【やおよろズ!】



作:藤和 価格:1200円 文庫サイズ 78ページ

 20××年、都内某所。そこには八百万神が運営する出版社が有った。
 なんかダメな神様達が織り成すゆるい日常。
 ストリエ掲載作品の小説用修正版です。

--本文サンプル--

第一章 お電話替わります

 初めまして、私は『紙の守出版』と言う出版社に勤める八百万神です。
神と申しましても、そんなに位の高い者ではありませんので、お気軽に『美言』とお呼び下さい。
 皆様の中には、何故我々八百万神が出版社を経営しているのか不思議な方もいらっしゃると思うのですが、 それは必要になった時にお話し致します。

 いくら神が経営している会社とは言え、仕事は普通の出版社のように有ります。
 少しざわついた部屋の中に、電話の呼び出し音が鳴り響きます。
 早速電話が掛かって来ましたね。いつもお世話になっている本屋さんか、印刷所か、 それともライターさんか小説家先生か。
 取り敢えず電話を取らないことには何にもなりませんね。
「お電話ありがとうございます。
紙の守出版でございます」
 受話器を取ってそう言うと、耳元に頼りなさげな声が入ってきました。
「あのっ、もしかして美言さんかな?」
 いきなり私が出たというのがわかったと言うことは、きっと知り合いでしょう。取り敢えず確認しなくては。
「そうですが、どちら様ですか?」
「お世話になっております。蓮田岩守です」
「蓮田さんですか? 一体どんなご用件で?」
 今、電話をかけてきている蓮田岩守さんという方は、普段鉱山の中に住まい、 鉱石を司る神としてひっそりと暮らしている方です。
 最近、八百万神の情報ネットワークを強化しようと、 インターネットやスマートフォンなどの情報インフラを整えたので、 遠い鉱山からもこの様に連絡を取ることが出来るようになっています。
 それにしても、普段内向的な蓮田さんから電話が来るというのは珍しい物で、何が有ったのかが気になります。
 すると、蓮田さんはこう言いました。
「実は、おばけがこわくて眠れなくなって、困っているんだよ」
「はい、ちょっと何言ってるのかわかりません」
 昔から臆病な方では有りましたが、まさかこんな事を言うなんて。
 何故神がおばけを怖がらなくてはいけないのでしょうか。
 でも、それを疑問に思っても仕方有りません。現に電話の向こうで、蓮田さんは鼻を啜りながらおばけに怯えています。
「取り敢えず、なんでまた急におばけがこわくなったんですか?
そちらに何か物の怪が出たとか」
 蓮田さんは物の怪を除ける能力に乏しいので、実際物の怪があの方の周りに出たとなったら、それは大変な事です。
 なので確認を取ってみると、
「物の怪が出たわけでは無いのだけれど、そちらの会社の人に、暇つぶしに読むのに良い本は無いかと訊いて、 お勧めされた物を読んだのだけれど、それがこわくてこわくて仕方ないんだ」
「お勧めされた本。ですか?」
 困りましたね、まさか神である蓮田さんが怖い話でこんなに怯えるなんて。
 戸惑う私を余所に、蓮田さんは震える声で言葉を続けます。
「確かに面白いのだけれど、とにかくおばけがこわいんだよ」
「そうなのですか、少々お待ち下さい。
本に書かれている物となると、語主様にお任せするのが良いかもしれませんので、替わりますね」
 取り敢えず電話を保留にし、編集部内を見渡します。
 探しているのは、今、蓮田さんに替わると言った語主様です。
 語主様は人々が作り出す物語の管理をしている神なので、 きっと今の蓮田さんを宥めるのには彼が適任かと思ったのです。

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