土蔵の造りと周辺環境

 今回の土蔵の造りは腰壁から上のハチマキまで白本漆喰、本磨き仕上げ、水切りは腰壁上を含めて4段、
地面から約2,800の高さに銅板葺き庇が回り、屋根は7/10勾配、本燻し瓦、軒瓦端先の出はハチマキ仕上げ面より100程度、
戸前、扉は大、中、小3箇所黒漆喰磨き。


 建物の北、西面は林になっており土蔵屋根に被さるような大きな木が茂っている。
日が当たらない為、雨が降った後も乾燥が遅く、いつまでも雫が落ち、又、露の発生、
通風の悪さもあり、秋には落ち葉が雨どいに詰まり、メンテがない限り雨は樋から溢れ
瓦端先が少ない為、壁面を汚して落ちると予想される。
妻側北面は現在も、少しの雨で壁面が濡れている。
冬の雨の場合は濡れた壁面が凍り、漆喰壁は致命的なストレスを受ける。
又、庇から雨の落ちる雨打ちは普通、小砂利を撒いて雨だれが飛散しないようになっているが、
この土蔵の場合は犬走りの先端石が雨打ちより出ているため、石に落ちた雨は腰漆喰壁に飛び散る事になる


 数回に渡り見てきた長野県高遠地方近辺の土蔵は上屋根がついており、
軒先は1メートル以上壁面より出ており特別な嵐以外、壁に雨はあたらないようになっており、この地方の土蔵に対しての思いやりが感じられた。
土蔵の造りはその土地の風土、気候等によって特色はありますが、100年以上の長期保全を考えるとき、
土蔵の造りと周辺環境は大切な問題のように感じた。


 保存建物の上に保存木が覆い被さっているのを見て考えさせられた次第です。


(有)稲垣左官工業所 高橋孝喜