【神話生物東京紀行】



作:藤和 価格:1600円 文庫サイズ 154ページ

信徒の前に突如姿を顕した天使様。なんでも日本国を観光したいらしい。
天使様の突然の提案に、信徒は無事に応えられるのか。
胃薬を用意して刮目せよ!
八百万の神編もあるよ!

--本文サンプル--

第一章 天使様がやってきた!

 日も長くなり、花の香りが芳しいある日の夕食後、妻のフランシーヌと両親と共に、 夕食後の紅茶を楽しんでいた時のことだった。
 我が家の居間は暖色照明で、あまり煌々と電気に照らされるはずはないのに、突然眩い光が居間を満たした。
 突然の事に、思わず目を閉じる。それから、瞼越しに光が収まっていくのを感じて薄く目を開く。すると、 光の元には若葉色の優雅な翼を背負った天使様がいらっしゃった。
「えっ? あっ、天使様?」
 驚いた様子のフランシーヌと、お母様と、僕と、 それから別段クリスチャンというわけでもないお父様までもが椅子から降りてその場に跪く。
「ジョルジュ君久しぶりー。
あ、みんなそんな硬くならなくて良いよ。楽にしてね」
 僕の名を呼んでそう言うけれど、楽に出来ませんから。
 楽に出来ないのはともかくとして、 一体どの様な用件でいらっしゃったのだろうか。この天使様は用事が無くても時偶僕の所に顕れて、 色々とお話をしていかれるけれど……
「お久しぶりです天使様。今回はどの様なご用件でいらっしゃったのでしょうか?」
 声を掛けて下さっているのに何も言葉を返さないのは失礼なので、用件を訊ねると、 天使様はにこりと笑ってこう仰った。
「うん。実はね、今度日本を旅行しようと思うんだけど、ジョルジュ君にガイドやって欲しいんだ。
やってくれるかな?」
「旅行のガイドですか」
 突然の申し出に戸惑い、ついちらりとフランシーヌの方を見ると、彼女も心配そうな顔をしている。
「天使様、ご旅行との事ですが、どれくらいの日程のご予定なのですか?」
 フランシーヌの問いに、天使様はどこからともなく手帖を取り出してぺらぺらと捲る。
「そうだね、来週末から一週間って言う感じなんだけど、大丈夫?」
「一週間でございますか……」
 一週間も僕に会えないのは寂しいと思って居るのか、フランシーヌが僕の服の裾をぎゅっと掴む。それから、 天使様にこう言った。
「一週間も会えないというのは寂しいですが、天使様の仰せなら、仕方ありません。
ジョルジュが良いと言うので有れば、どうぞ、よろしくお願い致します」
 気丈なその言葉に、僕も差し迫った理由もなく天使様の仰せを断るのはよくないと思い、こう返事を返す。
「妻もこう言っておりますし、天使様の旅行に同行させていただきます。
当日はよろしくお願い致します」
 僕の返事に、天使様は上機嫌と行った様子。
 それから、旅行のプランを立てたいからと言う事で、僕と天使様の二人で、自室に戻ってプランを立てることになった。

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