【嫌犬2nd】



作:藤和 価格:1600円 文庫サイズ 176ページ

『嫌犬』のあのコンビが帰ってきた!
相変わらず高等遊民な主人公と、少し嫌な感じの喋る犬。
愉快な仲間達と過ごす約二年半をお楽しみ下さい。

--本文サンプル--

第一章  狂気の沙汰も君次第

 吹く風が鋭くなり冬の気配が感じられるようになった頃、とあるアパートの一室で、 着物と袴を着た青年がパソコンと向かい合っていた。
 彼の名前は新橋悠希。小説家志望で、今は疾病の都合で就業を禁止されていることも有り、 日々投稿用の小説の執筆にいそしんでいる。
 投稿用の作品の執筆も終わり、後は印刷して送るだけだとなった悠希が一休みしようとお茶を飲んでいる時に、 そのメールが来た。
 送信元は、インターネット経由で知り合った友人の桑原七海。今度SNSで知り合った人とオフ会があるから、 一緒に来ないかという誘いだった。
 そのメールを見て、悠希は窓際で寝そべっている柴犬に話しかけた。
「ねぇ鎌谷くん。こんなお誘いが来たんだけど、鎌谷君も行って良いかどうか訊いてみる?」
 すろと、鎌谷と呼ばれた柴犬が、めんどくさそうな口調でこう返した。
「まぁ、お前一人を知らない人間の群れの中に放り込むのは不安だから訊いてみてくれ」
 悠希は七海に、鎌谷も参加して良いかどうかの確認メールを打つ。
 そうして待つ事数時間、人間の言葉を喋る宇宙犬に是非とも会いたい、 鎌谷も歓迎だとみんな言っているという返事が返ってきたので、悠希は鎌谷を連れてオフ会に参加する事になった。

 そしてオフ会当日。悠希は駅の改札前で七海を探す。人が沢山居る改札前広場。そこで目に入ったのは、 背が高くパンクファッションに身を包んだ、少し癖っ毛の女性。彼女が七海だ。七海と合流し、 共にオフ会会場であるカラオケボックスへと向かった。
「そう言えば七海さん、今回のオフ会はどういった人の集まりなの?」
「メンタルヘルス系のサイトで知り合った人達だよ。
悠希さんの話をしたら、皆会ってみたいって言うからさ」
「そうなんだ」
 他の人にも自分の話をするくらいには意識されているのかと、悠希は少し照れた様子を見せる。
 七海にメンバーを紹介され、早速部屋へと通される悠希達。
 まずは雑談という事で皆それぞれ食べ物や飲み物を注文して話をしている訳なのだが、その話の中で、 悠希は何となく違和感を感じた。
 何がおかしいのかはわからない。だが何か違和感があるのだ。

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