坂野法律事務所 最高裁判例分析     転医・転送義務

  判決日等 発生時期等 事    例 争   点 内      容 ポイント等

1


























 

H9.2.25
判時1598
P70~

破棄差戻






















 

S51.3
58歳 女性

























 

一 医療過誤訴訟において鑑定のみに依拠してされた顆粒球減少症の起因剤の認定に経験則違反の違法があるとされた事例。
二 医療過誤訴訟において鑑定のみに依拠してされた顆粒球減少症の発症日の認定に経験則違反の違法があるとされた事例。
三 顆粒球減少症の副作用を有する薬剤を長期間継続的に投与された患者に薬疹を認めた場合における開業医の義務。

S51.3.17~4.14
  風邪で開業医にかかる
顆粒球減少症の副作用を有する他種類の風邪薬を投薬
S51.4.14~4.16
  外科入院
S51.4.16
  国立病院受診,即入院
S51.4.23
  顆粒球減少症による敗血症に基づく内毒素性ショックにより死亡

@顆粒球減少症の発症日。
A顆粒球減少症の起因剤。
B医師の注意義務違反の有無。























 

訴訟上の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実の存在を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである。
Aの本症の原因は,医師が投与した薬剤のうちの1つであること又はその複数の相互作用であること及びAが4月12日には本症を発症していたことが真実の高度の蓋然性をもって証明されたものというべきである。
開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては,自院又は他の診療機関において患者が必要な検査,治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務があるというべきである。









 

開業医の転医義務,検査義務,経過観察義務につながる規範を定立したということができる。























 

2


























 

H15.11.11
判時1845
P63
























 

S63.9
12歳男性

























 

一 開業医に患者を高度な医療を施すことのできる適切な医療機関へ転送すべき義務があるとされた事例。
二 医師に患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った過失がある場合に於いて,上記転送が行われていたならば患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときの医師の不法行為責任の有無。

頭痛,発熱,頸部痛を訴えて受診上気道炎等と診断。
抗生物質等を投与 … 改善せず
翌日も薬増やす等の対応。
初診から4日後 … 大量の嘔吐
点滴等受けるもおさまらず。
5日後 … 意識混濁状態となる
総合病院に紹介状だす
急性脳症と診断
脳原性運動機能障害の後遺症




 

開業医である本件医師に転送義務を怠った過失があるか。

過失があるとして,重大な後遺症との間に因果関係が認められないとしても,
重大な後遺症を残さない相当程度の可能性が認められるか。

















 

医師は,初診から4日後の時点で,病名は特定できないまでも,本件医院では検査及び治療の面で適切に対処することができない,急性脳症等を含む何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことを認識することができた。
その時点で,直ちにAを診断した上で,急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処しうる,高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へAを転送し,適切な治療を受けさせるべき義務があった。
患者の診療に当たった医師が,過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,その転送義務に違反した行為と患者の重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,適時に適切な医療機関への転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。
(急性脳症の予後は一般に重篤,統計上,完全回復率が22.2%,残りの77.8%の中には,軽傷の者も含まれていると考えられることからすると,統計数値は,重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が存在することをうかがわせる事情があるというべきである。)
 

事例判断であるが,一般開業医の総合病院等への転送義務を論じたもの。

事例判断ではあるが,相当程度の可能性の法理を,患者に重大な後遺障害が残ったケースについても該当するとしたもの。
完全回復率22.2%は相当程度の可能性の存在をうかがわせる数値とし,相当程度の可能性についての考え方を具体的に示したものと言える。












 

3













 

H19.4.3
判時1969
P57~











 

H13.12
34歳男性












 

精神科病院に入院中の患者が消化管出血による吐血等の際に吐物を誤嚥して窒息死した場合において担当医に転送義務違反の過失があるとした原審の判断に違法があるとされた事例。

早朝 吐物,吐血 認める
  消化管出血疑い 内服薬投与
PM3:30頃 体温上昇 脈微弱等
     強心剤注射
PM4:50 多量の吐血,嘔吐
    意識消失
PM5:14 死亡
 

消化管出血による吐血等の際に吐物を誤嚥して窒息死したことにつき,担当医師に適切な時期に転院させなかった過失があるか。









 

Aは発熱,脈微弱,酸素飽和度の低下等の呼吸不全の症状を呈していたが,@頻脈とはいえず,急激な血圧低下も見られず,酸素吸入等が行われた後はAにチアノーゼや四肢冷感はなく,体動も見られたこと,AAに循環血液量減少性ショックの原因になるような多量の消化管出血を疑わせる症状があったとはうかがわれないこと,B病理解剖の結果に照らせば,Aが感染性ショックに陥っていたとも考えがたいことなどに照らすと,その時点で,担当医師に転送義務又は気道確保義務に違反した過失があるとした原審の判断は,経験則に反するなどとして,原判決を破棄した。


 















 
 
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