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   ・・日本列島の長距離自然歩道をつないで・・
  
日本縦断歩行・本土最南端から最北端へ

                       

                        青少年国際野外旅行研究会・事例発表資料
                         飯星宏徳(ロングウオーカー・さいたま市

§1歩行の動機

定年を機会に「これからのトレッキング訓練も兼ねて・・」と、四国八十八寺の歩遍路を思い立ち3回の区切り打ちで結願した。しかし、信仰心より連泊歩行と野営体験の「山旅」を期待したせいか、舗装道の多いトレイルに少々ウンザリ。
 そんな時に「日本長距離自然歩道」の情報を得て、代表的な東海自然歩道を翌年から着手。このコースは国内で最初に設定された代表的な人気トレイルで、多くの案内書や歩行記があり参考になった。

 目的とした連泊歩行と野営体験は勿論「新鮮な空気と湧水」の期待にも満足出来たので、全国に網羅された長距離自然歩道を本土最南端の鹿児島・佐多岬から北上することにした。



§2 歩行後の感想と次のステツプ

 1)国内の自然歩道以外にも、これまで訪れた北米・シェラネバタ山脈・ヨセミテや歩行大国の英国フットパス及びニュージーランドのトラッピングと魅力的なトレイルは尽きない。これ等のトレース継続のために、加齢に伴う歩行スキルの習得を長距離自然歩道に期待した。
 
 2)そうした意味で、最新の北海道2度目の歩行(後述)で試行した「中間帯での大休止(シェルマン方式?)」は歩行寿命を延ばしてくれそうだ。私の場合、歩行で最も重要な指標は、歩行量や歩く速度ではなく道中の「面白さ」で、主観的な質に起因した「面白さ」の先に「嬉しさ」があり「新鮮な空気と湧水」の恵みにより魅力的な1日となる。

 3)ランニング・ハイやクライミング・ハイがあるようにウオーキング・ハイもあるようで、心身の余裕と天然の不思議なエキスでエンドルフインを分泌「夢うつつ?」になる。たとえ寒気に震え粗食で空腹であっても「新鮮な空気と湧水」を充分体内に満たせば心は安らぐ。次なるステツプは、いつの年代であっても心安らぐ「旬の歩行」を求めたい。

   これまでの踏破記録は<日本の長距離自然歩道を行く>をご覧下さい。


§3 日本の長距離自然歩道の実情

 3−1 日本の長距離自然歩道とは
 平成19年1月11日付け、環境省の報道発表資料によれば「首都圏自然歩道から東北自然歩道への連絡ルートを追加。これにより全国9ブロックの歩道が接続され長距離自然歩道の全国ネットワークが整った」とある。
 この長距離自然歩道は、昭和45年から東海自然歩道を皮切りに全国に整備され、現在では年間利用者が約6千万人、計画及び整備中を含めて総延長は約2万6千Kmにもなるそうです。

 この数字は、ウオーキングの先進国と云われる西欧諸国に比べても遜色のない規模で、同省が整備の目的としている「豊かな自然環境や景観、さらに歴史や文化に触れて国土を再認識し、自然保護への高揚」に応えると云えましょう。

 しかし、実際にコースを歩いてみると色々問題点があり、特に歩道の維持管理は楽観出来る状況ではない。


 3−2 長距離自然歩道の実情
 1)首都圏、東海自然歩道及び大都市周辺では、愛好人口が多いため案内書は勿論、現地標示板やアクセス便も比較的整備されている。特に、京都、岐阜、関東圏では、山岳協会や守る会等の民間ボランテの組織により通年トレイル維持管理がなされ、トレイルによっては「分岐点に標示板がない時は引き返して」と促されるほど完備している。

 2)一方、九州、山陰、東北地方の過疎地では、地元の人に自然歩道の存在も認知されていないトレイルが目立つ。整備当初に設置された標示板や道標も朽ち、トレイルは廃道となっている場所もある。一番泣かされるのは、途中まで林道を進んでその先のシングルトレイル(地図上の点線)が廃道で数キロも引返す時。こんな時「何とかなるだろう・・・」とムリして廃道を進んだ結果は後悔することが多く、先を急がず公道まで戻るのが賢明。

 3)海外のロングトレイルを参考にして策定さてた国内の長距離自然歩道だが、実態は連絡コースが多く、そのうえモデルコースはランダムに設定されている。これは「自然の景観」よりも「文化遺産」を重視した点と日帰りベースの設定による。従って、欧米並みのトレイルの連続歩行は期待ない。

 4)しかし、テント宿泊の場合一般公道を日本一周や日本縦断で歩行するよりも、自然歩道を基準にしたトレースが公園や自然歩道用の休憩舎を利用出来る利点がある。更に、各県の環境部門で発行の「案内書」で周辺の情報が豊になる。


 3−3 連泊歩行時のアドバイス
 1)環境省か各都道府県のHPで自然公園等の担当部門の連絡窓口を調べて「案内書」を入手可能。この時に個人名よりも団体名(クラブ等)で申し込んだ方が回答が早い。一般的に費用は送付代程度だが、京都府の場合は「近畿ガイドブック・¥2000円」地図1/2.5万付で府内の全コースが把握出来る。

 2)最近は個人のガイド書も増え東海、九州、東北等があるがテント地の情報は少ない。国土地理院の地図には「小規模公園」の表示はないので一般道路地図から把握。

 3)モデルコースは基本的には日帰りベースに設定、加えてランダムな配置で連泊トレースには不便。従って、モデルコースや連絡コースに捉われず選択のひとつと参考程度にして独自にコースを決めたい。特に、興味のある文化財以外は「自然景観の重視」のコース選定を推奨。



<最新レポート>
§4 北海道縦断歩行でつながった日本列島縦断  8800km
     踏破記録は<北海道自然歩道>をご覧下さい。



§5 北海道縦断歩行のデータ・アドバイス・情報

1)歩行全般
・山間部は尾根沿った道があるが、平地はほとんど直線道路のため精神的に疲れる。特に幹線道路で歩道がない所は危険。一般にトンネン内は歩道が狭く要注意。
・内陸の道路は海岸線沿と比べて選択の余地がある。従って北海道一周などは常に車の排気を浴びての歩行になる。

2)自然歩道のコース
・現在まで10コースが整備済み。道標やコース表示板が設置されているが、表示杭が低いため夏草で見落し安い。
・廃鉄道の線路跡をサイクリングロードに転用した模範的な自然歩道(事例:支笏湖畔から千歳市内まで約25km。砂川市内から歌志内まで約27km)。又、大河の未舗装土手道はコースでなないが車の騒音から解放される(事例:千歳市内から江別市内の千歳川沿い約60km)。
・コース途中に多くの温泉施設があり日帰り入浴可能(延べ14回入浴済み)。

3)宿泊
・ツーリング旅行者用のライダーハウスは普及しているが、区間が長く歩行者にはムリ。
・本土では公園や道の駅での仮眠・テント泊は許可されない場合があるが、当地では許容されている。又、無人駅は非常時の仮眠は出来るが、本土の駅と異なりトイレや水道がない所もある。

4)飲食

・幹線道路では道の駅やコンビニが期待できるが過疎地帯では食糧調達は困難。大都市やスーパーがある所で出来るだけ補給し常時2〜3日間は保持したい。
・補給水は公園や道の駅以外では困難。特に民家では留守の場合が多く内地のように屋外の水道口がない。又、山麓地帯(ニセコ、羊蹄山等)以外では沢水や湧水は期待出来ない。

5)装備
・シーズン期間であれば、本土並みの装備で充分。樹林帯でのヤブ蚊やブヨ対策として網ハット効果あり。

6)経費
・関東地区からのアクセスでは、大洗港〜苫小牧港のフエリー便が格安。日数に余裕がない場合は特別割安の航空チケットが利用出来るが、搭乗便は変更不可が難点。
・キャンプ場はアートキャンプが主体で歩行者の場合は平均利用代は500円程度。

7)地図・ガイド
・道路が少ないので市販の道路地図を使用した。現地では、道の駅等案内所(黒松内・後志観光連盟発行の「しりべしガイドマップ」www.shiribeshi-i.net/)で観光案内資料を入手した。

8)天候
・道北と道南によって多少違うが、歩行シーズン(夜間10度C以上)としては、6月中旬から9月中旬。北方寒気団の影響を受けて不安定な特異な天候(短時間の降雨や地域性あり)。

9)注意点
・クマは早朝や夕方に行動するので、トレイルと獣道が交差する所はこの時間帯は特に注意。
・村道や町道は途中で廃道の可能性がある。地図に記載されても地元の人に確認要(例:ニセコ周辺)。トレイル以外は密集したクマ笹帯が多く近くに舗装道があってもエスケープは不可能。



§6 プロフイル
  飯星宏徳(いいほし ひろのり) 1940年満州生まれ。20代から登山に親しみ定年後は単独歩行に専念。
 足跡:北アルプス・明神岳5峰中央稜厳冬期初登攀、同・赤沢山左俣厳冬期初登攀。ペルーアンデス・ウルフ峰(5,495m)等に単独登頂。英国、ニュージーランド及び日本長距離自然歩道をテント泊で歩行中。
             http://www5b.biglobe.ne.jp/~iihoshi/

                                      作成:2008年10月