【EAT ME 2nd】



作:藤和 価格:500円 文庫サイズ 48ページ

中の人がセルフ二次創作をしたBLのifストーリーをまとめた短編集。
『ソンメルソとデューク1・2』『デュークとカミーユ1』『エルカナとカミーユ1』 『語主と蓮田岩守4・5』『正とユカリ3』の7本を収録。

--本文サンプル--

 それは初めて仮面舞踏会に参加した時の事だった。
夜に開催されるその舞踏会は、今まで子供だからと親に連れてきてもらえていなかったのだが、 そろそろ大人の社会にも馴染んだ方が良いと、そう言われてやって来た。
 マスケラを被り、各々相手を見付けてホールで踊る。けれども、俺はまだ相手を見付けられていなかった。
 その気のない相手と踊っても楽しくない。ワイングラスを傾けながら、享楽的な人々を冷めた目で見ていた。
 その中で、一人の男性が目に入った。
華やかな花柄のドレスを着た女性の手を取り、円舞曲を踊っている。その手には白い、レースのあしらわれた手袋を付け、 肌が出ているのは仮面で隠されていない顔の下半分だけ。その肌は陶器のように白く、 化粧をしているわけでも無いであろう唇を、紅く際立たせていた。
 僅かに見える白い肌、そして紅い唇が思い人を思い起こさせる。いや、あの少しぎこちないステップを見る限り、 その本人だろう。
 ふと、彼が俺の方を見て微笑んだ。
 曲が終わりホールの中央付近から壁際へと寄っていく彼。その後を先程まで一緒に踊っていた女性がついて行き、 他の所から緑色のドレスの女性もやって来た。
彼女たちに囲まれ姦しく話しかけられている彼の元へ行き、声を掛ける。
「良かったら一緒に世間話でもしませんか?」
 すると、彼女たちに話しかけられている間は固く結ばれていた彼の口元が、綻んだ。
「僕で良かったら、お話の相手になりますよ。
そう言うわけで、僕はこれで失礼しますね」
 俺が彼の手を引いて彼女たちの前から離れていくと、彼女たちは不満そうにする。
 彼の手を引き、彼を連れたまま、誰も居ないテラスに出る。
 窓を閉め、ガラス越しにホールの中を見ると、どうにもテラスに出ただけでは彼女たちが追ってきそうで不安だった。
「このまま庭に出て、隠れて話しませんか?」
 テラスの柵に手を掛けてそう言うと、彼も気まずそうな口調でこう言う。
「そうですね。僕、ここだとちょっと不安です」
 それから、二人でちらりと窓の中を見やった後、柵を越えて暗い庭へと入っていった。

 テラスから離れた、星と月が妙に明るく見える庭で、彼に言う。
「ここに居るのにマスケラを付けている必要は無いでしょう。外しませんか?」
 すると彼は、一瞬何かを言う様に小さく口を開いた後、思い直したように笑って答えた。
「だめです。お互い誰なのか知らない方が良い事も、有るんじゃ無いですか?」
「俺はあなたが誰なのか知りたいのに。意地悪な方だ。
それでも、月明かりしかないのですから、外してみては?」
「月明かりで、誰だかわかってしまうでしょう?」
 思ったよりも一筋縄ではいかないな。俺は彼が誰なのかわかっているのに。
 ……いや、もしかしたら別人なのか? ついそう思ってしまうほどに、月明かりに照らされた彼は、 普段の姿からは想像も出来ないほど妖艶な雰囲気を醸し出していた。
「どうして、僕とお話したいと思ったんですか?」
 微かにすぼめられた唇に、釘付けになる。
「あなたの唇が、魅惑的で」
 身体が震えるのではないかと言うほど、鼓動が強く脈打つのを感じる。
 彼は白い手袋で包まれた指を口元に当て、微笑む。
「そんなご冗談を。僕は男ですよ?」


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