【ブラコンラプソディー】



作:藤和 価格:900円 文庫サイズ 54ページ

 どこからどうみてもアウトなブラコン弟の、暴走気味だけどちょっと切ないお話。
お兄ちゃん逃げて。

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--本文サンプル--

第一章 きっかけ

 うちの両親は、俺が小さい頃から共働きで、母さんの仕事が長引いた日の晩や、土曜日の昼のご飯は、三人居る兄弟の内、 一番上の兄のカナメ兄ちゃんがよく作っていた。
 始めの内は拙いながらもレシピを見ながら、その内に冷蔵庫の中に有る物で大体まかなって作られた料理は、 母さんの作る料理とは少し違って、でも美味しくて。
 そんな料理を食べて育った俺は、いつかカナメ兄ちゃんに俺が作った料理を美味しく食べて貰おうと、 中学に入る頃には調理師学校に進もうと心に決めていた。

 しかし、心に決めたその矢先、カナメ兄ちゃんが服飾の学校に通う為に家を出て東京で暮らす事になり、その時に、 カナメ兄ちゃんと離れたくなかった俺は相当ごねてしまった。
この家からでも通えないのかとか、そう言う事で。
でもよく考えたら通学時間は短い方が良いし、俺よりも小柄で、 少し体の弱いカナメ兄ちゃんには余り負担をかけられない。
夏休みとかには偶に帰ってくるからと、その言葉を信じて、俺はカナメ兄ちゃんを見送った。

 それから数年。
俺は無事に調理師学校を卒業して、大手では無いけれど、食品メーカーの開発部に就職した。
色々と出された企画を商品化する為に、どの様な加工をすれば良いのかの研究をしている。
 結局俺も東京に出て、狭いアパートの一室を借りてそこから出勤している訳なのだが、偶に実家に帰る事もある。
盆暮れ正月とかそう言うタイミング。でも勿論帰りはするけれど、それ以外の時にも帰る事はある。
 仕事の合間の休憩中、俺のスマホが音を立てた。
何かと思ったら、母さんからのメールだ。
驚くほど誤字の少ないメールには、今度の土日にカナメ兄ちゃんが実家に行くと言う旨が書かれていたので、 俺は素早くスマホの画面をタップして返事を返す。
 次の土日は、俺も仕事が休みだ。
金曜の夜位から実家に行けたらなと思うんだけど、金曜定時で帰れるかな……

 そして金曜の夜。
結局三時間程残業をする事にはなったが、なんとかその日の内に実家に帰れた。
 実家に向かう長い電車の中で、スマホを眺める。
左手でしっかりと、落とさない様に持ち、ロックを解除する訳でも無く、ただロック画面を眺めている。
ロック画面に設定されている画像は、 一見すると少し奇抜な格好をした可愛らしい女の子が写った写真なのだが、 俺はこのロック画面を絶対に家族には見せない様にしている。
何故なら、この写真は、女装したカナメ兄ちゃんだからだ。
その写真を見ながら、口元が緩むのを必死に堪える。
 ああもうほんと可愛い。
カナメ兄ちゃんが女装を始めたのは高校の時で、 文化祭の時に漫研の出し物でメイド服を着たのがきっかけだったらしいんだけど、なんで俺は見に行かなかったんだろう。
行けば良かったのにと心底後悔している。
 その後、オタク系のイベントに行っては女装コスプレをして居る様で、 その写真は本人直々に見せて貰った事が有る。
 未だにカナメ兄ちゃんは女装コスプレをイベントでしている様で、 ネットで検索したらコスプレのSNSに写真を上げているのが見つかった。
偶に男のコスプレもしてるけど、もうとにかく女装が可愛くて、こっそりとバレない様なハンドルネームでSNSに登録し、 日々チェックしている。
 昔から、いつの間にか、カナメ兄ちゃんにただの兄弟と言うだけでは無い思いを抱いていた俺にとって、 自分が見ている事を想定されてはいないというのがわかっていても、この可愛らしい女装をした写真群はたまらない物。
 流石に実家に来る時は女装はしていないけど、それでも俺はカナメ兄ちゃんに会えるのを毎回楽しみにしてるし、 カナメ兄ちゃんに俺の作った料理を食べて貰おうと、連絡がある度に、一足先に実家へと向かうのだった。

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