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判決日等 |
発生時期等 |
事 例 |
争 点 |
内 容 |
ポイント |
1
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H13.6.8
判時1765
P44~
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H2.8
19歳男性
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外科手術後の細菌感染症に対する予防措置について医師の注意義務違反を否定した原審の認定判断に違法があるとされた事例。
勤務先で就労中,金属プレス機のローラー部分に両手を挟まれて両手圧挫創の傷害を負い,搬送。
受傷当日,形成手術を受け,整形外科に入院。
手術翌日から一般的抗生剤投与。
術後13日目,右手に刺激臭を伴う黄緑色の滲出液が多量に認められ,細菌感染の検査のための採血実施。
術後18日目,緑膿菌感染判明し,抗生剤投与。
緑膿菌感染症の症状は一旦消失したが,創の壊死がすすみ,約1ヶ月半後,呼吸停止及び心停止状態となり,死亡。
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高度の挫滅創を負った患者の治療に当たって医師が負うべき注意義務の内容。
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重い外傷の治療を行う医師としては,創の細菌感染から重篤な細菌感染症に至る可能性を考慮に入れつつ,慎重に患者の容態ないし創の状態の変化を観察し,細菌感染が疑われたならば,細菌感染に対する適切な措置を講じて,重篤な細菌感染症に至ることを予防すべき注意義務を負う。
本件は,高度の挫滅創という強く細菌感染が疑われる症例であったこと,手術後1週間経過してもなお発熱が継続し,CRP検査が異常値を示していたこと,術後9日目の看護記録には「何の熱か,感染?」との記載があったこと などから,
現実に細菌検査が行われた時点より前に,創の細菌感染を疑い,細菌感染の有無,感染細菌の特定及び抗生剤の感受性判定のための検査をし,その結果を踏まえて,感染細菌に対する感受性の強い抗生物質の投与などの細菌感染症に対する予防措置を講ずべき注意義務があった。
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ある時点において判明していた患者の症状を基礎とする予見可能性を元に医師が負う注意義務の内容を特定し,その注意義務に照らして,現実に取られた措置が注意義務違反と評することができるかを検討するという,注意義務違反の判断枠組みをとったもの。
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2
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H15.11.14
判時1847
P30~
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H6.12
男性
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食道がんの手術の際に患者の気管内に挿入された管が手術後に抜かれた後に患者が進行性のこう頭浮腫により上気道狭窄から閉塞を起こして呼吸停止及び心停止に至った場合において担当医師に再挿管等の気道確保のための適切な処置を採るべき注意義務を怠った過失があるとされた事例。
6日 食道全摘術
咽頭胃吻合術
18日 抜管
胸くうドレーンの逆流生じる
(吸気困難状態高度)
再挿管せず様子をみる
約15分後 四肢冷感
チアノーゼ等
挿管試みるも心停止に。
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抜管後の呼吸状態の管理,再挿管等の気道確保のための適切な処置を執ることを怠った過失の有無。
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本件のような食道の全摘術,食道がん根治術の場合,気管内に挿入された管が抜かれた後に上気道の閉塞等が発生する危険性は高く,抜管後においては,患者の呼吸状態を十分に観察して気道確保の処置に備える必要があり,特に抜管後1時間は要注意であるとされていることなどの事実関係等に照らすと,担当医は,胸くうドレーンの逆流が生じた時点で,Aのこう頭浮腫の状態が相当程度進行しており,すでに呼吸が相当困難な状態にあると認識することが可能であり,これが更に進行すれば,上気宇道狭窄から閉塞に至り,呼吸停止,ひいては心停止に至ることも十分に予測することができたとみるべきであるから,担当医には,その時点で,再挿管等の気道確保のための適切な処置を採るべき注意義務があり,これを怠った過失がある。
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3
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H18.4.18
判時1933
P80~
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H3.2
男性
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冠状動脈バイパス手術を受けた患者が術後に腸管壊死となって死亡した場合において担当医師に腸管壊死が発生している可能性が高いと診断し直ちに開腹手術を実施すべき注意義務を怠った過失があるとされた事例。
冠状動脈バイパス手術
2日後 頻繁に腹痛訴える
AM8:00 腸閉塞と判断
対処するも効果なし
夜 開腹手術
大腸等に広範な壊死認める
翌日 急性腎不全等により死亡
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腸管壊死を疑って直ちに開腹手術を実施すべき注意義務を怠った過失の有無。
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冠状動脈バイパス手術を受けた患者が術後に腸管壊死となって死亡した場合において,@当該患者は,腹痛を訴え続け,鎮痛剤を投与されてもその腹痛が強くなるとともに,高度のアシドーシスを示し,腸管のぜん動こう進薬を投与されても腸管閉塞の症状が改善されない状況にあったこと,A当時の医学的知見では,患者が上記のような状況にあるときには,腸管壊死の発生が高い確率で考えられ,腸管壊死であるときには,直ちに開腹手術を実施し,壊死部分を切除しなければ,救命の余地はないとされていたこと,B当該患者は,開腹手術の実施によってかえって生命の危険が高まるために同手術の実施を避けることが相当といえるような状況にはなかったこと,C当該患者の症状は次第に悪化し,経過観察によって改善を見込める状態にはなかったことなどの事情のもとでは,担当医師に腸管壊死が発生している可能性が高いと診断し,直ちに開腹手術を実施し,腸管に壊死部分があればこれを切除すべき注意義務を怠った過失がある。
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事例判断であるが,術後の管理における医師の裁量の限界を示すものとして意義を有する。
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