【Mosaïque×Religion】



作:藤和 価格:1400円 文庫サイズ 122ページ

 邪なる物が跋扈する東京。そこで魔を祓う退魔師が居た。
今日も、心に小さな棘が刺さったまま日々を送る。

--本文サンプル--

第一章 退魔師

 陽も落ち薄暗い裏路地。
 背の高いビルに挟まれ、威圧感を感じるその細い道の奥に、羽を四枚持った大きな蝙蝠が居た。
 この蝙蝠は、人の心を惑わし、仲違いを助長させる悪魔だ。今日はこの悪魔を祓う仕事を受けてやって来た。
 緑色の中に黄金色が浮かぶロザリオを手首に巻き、十字架の部分を手のひらに垂らして蝙蝠の頭を掴む。
 羽をばたつかせ、甲高い声を上げる蝙蝠を押さえつけ、聖なる言葉を唱える。
「Ne kredu Suspektas Ne lasa iri de la lasera!」
 蝙蝠はばたつかせていた羽をだらりと下げ、ふるふると震えながら、塵になっていく。
 そして最後に、こつりと地面に濁った色の、石のような物を落として消えた。
 僕は懐から、きつくコルク栓で蓋をされた試験管を取り出し、その中身を蝙蝠が落とした石のような物にかける。
 すると、石のような物は小さな泡を出して、溶けていく。
 この石のような物は悪魔の核で、この様に聖水をかけると、溶けて消えるのだ。
 悪魔の核が完全に消えたのを確認し、スマートフォンを取り出してメールを送る。
 依頼主に退魔完了のお知らせをするためだ。
 僕の仕事は基本前金制で、退魔のための料金はもう払って貰っている。なので、このメールを送信したところで、 僕の仕事は終わりだ。
 もうすっかり陽も落ちて、ビルの隙間から見上げると、狭い空に星が輝いている。
 仕事が終わったら、一緒に夕食でも食べないかと、同業の友人達に誘われていたな。
 彼らが店を押さえてくれていると言っていたから、どこに居るのかを確認しなくては。
持っていたままのスマートフォンで、電話をかける。
「もしもし。
ああ、終わったよ。今どこに居るんだい?
……秋葉原か、わかった。
ここからだと二十分か三十分くらい掛かるが、待っていてくれ。
場所はいつもの所で良いのだよね?
ああ、それじゃあ」
 通話を切り、スマートフォンを内ポケットにしまい、路地から出るために歩き始める。
 ああ、自己紹介が遅れていたね。僕の名前はジョルジュ・ド・三堂。父なる神を信奉するクリスチャンで、退魔師だ。

 電車に乗り、秋葉原に立つ。
 友人達がいつも使っているレストランというか、飲み屋。そこは駅からほど近い、ホテルの二階に店を構えている。
 個室が用意されている店なので、店の前に着いたところで、友人に電話をかけ、案内を頼む。
 店から出てきたのは、僕より幾分背が低く、年下の、人なつっこい顔をした男性。
「イツキ、もう食事を始めていたのかい?」
「いんにゃ、ジョルジュが来るまでソフトドリンクだけで待ってた。
お店にも後でもう一人来るって言ってあったから」
「そうか、気を遣わせてしまって悪いね」
 彼の名前は泉岳寺イツキ。僕と同じく退魔師をしているのだけれど、どうにも何を信奉しているのかがわからない、 謎が残る人物だ。
 除霊の時に、何を使って行っているのかもわからないしね……
 イツキに案内され、店内にあるうちの一つの個室に入る。するとそこには、僕と同い年くらいの、 少しきつめの表情はしているけれども、頼りがいのありそうな男性が一人、待っていた。
「よう、ジョルジュ。今回の仕事は上手くいったか?」
「ああ、おかげさまで上手くいったよ。
勤は最近、仕事の方はどうだい?」
「俺? 俺は一昨日仕事一件やっつけたけど、まぁ、上手くは行ってるな」
 テーブルにセットされている椅子に座りながら、話をする。
 彼の名前は、寺原勤。仏教系の退魔師なのだが、偶に陰陽道関連の仕事も来るらしく、 僕達の中では、おそらく一番仕事が多いだろう。
 僕と、イツキと、勤でテーブルに着き、メニューを開いて何を食べるかを決める。
 僕はいつも、家では洋食を食べることが多いので、こういった所で和の物を食べるのは結構楽しみだったりする。
 ふむ、コース料理も良いけれど、他の二人の懐具合はどうなのだろう?
 飲み屋に来てはいるけれど、実は僕と勤はそこまで酒を飲む質では無いし、 飲み放題にするとイツキが際限なく飲んで潰れるので、なるべくそれは避けたい。なので、 飲み放題が付いているコースは避けたいところなのだが。
「あー、オレしゃぶしゃぶ食べたい」
「しゃぶしゃぶ? これ二人前からじゃん」
 イツキの提言に勤が少し困ったような顔をして、ちらりと僕の方を見る。
「イツキがしゃぶしゃぶにするなら、僕もそれで構わないよ」
 ステーキは家で焼くのはそこまで難しくないけれど、 しゃぶしゃぶを家でやるのはなかなか難しいからね。偶にはこういう所で食べたい物だ。
 僕の言葉に、勤もメニューに手を置いて言う。
「それじゃ、俺もしゃぶしゃぶにするわ。
飲み物どうする?」
「オレ芋焼酎がいい!」
「僕は梅酒が良いな」
「じゃあ俺柚子サワーで」
 全員のメニューが決まったところで店員を呼んで、それぞれに注文をして、その日は楽しい夕食時を過ごしたのだった。

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