【魔法少女の裏表】
作:藤和 価格:1100円 文庫サイズ 96ページ
魔法少女と、魔法少女に憧れる少年。
二人の生活が擦る様に交差し、やがて二人は大人になっていく。
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第一章 魔法少女マジカルロータス
森下蓮は何の変哲も無い、普通の女子中学生だった。
そんな彼女がある日、森に囲まれた神社にお参りに行き、そのついでに併設されている庭園を歩いていた時のこと。
風景写真を取るのが好きな蓮は、使い捨てカメラ片手に庭園の奥へ奥へと進んでいく。
ふと気がついた。自分が庭園の道から外れ、ざわつく木々に囲まれていることに。
来た道を戻ろうにも、道が無い。
立ち入り禁止区域に入った記憶は無いのに。そう思いながら血の気が引いていくのを感じていると、
ちらちらと光が目に入った。
何かと思い光の方を向くと、その先にはまるで鏡の様に光を照り返している葉を付けた大木が立っている。
そしてその大木の前には、優美なドレスを着た女性が一人。
彼女は言う。
「突然お招きしてしまって、ごめんなさいね。
あなたにお願いがあってここまで来て貰ったの」
その言葉に、蓮は身を硬めながら訊ねる。
「お願いって、何ですか?
あなたは何者なんですか?」
「私は『鏡の樹の魔女』と呼ばれているわ」
「魔女……?」
鏡の樹の魔女曰く、蓮にはこの世に蔓延る悪を少しでも退治して貰う為に、魔法少女になって欲しいと言う。
勿論、そんな話をいきなりされた蓮は戸惑うしか無い。
魔法少女などと言う物は実在しない。と言いたい所だが、
実際今までニュースを見ていて何度か魔法少女が悪者を捕らえたという話は聞いている。
なので、魔法少女という物が実在するのは知っては居たが、
まさか自分がそれになるとはつゆにも思っていなかったのだ。
「なんで、私が魔法少女に?」
蓮の問いに、鏡の樹の魔女は優しく答える。
「今、他の地域には魔法少女が居るのだけれど、この地域には暫く居なかったの。
このままではこの地域が手薄になると思って適正のある子を探したら、あなただったのよ」
適正と言われても、蓮には自分の何処に適正があるのかがわからない。
なので、一体何を持ってして適正というのかを鏡の樹の魔女に訊ねたが、それは秘密だと言うことで教えて貰えなかった。
胡散臭いと思いながらも暫く鏡の樹の魔女の話を聞いていた蓮。
結局鏡の樹の魔女の言う魔法少女の仕事を受け持つことになってしまった。
「わかりました。魔法少女になります。
それで、やっぱり変身とかするんですか?」
不安そうにそう訊ねる蓮に、鏡の樹の魔女は一本のネックレスを取り出して渡す。
「このネックレスをいつも着けていてね。
このネックレスに付いているモチーフに念を送ると変身出来るから」
そう言って、蓮がネックレスを付けるのを確認した鏡の樹の魔女は続けてこう言う。
「それじゃあ、変身した時のコスチュームを考えましょうか」
まさかコスチュームの案まで聞かれるとは思わなかったなぁ。と、鏡の樹の魔女から解放された蓮は、
何とか戻ってこられた庭園の道を歩きながら先程のことを反芻していた。
暖かな春の日とは言え、まだ日はそんなに長くない。
少しずつ傾いていく太陽と庭園の木々を写真に撮り、蓮は庭園を後にした。
家の近所の写真屋さんに使い捨てカメラを現像に出し、部屋の中で改めてネックレスを眺める。
何という金属なのかはわからないが、少し赤みがかった金色の、蓮の花を模ったチャーム。
『折角あなたはお花の名前なのだから、名前と同じお花のモチーフにしてみたのよね』と鏡の樹の魔女は言っていたが、
あらかじめ名前を把握していたと言う事は、自分に狙いを絞って離さないつもりだったのだろうなと改めて思う蓮。
ふと、蓮が周囲を見渡し始める。
「……本当に変身出来るのかな……」
恐る恐る蓮の花のチャームを握り、ぽつりと変身する為の言葉を口にする。
「へ、変身、マジカルロータス……」
すると途端に蓮の体は光に包まれ、ほんの数秒で姿が変わった。
足下にはトゥシューズ。体には純白のチュチュ。柔らかなボブカットの頭には蓮の花があしらわれ、
顔にはマスケラが装着されている。
「どうしよう、本当に変身しちゃった」
部屋に置かれた姿見の前でオロオロしていると、誰かが部屋のドアを叩く。
「お姉ちゃん、晩ご飯出来たって」
「わかった、ちょっと待っててね」
妹の睡が部屋に入ってこない様にドアを押さえつけながら答え、蓮はそっと変身を解いたのだった。
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