高遠土蔵、黒本漆喰磨き

写真1 写真2 写真3 写真4
 長野県高遠城址に近い真壁家土蔵、タル巻きからの復元を且O心さんが施工されており、今回
会長のご好意により黒本漆喰磨きの研修をさせていただく事になりました。
早朝に出かけ朝8時過ぎに到着、すでに会長始め二人の職人さんが待っていてくれました。
毎回の事ながらあたたかい迎えの言葉に感謝しながら着替えを済まし、足場の上から会長に声を
掛けられて上に昇った。
3間×6間の土蔵は足場の上に昇るとさらに大きく見えた。
今日はこの土蔵の桁行方向の長さ10.8mのクリ部分を仕上げるらしい。

今回の黒漆喰磨きはハチマキの下半分、アール状にえぐられた部分の仕上げで、既に上半分と
下部のツマミにあたる壁から40mm出の部分は白本漆喰磨きで仕上がっており6mm角面(カクメン)
で引かれた面は10m先まで本磨きで磨かれ独特な光の陰影を作りながら定規で線を引いたように直線で引かれていた。

角面の角(かど)で黒漆喰と面分かれの部分は刃物でカットされたように正確に刃っかけ状になっており
鏝仕事の精度の良さに感心させられた。(写真1)
この部分が丸いと黒漆喰は白の磨きに被さる事になり失敗になる。

さっそく、鏝の腹の部分が丸くなって分厚い地金の特殊な中首鏝(クリ鏝)を使って本漆喰を塗り始めた。
会長が色々レクチャーしてくれてるんですが、
既に白の磨きで仕上がっている部分の見事さに見とれ頭がボーっとしている。(写真2)
2人のスーパー左官(私は尊敬の意味を込めてこう呼ばせてもらっている)さんは下端と上端になる部分を
柳葉鏝を巧みに使って塗っている。私達に真ん中のR(アール)の部分を塗らそうとしているのを
見て思わず気合を入れなおした。
それにしても本漆喰の黒銀杏草の匂いと水っぽさのない独特な鏝さわりは何ともいえない。

下塗りの白漆喰を塗り終わった所で十時のお茶にになり、お茶をご馳走になりがら
達人会長の持論である「土、ワラ、石灰」の話を聴かせて頂きなんとも気楽で有意義な研修である。
この後、会長は土壁等の吸放質性についての試験データ作成の為に来社される信州大学の
先生達の対応の為帰られた。

白漆喰の締まり具合を確認しながら黒本漆喰を塗り始めた。
黒漆喰は30年物に作り足しをして現在につながってるとの事で、老舗の食物屋さんが「タレ」や
「スープ」の何十年物を使っているのと良く似ている事を思い出した。
黒漆喰を塗終わってひたすら地金の鏝で締めるようにして押さえ撫ぜが始まった。
普通の塗り材は鏝の抜けや材料の痩せが合った場合廻りの材料を集めるようにして撫ぜると
その部分は埋まるが漆喰はそれが出来ない。
スーパー左官の二人はどんな小さな鏝の「抜け」や小穴でも鏝板から微量の漆喰を掬って馴染ませる
ように丁寧に擦りこんでいる。
横から二人を見ているとひたすら無言で、壁を相手に息をしてないみたいに見えた。

黒本漆喰は均一に水分が飛ばないムラ乾きを始めた。
角面の際だけは締まり始め真ん中、腹の部分はなかなか締まらない。
まだ押さえ撫ぜを完璧に終えた後、ノロ掛け、雲母打ち、磨き作業が残っている
養生シートを少し開けて調整しながら風を入れ昼食後もすぐに作業にかかった。
時間が経過すると少しずつ締まり具合が良くなり、まだ水分の残ってる箇所を除き鏝撫ぜが出来なくなった
箇所からノロ掛けが始まり、この後もひたすら撫ぜた。
鏝圧の為、横から見ると十分磨かれて光っているが、ここから雲母が打たれ手擦りが始まり黒は光を
増して掌は真っ黒になった。(写真3)(写真4)
手擦りの後更に鏝で撫ぜ、黒本漆喰磨きは一人当たり1日の仕上げは面積にすると約1.3uだった。
最も我々二人は足手まといになっただけですが。

役物の本格的な磨き作業の研修は先生3人、生徒2人の研修になり申し訳なく、又、私たちの為に
忙しい時間を割いて対応していただいた且O心さんの会長、この日に合わせて黒漆喰の段取りを
進めていただいた職人さんに、改めて心から感謝しながら高遠からの帰路についた。

(有)稲垣左官工業所
 高橋孝喜