【翠の奥の瑠璃】



作:藤和 価格:500円 文庫サイズ 34ページ

鳥と宝石と宝石の名前の鳥。幸福な日々とその後を綴った短編を収録。
『ホロホロ鳥のカナン』『翠の奥の瑠璃』 『スプラッシィ・スプラッシィ・ジェイド』『大人になった僕達は』の4本。

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--本文サンプル--

「お母さん、僕、バードパーク行きたい!」
 僕がお母さんにそう言ったのは、中学一年の夏休みのある日、 お父さんの仕事が暫く休みだからどこへ行こうかという話が出たときの事だった。
 僕には弟が二人居て、今小学五年の真ん中の弟は遊園地に行きたいと言っていたけれど、 普段から偶に連れていって貰っているので、また別の日にと言う事になった。
一番下の弟はまだ小学生になったばかりで、いつも僕の後を付いて歩いている。だから、一番下の弟の希望は、 僕の行きたいところと一緒と、どういう所なのかもわかっていない様子でそう言った。
 明日早速バードパークに行くという話になり、 一番下の弟はどんなところ? どんなところ? と頻りに僕に訊いてくるし、真ん中の弟も、 そんなに悪い顔はしていなかった。
 そもそも、なんで僕がバードパークに行きたいと言ったのかというと、実は、 僕は横浜にあると言うそのバードパークに憧れがあったからだ。
テレビで見たわけでも無い。
学校で噂を聞いたわけでも無い。
観光雑誌で見たわけでも無い。
それで、何故憧れているのかというと、僕が小学生の頃愛読していた小説に、横浜のバードパークが出てきたからだ。
小説の中に出てきたその空間に、一度足を踏み入れてみたかった。
「にーちゃん、とりさんたのしみ?」
「うん、楽しみだよ」
 出かけられるのが嬉しいのか、僕の足下ではしゃぐ一番下の弟。
もう寝る時間だよと言っても僕から離れなくて、その日は弟を抱えて一緒に布団に入った。

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