【陽だまりとプラスチック】



作:藤和 価格:1500円 文庫サイズ 188ページ

「Text-Revolutions」のアンソロジーに寄稿した物やペーパー、 webに載せていた短編を収録。書き下ろしもたくさんあり。
『窓辺の陽だまりで』『明け色プラスチック』『星物語』『思い出は緞帳の向こう側』『常磐』『硫酸の流れる先には』 『ブレスレットを着ける僕と、大事な弟達』『緑の服と、腕の良い仕立て屋』 『堕天使は奇跡を起こさない』『白百合が香る』『手の内のガラクタ』『戦う虫』『花の髪飾りの天使』 『羽民人』『ドールコンプレックス』『お城の住人とけもの』『臓器籤』『そこは港の街』『死化粧』 『ひみつのふたり』『パリグリーン』『薔薇と図書館と物語』『サイコパス考』『Hyacinth』『バードック』 『シロツメクサ』『アズライト』『アルバイト』の28本を収録

切ない話だけで無く、ほのかに薄ら怖さのある話、コメディタッチのお話も詰め込んでいます。

--本文サンプル--

 私は天界で天使達を統べる仕事をしていた。
 天使長という役職は、かつては私の物だったのだが、今は弟に譲り渡し、現在は地獄の管理をしている。
 何故私が地獄の管理をすることになったのか。その理由のひとつとして、当時地獄には適切に管理をし、 神に定期報告を出来る者が居なかったというのがある。私の姿形はまるで悪魔のようだと、 人間達からは言われていた。だから、私が地獄に降りたとしても誰も不思議には思わないだろう。
 けれども、私が地獄に降りた、正確には、天界に居る事が出来なくなった一番の理由は、 人間に恋をしたからだった。

 私がその人間と初めて会ってからどれくらいが経っただろう。人間達から追い立てられ、 石を投げられているところから私を救ってくれたあの時、まだ娘だった彼女も、老いて土へと還った。
 きっと、もう数百年は経っているのだろう。
 ある時の事、私は父なる神の管轄から外れた、東の土地へと訪れた。訪れた理由は特にない。もしかしたら、 疲れていて気分を変えたかっただけなのかも知れない。
 その土地で、私はその人間に出会った。若い男で、長い髪を背中に流し、池に映る月を、 ぼんやりと眺めていた。ほのかな月明かりに照らされたその顔は、穏やかだった。
「……羽民人?」
 彼は私が背負っている翼を見てそう言った。この土地には、天使や悪魔と言った概念が無いのかも知れない。
 不思議そうに私を見る彼にこう言った。
「お前と話がしたい」
「構いませんよ。
よろしければ隣に来てはいかがですか?
一緒に、月を眺めましょう」
 私は彼の隣に降り立ち、暫し話をした。
 穏やかに言葉を紡ぐ彼の声を聞いて、私はすぐにわかった。彼は私が探している、かつて恋をしたあの人間なのだと。

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