TOP

<東海自然歩道・大阪から東京へ>

東 海(後 編) ・・・愛知県・定光寺から静岡県・久能尾
期 間:平成14年6月24日から7月3日
 
 
1 はじめに
 当初第3回目のトレースを夏シーズンの終わり頃に実施するつもりでいたが、別件の計画が出来て急遽繰り上げて6月下旬に変更した。
 梅雨時で雨天のトレースは避けられないが、これまでの2回が天候に恵まれ過ぎたので、その分のお返しとして<雨中のトレース>を覚悟して入山しよう。 
 今回は、道中で豊橋在住の政木さんとその岳友の小原さんが応援に来て下さるのでお会いするのが楽しみだ。
 小原さんは、東海自然歩道を全踏破されている方でトレイルの状況も入手出来そうだ。
又前回の終日から愛知県に入り<急に舗装道歩き>が減ったので、今回も看板通りの「自然歩道」を期待したい。 
 

  2 行動の記録  総距離256Km。総行動78時間10分(実績値)。
 第1日目 6月24日(天気 晴後曇):中央本線・定光駅から岩屋堂・駐車場に設営。
                        (距離18Km)行動5時間40分。 

 新幹線を利用したので予定より4時間余り早く下車駅の定光寺に到着。前回のトレイルを確認して標識板に従い定光寺川沿いの歩道専用路を進む。高根山から稚児橋までは標高300m程度の緩やかな稜線を歩く。
 期待した通りの山道で初日の足慣らしとして心地良い感触を楽しむ。今日は雨の心配もなくノンビリと田植えの済んだ風景を眺め里山を縫うように進む。この付近の最高峰・元岩巣(499m)のピークを1時間ばかり汗をかいて越え、下ると今日の宿泊地・岩屋堂に着く。
 キャンプ場が近くにあるようだが、鳥原川脇の無料駐車場の隅にテントを張る。日暮れから降雨「明日からポンチョを被っての行動」を考えると頭が冴えて寝付けない。


 第2日目 6月25日(天気 雨後曇):岩屋堂から三河広瀬・広海橋下に設営。
                         (距離23Km)行動7時間。

 雨の中を装備が濡れないように手早くテントを撤収。昨日と同様に里山の未舗装路をいくつもの分枝点を道標頼りに通り3Km先の雲興寺に向かう。寺から最初の登り(標高差400m)で猿投山を越えて麓に祭られる猿投神社に着く。
 この神社は天皇家三代を祭る西三河第一の大社とか、見事な構えに感心する。雨と汗で全身濡れ気温が高いので蒸れて不快だ。小雨になったのを幸いに雨ズボンを脱ぎポンチョもザックだけを被う。
 今日の設営地は9Km先の三河広瀬の予定だか途中の昭和の森へは通行禁止で1Km短縮して迂回路を進む。落ち葉の未舗装路はクッションの効いたジュウタンのようで足に優しいが靴の中はグチョグチョ。
 雨対策で今夜は矢作川にかかる広海橋の下の河原に設営する。明日会う政木さんに「現在地をお知らせします・・」と電話を入れる。


 第3日目 6月26日(天気 雨後曇):三河広瀬から平勝寺前のバス待合に設営。
                        (距離27Km)行動7時間20分。 

 屋根があると撤収時に濡れないので大助かりだ。濡れた行動衣(上はランニングと長袖、下は半ズボン、ランパンとストッキング・いずれもポリプロ製)に着替えて、梅雨特有の霧雨の中を昨日同様<ザックだけポンチョ>式で歩く。違和感をしばらくガマンすると発汗で衣服と体温の差はなくなる。
 今日は応援のお二人に会える楽しみがある。道を間違えたりして迷惑をかけないように地図と道標で「現在地を確認」して歩く。トレイルには峠越がなく比較的平坦な道を11Km進み大国橋で巴川を渡る。 ここから待ち合わせ場所の香嵐渓まで巴川沿いに5Km進む。
 香嵐渓は「紅葉の名所」で中馬街道の要所であった足助町にある。ビジターセンターに荷を置き、曇天で乾くのは期待出来ないが「汗の臭味が抜ければ・・」と行動衣を洗濯する。 
 梅雨シーズンで観光客の姿はなく、モミジの若葉は紅葉にも劣らぬ生命力あふれる緑一色だ。
 予定通り政木さん・小原さんと合流。昼食に足助名物「手打うどんとウナ重」をご馳走になる。今日初めてお会いした小原さんから<トレイルのポイント>特にテント地で屋根がある場所や間違い易い分岐点を教えてもらった。
 (ガイドブックや地図にはないコメントで大変参考になった)。
 差し入れとご馳走の心ずかいに感謝して、コメントに従い更に先へ9Km進み、雨に備えて綾渡のスクールバス・待合所に設営。水は平勝寺から貰う。今日も夕方から本降りになり朝方まで大雨だった。


 第4日目 6月27日(天気 曇):平勝寺から清流公園・設営。
                     (距離26Km)行動8時間。 

 昨日と同じスタイルで出発。古来の生活路に入り金蔵連峠を経て寧比曾岳(1,120m)を目指す標高差は700mだが途中いくつかピークを越えるので実質1000m程度登りになるようだ。4時間かけて山頂を踏む。
 山頂の案内板の脇に<東京まで425k・大阪まで579k>と書かれた白杭がある「ヘーなるほど・・」とトレースの全体像を思い出し「もう少しで300Km代になるゾ!」とファイトが沸いてくる。
 山頂から降り五六橋で<段戸湖へ近道>の案内に従うが途中道が不明になり引き返す。本ルートは尾根越えの別ルートで少し遠廻りだ。テント予定地の段戸湖・休憩所はテントを張れる充分な広さがあるが、まだ11時なので更に下ることにする。
 2km程歩て小さな尾根を越えて寒狭川沿いの森林軌道跡を田口集落まで延々11Km続く。途中「清流公園」の標示に誘われ吊橋を渡ると、土日のみ営業の町立・デイキャンプ場に着く。ビニールシートを張ったベンチ脇がテントスペースになるので今夜の宿とする。


 第5日目 6月28日(天気 曇後晴):清流公園から鞍掛山頂・設営。
                        (距離20Km)行動8時間。 

 相変わらずの梅雨模様の天気だ。湿った行動衣を着て森林軌道跡を30分程下ると、考古学を学ぶ人が一度は訪れると云う大名倉遺跡に着く。朝モヤの集落と山波を眺めていると先住民への思いが湧いてくる。
 今日は、東海自然歩道三大難所の一つと云われる<岩古谷山>通過する。その先の鞍掛山まで登降の多い岩肌の山岳路は長雨で滑り易く気を使う。小原さんの情報で鞍掛山・山頂の休憩所にテントが張れること、山頂直下で水場があることを得ていたので安心して進めた。
 休憩所の中にテントを張り珍しく太陽が出たので濡れ物を干す。夕方から再び降雨あり夜中まで雨音は続く毎日同じようなパターンだ。


 第6日目 6月29日(天気 曇後雨):鞍掛山頂から引地集落・設営。
                         (距離23Km)行動8時間30分。 

 昨日と同様の稜線歩きが宇連山、棚山高原、鳳来山と15km程続く。この間に小さいピークをいくつも越えるので累計標高差は1000m前後の登りになるだろう。
 滑る足元に気を付けて歩くし、途中休みたくても降雨でザックを置く気にもならずジワーッと疲れが貯まる。今日最後の山頂・鳳来山に着きホッとする。「これが最後だ」と思ったら鳳来寺から更に行者越えの登りがありウンザリ。
 引地集落の手前の林道下に半分壊れた作業小屋があり、中を覗くと雨の心配はないようなので中にテントを張る。


 第7日目 6月30日(天気 曇):引地集落から石打集落・設営
                     (距離28Km)行動8時間。

 ジトーツとした梅雨日和も明日から好転する予報にホッとする。いつものように3時起床4時過ぎ出発をする。起床時はライトが必要だが撤収時は薄明かりで行動出来る。
 今日1日今までのような大きな登りはないし距離も短いので気持ちが楽になる。トレイルは三河大野駅手前で飯田線を渡り旧秋葉街道を進む。
 出発して2時間程歩くと阿寺の七滝(日本の滝・百選のひとつ)に着く。水量が豊富で見ごたえのある滝でこの休憩所もテント地になる。
 滝から更に2時間林道を歩くと静岡県との県境に着く。未舗装の林道を5Km進み熊集落に出る。
 集落からの出口を間違え逆方向に行き慌てて引き返す。集落内では数箇所から出入の標識があり矢印と「東海自然歩道」の文字だけで行き先が省略されているので要注意だ。
 熊集落から南面の傾斜地を利用して広範囲の茶畑帯が続く。柴、倉野、石打集落はそうした茶栽培の専農家で新茶の香りが漂う。
 小原さんのコメントで石打の北休憩所でテント設営して、少し先の沢で水を汲む。入山して1週間の疲れのせいか<W杯・優勝戦>も聴かず8時前に眠る。


 第8日目 7月1日(天気 曇後晴):石打・北休憩所から新宮池・設営。
                       (距離28Km)行動8時間20分。

 北休憩所から3km林道を下り秋葉ダムのある西川に出る。ダム下流の吊橋を渡るといよいよ秋葉山への登り(標高差700m)になる。有名な天竜美林の中を九十九折りではジグザグに登り高度を上げる。更に上部では車道を何度も横切り山頂を目指す。
 山頂の秋葉神社上社から反対側の表参道を下ると赤色の小さな橋を渡る。橋のたもとに<九里橋>と表記され、<浜松宿から9里、掛川宿から9里>と説明書きがあり数軒の旅籠造りの廃家が昔を忍ばせる。
 犬居城跡経由でトレイルは春埜山へ続が、今日は途中の新宮池にテント設営とする。この地区一帯も茶畑で地形と気候が茶の育成に適しているようだ。
 湖畔の案内によると「池は湧き水で、一説では諏訪湖と連がっている」とのこと。大きな鯉が群れをなして一袋¥100円の鯉の餌が販売されている所を見ると、そこそこの観光名所になっているようだ。
 幸い池に着いて太陽が出てきたので、装備を乾かすことが出来た。干している最中草むらからマムシが出て来て驚く。夜になっても珍しく降雨がないのは梅雨も一休みと云うことか、後半の天気の回復が待ちどうしい。
 夜半トイレで外へ出ると・・ポーツ、・・ポーツと薄明かりが飛んで幻想的な闇夜を見る「?ホタル!」池では鯉の跳ねる音がする・・・数十年振りの故郷の追憶に一人興奮する。


 第9日目 7月2日(天気 晴):新宮池から家山・野守池公園設営。
                     (距離28Km)行動7時間30分。 

 今日は春埜山で樹齢1300年の大杉を見物出来るので元気が湧いてくる。昨日のマムシの教訓を思い出して今日は杖を持って歩くことにする。
 久振りに晴れて草も樹も一斉に太陽を浴びてすがすがしそうだ。昨日だいぶ登ったので春埜山まで標高差400m程度しかない。9Km程の山道で2度マムシに遭遇する。
 普通のヘビは人を見ると直ぐ逃げるがこのヘビは逃げないで首を上げてこちらの様子を伺っている。こちらが気付く前に人の気配に感ずいているようだ。幸い登路で足元を見て歩いているので追い払えるが下りではいちいち見ていないので踏付けで噛まれる恐れは充分にある。枯葉と枯木に類似した模様だから動かないと気付かないので危険だ。
 ガイドブックで紹介されている「樹齢1300年の春埜杉」は大光寺境内にあり一際大きい杉<樹高45m、胸高直径3,8m>にしばらく見とれる。驚きの感動を胸に尾根伝いに鳥居沢山、平松峠を経て金剛院に着く。
 出発地から何処にも湧き水がなく喉が渇くが、この寺にも無く我慢して4km先の市井市集落まで下る。これまでの雨模様を取り返すようなカンカン照りの中を市井市から更に1時間半歩き今日のテント地の家山に到着。
 太井鉄道の家山駅を中心にこの付近では大きな町でその一角に<野守の池>と隣接して町立公園があり、隅の出来るだけ高い所にテントを張る。


 第10日目 7月3日(天気 晴)野守の池公園から久能尾・静岡経由帰京
                     (距離35Km)行動9時間50分。 

 いつものことながら下山日近くになるとザックは軽くなり、山慣れして睡眠も充分とれるので快調に歩ける。入山して初めての朝日を拝んで歩くと気持ちが和み楽しい。
 茶畑帯を通り笑い仏まで標高差300mの登りで一汗かく。途中視界が開けて富士山を眺められたが、笑い仏から高根山まで視界は開けたが、残念ながら遠方はガスで覆われて富士は見えない。
 山頂から550mの急斜面をジグザグに下り蔵田集落に着く。ここが今夜のテント予定地だが適地が無く、まだ11時前なので「ここで泊まることはない」と更に進む。
 下山予定の久能尾までは16Kmあるので、清笹峠越えを加味して5時間位だろう。ともかく水場とテントの適地が見つかるまで進む。トレイルは一本道の県道・32号線だから間違うことはない。峠まで8,5Kmを2時間で通過して「この分なら今日下山しよう」と里心が湧いてきて舗装路を一気に下り2時間弱で久能尾のバス停に到着。
 久能尾からは頻繁にバスが新静岡駅まで出ており入下山の便は良いようだ。1時間程バスにゆられて静岡市内に着いた。
                  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


3 あとがき教訓と所感

  1日早く下山したため最終日はかなりムリをした。しかし「梅雨時の山歩き」から得れた教訓も多く成果があった。

 
1) 計画・行動について
 
1−1)トレイルの標高差を考えてスケジュールを組んだつもりだったが、検討不足で小さい標高差を見落としていた。
 当初総累計標高差は3,500mと見込んでいたが実際はプラス1000mあったようだ。
 1000m以下の高度が低い地域では山稜が複雑で地図では見落とす凹凸がある。所要時間は水平距離より高度差の影響が強いので次回は丹沢を含め山間部を通るので注意したい。

 1−2)梅雨時の利点は日射から来る暑さがないので水分の補給が少ない。ブヨや蚊に邪魔されない。入山者が少ないので施設を自由に使える。濡れても気温が高いので寒くない。又夜の冷込みが無いので防寒類が減る。
 反面欠点は連日の雨で衣類を乾かせない。視界が悪くなる。足元が滑り易い。休憩が取り難い。があったが思ったほど厳しい環境ではなかった(小原さんのコメントからテント設営を屋根のある所に出来たことが大きな要因)。

 1−3)今回のザック重量(計測値)は入山時18Kg、下山時13Kg(食料とガソリン残り1,5Kg含む)であった。道中の食料補給は酒以外たいして買わなかったので、10日間程度の山行であればこの程度で収まるようだ。
 しかし、近い将来18Kgもムリになるだろうから更に1,5Kg減らして装備重量を10Kg以下にして入山時16Kg程度にしたい。

 1−4)次回を最終回にしたいがトレイルの程度によっては、関東地区で入下山も楽になるのでムリせず2回に分けて日数を減らし「軽いザックで快適な山歩き」にも魅力がある。

 1−5)残りは静岡県、山梨県、神奈川県と東京都所轄のトレイルだが、県行政の「東海自然歩道」に対する取り扱いに興味がある。と云うのも当時の厚生省の指導は定かでないが現地に表示された案内板によると、本歩道の主旨は「・・・美しい自然と文化財を訪れ・・・」とある「自然歩道」の表題からは文化財は想像されないが主旨に文化財の探訪が入って「アレレ・・?」と云った気持ちになって来る。
 そして文化財の見物なら「舗装歩きも同然」でこちらが「自然歩道は未舗装道」と誤解していたことになる。日帰ハイキングを主体に企画されたトレイルだから「舗装も未舗装もたいして変わりない」と云う意見が多いと思うが、バック・パッカーの端くれとしては寂しい気持ちがする。
 特にパーフェクトな道標案内板は「東海自然歩道は世界遺産に値する」と感謝しているので無機質な舗装道歩きは残念だ。その辺を考慮してか愛知県下のトレイルは未舗装路を主体に設定されて好感が持てた。季節を変えて再度歩きたいトレイルであった。

 1−6)「東海自然歩道」を歩く人は殆ど日帰りハイキングであろう。しかし、これだけ完備されたトレイルにはもっと多くの形式が考えられると思う。現在自分がトライしているのは「10日位のテント泊」の分割形式だ。これを中級ハイクとすれば、上級ハイクは「通しでテント泊」や1,2月の厳冬期に実施するバリエーションも考えれる。
 「通し」であれば累計標高差は2万m位になるだろう。それは高度障害なく2万m登った事になる。バック・パッカーの醍醐味ではないだろうか。
 文献によれば、米国では総距離2,000kmから4,000kmの自然歩道(舗装道ではない)8本もあるそうだ。「東海自然歩道」がそうしたトレイルへの突破口になればと思う。

1−7)テント地の重要性を再認識した。これは1日24時間の内、行動時間が8時間程度で残り16時間はテント地で過す。
 翌日に疲れを持ち越さないためにも、その環境の影響は大きい。荷物を軽くするために最低必要な物以外は排除するが、やりすぎては本末転倒になる。
 そうした気持ちが「クドイ・シツコイ」と思う程タイムやテント地の記事が占める。再訪問を視野に入れて企画し、時間と経験を重ねて知恵を磨いて行くことで、自分なりの個性(文化)を築ければと思う。


 
2) 食料・装備について
 
2−1)前回から使用したスキンミルク(270gは多過ぎ150gで良い)に黒砂糖を入れて朝の常食とした。
 2−2)雨ズボンは蒸れて不適。ストッキング+半ズボンで濡れても行動衣として十分。靴に雨が入らぬような特製スパッツが必要。
 2−3)不要小物:日焼け止め、予備タイツ、予備パンダナ、蓋付きカップ。   
 2−4)1/5万の地図は必要部分を切り取り持参。ガイドブックの案内略図も2、3ケ所まとめてコピーし1枚物にした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
この続きは・・・・ タイムと写真へ   会計と資料へ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
TOP