TOP
   日本の長距離自然歩道について一考察
                                                           飯星宏徳
 1 はじめに

 平成19年1月11日付け、環境省の報道発表資料によれば「首都圏自然歩道から東北自然歩道への連絡ルートを追加。これにより全国9ブロックの歩道が接続され長距離自然歩道の全国ネットワークが整った」とあります。
 この長距離自然歩道は、昭和45年から東海自然歩道を皮切りに全国に整備され、現在では年間利用者が約6千万人、計画及び整備中を含めて総延長は約2万6千Kmにもなるそうです。
この数字は、ウオーキングの先進国と云われる西欧諸国に比べても遜色のない規模で、同省が整備目的としている「豊かな自然環境や景観、さらに歴史や文化に触れて国土を再認識し、自然保護への高揚」に応えると云えましょう。
 しかし、実際にコースを歩いてみると色々問題点があり、特に「歩道の維持管理は楽観出来る状況ではない」との思いを強く感じております。
 以下に私が自然歩道を辿り、6年間で日本縦断・鹿児島県佐多岬から青森県竜飛岬まで(延べ行動日数220日、総距離5,310km)をテント泊の徒歩旅で感じた所感を含め考察しました。今後に訪れる人が安全で快適な旅の一助となれば幸いです。



 考察1:モデルコースの差別化

 限られた予算で膨大なコースの維持管理は不可能であり又、年間利用者が僅かなコースに貴重な税金を使うのもムリがあります。一部の地域(福岡、京都、岐阜、千葉等)ではボランテア活動で保守管理をして「快適な歩き」が出来ました。しかし、継続のご苦労を思うと全国ネットでの実施には限界を感じます。
 そこで対策のひとつとして「モデルコースの差別化」が考えられます。前述の私の縦断距離と日数から換算して総延長は日本縦断約5回分・日数千数百日の規模です。この中の廃道コースや連絡コースを見直して半分位に選別し、その中を更に3グレート程度に区別しトップグレードの汎用性が高く且つネットワーク・コースを優先的に整備管理する。
 整備管理のレベルとしては、公認の歩道だから下草刈りや足場が整備されることに越したことはありませんが「自然な歩道」だから、多少のヤブコギや不明確な踏跡は良しとして標識(簡単な目印を含む)の完全整備で充分でしょう。これまで訪れた北米、ニュージランド及び英国の長距離自然歩道も河川級ならぬ歩道級があり差別化でした。



 考察2:日帰りハイクから連泊ハイクへ

 モデルコースは「日帰り」が主流で、各コースを接続する連絡コースは、東海自然歩道や首都圏自然歩道は短く設定されていますが、東北や九州及び北陸地方では連絡コースが多くを占めています。又、アプローチについても整備当初は通っていたバス便が地域の過疎化で廃止になっているか便数が極端に減っているようです。こうした現状がコースの利用者が減少し廃道化した原因のひとつと考えます。
 一方、自然歩道を取巻く社会環境は、時代と共に変化して「モノ」から「こころ」の時代に転換。加えて高齢化社会の到来で「慌しい日帰りハイク」から「ゆったり連泊ハイク」の需要が予測されます。しかし、野営泊となると衣食住を持参するのですから「荷物が大変!」と敬遠されます。ですが、いきなりテント泊ではなく民宿や公益宿泊所を活用すれば従来の日帰りとほとんど変わらない荷物で数泊可能。そして、次のステップとして多少は自炊や設営技術が要求されますがテント泊にステップアップする。

 最近は装備の進化で超軽量のテントや寝袋等が入手出来るので予想以上に取り組み易いと考えます。そして、連泊でゆっくり自分のペースで歩き、道中の景観やスケッチ、写真撮影等の自由度が高まり、アプローチの煩わしさからも開放されるでしょう。
 例えは、四国自然歩道と重複している「四国八十八寺・徒歩遍路」は人気の高い連泊(民宿泊)ハイク・コースで年間四千名を越えるそうです。ですから、自然歩道のコース上に宿泊施設を探すことがポイントになります。
 連泊ハイクは当然ながら日帰りハイクより日数が多いので「土日しか休めない」人はムリですが、団塊の世代をはじめ「時間はタップリ」の自然愛好派には是非推奨します。そして、将来ステップアップして数泊のハイクが楽しめるようになったら、対象を海外に広げウオーキング天国と云われる西欧諸国へ本場のハイキングも可能になりましょう。



  2 参考書(主にテント泊の資料)

  ・「東海自然歩道・全踏破」田斎藤政喜著(小学館文庫発行)
  ・「九州自然歩道を行く」及び「東北自然歩道を行く」
              田嶋直樹著(葦書房及び、無明舎発行)