【天使の境界】
作:藤和 価格:500円 文庫サイズ 28ページ
神様に使える天使達。天使達にも役割があって、それぞれの思いがある。
これは、違う立場に立つ3人の天使のお話。
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--本文サンプル--
其の一 親愛
私の名前はプリンセペル。父なる神に仕える天使達を纏める天使長だ。
私の仕事は天使を纏める事は勿論、神の補佐なども含まれる。
補佐の仕事の内、私がいつも神に言いつけられるのを楽しみにしている仕事がある。
それは、堕天し地獄を統べて居る兄の、現状報告を聞きに行く事だ。
何故神が地獄の現状報告を聞くのか。疑問に思う人間も多いだろう。しかしそこまで疑問を抱く様な理由ではない。
天界と地獄はその両方があって、バランスが保たれている。そして地獄もまた、神が作り出した物なのだ。
なので、神は地獄の様子も見ているのである。
兄さんは堕天したという建前上、天使長である私には素っ気なく接してくる。
兄さんが天界に居た頃は、私の髪を結ってくれたり、落ち込んでいる時には優しいキスを落として慰めてくれていた。
けれども、今はそれが無い。
天使長としての自覚を持て。兄さんはそう言う。私もそう思う。けれども私には、
兄さんの温もりを感じられない事がひどく辛かった。
この日、私はひと季節ぶりに兄さんの元へ行く事になった。
このところ激務が続いているので、代わりに他の天使を地獄に遣るかと神に言われたが、
私は兄さんに会える機会を潰したく無かったので、無理を押して地獄へと向かう。
いつも通り、地獄にある兄さんの住処で迎えられた私は、兄さんと一緒にテーブルに着き、報告書類のやりとりと、
事務的な話をする。
ふと、兄さんがこう言った。
「随分と疲れた顔をしているな」
確かに、兄さんの言う通り疲れは溜まっているが、その事で兄さんに心配をかける訳にはいかない。
大丈夫だ。そう言おうとすると、口から言葉が出る代わりに、涙が零れた。
こんな事では兄さんに心配をかけてしまう。迷惑を掛けてしまうのに。なのに、止められなかった。
私がしゃくり上げて居ると、向かい側に座っていた兄さんが溜息をついて立ち上がり、私の横に来る。
それから、そっと私の涙を指で拭い、頬に手を当て、唇にキスを落とした。
柔らかく温かい感触の後、兄さんはその腕で私を抱きしめて言う。
「ああ、お前にプレッシャーを掛けすぎてしまった様だな。
真面目なお前の事だ。天使長らしく振る舞おうと、天界で無理をしているのだろう?
少し休んでいくが良い」
「でも、兄さん。私は……」
「早く天界に帰らなくてはいけないのは解る。
だが、大切な弟が辛い思いをしているのに見過ごせるか。
神には、私に引き留められたと言っておけば良い」
昔と同じ兄さんの温もりを感じながら、腕の中で何度も頷く。
暫くそうしていると、兄さんがベッドを貸してくれるというので、少し眠っていく事にした。
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