾根のこの辺に来ちゃったんではないかな?もどりますか。」私は現在地が左の地図で、破線の道の先端あたりのような気がして、根橋さんに地図を示すと、「大分車で登りましたよね。目の前のこの尾根を登ってみましょう。そうすれば分かるかもしれない。」
 そこで、根橋さんについて、沢にそった踏み跡を少し登り、すぐに、尾根に向かって急斜面を登りだす。雪は無く手は使わなくてもよいくらいの斜面で、けもの道が交差し、落葉樹が点点としてる。晴れていれば気持ちがよい位の斜面だ。
 しばらく登ると、幹の皮が大きく剥がれている木が現れる。「これはシカですかね。」などと話しながら登る。
 私は、現在地が地図上の内の山沢の南の尾根の南斜面を歩いているような気持ちで登り続ける。
 しだいに傾斜がゆるまり、下草が笹になる。いかにもシカが歩き回っているような地帯に出た。まだ雪は降り出さないが、稜線が何となく雪雲でかすんできて見通しがつかなくなりつつあった。
 根橋さんは、帰りの方向を見失わないように慎重に赤布をつけている。晴れていればどうという事はないと思われるが、この時点では、本当にちょっと心配な気分だった。
 稜線の方を見たが、どうも様子が変だ。木々の間から、左手に雪の積もった緩斜面の雪原が見えた。地図を見直すと、1300と書いてあるところも、尾根だと気付いた。もしかしたらここを登っているのかもしれない。
 斜面はゆるく、いかにもピークへと向かうような踏み跡もある。もしかしたら上手くいったのかもしれない。
 始めは半信半疑だったが、三角点を発見し、その突き上げた所が広々とした頂上だった。頂上部分は浅い雪に覆われていた。(写真は根橋さん)
 1300mの等高線の尾根なら、標高差が300m位だから、このくらいの登りで到着して当然だ。
 さっきから、笹の葉がシカに食べられたのか、山頂部一帯の笹の葉が無くなっているのに気付く。
 木の幹が剥がされているものもあり、シカが増えすぎていて。シカ害などが始まらなければいいが,と思う。
 雪雲で霞んでいて、樹間から見えるはずの展望は全く無い。
 前きた時より、明るい感じになっているのは、冬で落葉しているからか、シカに笹の葉を刈り取って?もらってあるせいか、木々が切られた跡もある。広々とした山頂部に、「いい山頂ですね。」と根橋さんも喜んでいてうれしかった。
 それにしても、この尾根を登ってみようという根橋さんの判断はピッタリだった事になる。
 同じ道を下るつもりだったらしい根橋さんに,帰りは、以前登ってきた道を確かめたくて、「そっちへ下りましょう。多分こっちだったと思います。」と樹間に少し木々が尾根に生えているように見える方向を指す。
 根橋さんは、「ちょっと待って下さい。」と言って、地図と私の持っていた磁石を持つと、方向を確認した。すると、私が東と思い込んでいた方向は、北東の霊泉寺川の方へ延々と下る尾根の方であった。
 私は,磁石は時々お守りがわりに持ち歩くだけで、こんな天候で登る事はめったに無いので、こういう場面で、的確に使う経験がなかった。あやうく変な方へ下るところだった。
 磁石で確認した方向に歩を進めると、尾根状の地形や明瞭な人の踏み跡が現れ、東へ進む尾根に入った。
 雪が降り出してきたが、振り返って山頂部を見ると、以前に登った時に見た山頂部のシルエットが雪に霞んでいた。
 さらに以前登ってきた南南東側に派生する尾根に向かって右折して下りていったが、踏み跡も見失い、大体の感じで下りていくと、以前上りだした口に到着した。こちらからの道は以前より荒れているようだ。
 そこは、今日登りだした場所より少し下で、以前と様子が変わっていて、行きには、前登った口と気付かないで通り過ぎてしまっていたのだった。
 今回の登山では、自分の思い込みが間違っていた個所が二回あり、改めて、道のはっきりしない山に登る時の面白さを味わうことができた。根橋さんの里山歩き術の一端にも触れて勉強にもなった登山だった。
 帰りは、武石の「岳の湯」に入って暖まったり、根橋さんに我が家にもちょっとお寄りいただいたりした。(根橋ファンには申し訳ありませんが、地理的に家が近いのでお許しいただけるとおもいます。)
 充実した一日でした。
(2006.3,30)