【外の世界の話】
作:藤和 価格:1200円 文庫サイズ 114ページ
「Text-Revolutions」や「本の杜」のアンソロジーに寄稿した物や、
絶版本やペーパー、webに載せていた短編を収録。微妙に書き下ろしもあり。
『冬の森』『Kato plenigita』『この素晴らしき難問』『いつかの恋人』『銭の穴』『外の世界の話』『レヴィアタン』
『白百合は踊る』『君の軌跡』『黒猫はメガホンで叫ぶ』『パーフォレーションに腰掛けて』『アプリコットスピネル』
『完璧な幸福の中で』『おやつのじかん』『真夜中の本』の15本を収録
切ない話だけで無く、ほのかに薄ら怖さのある話まで。
「製本直送.com」で受注生産を受け付けております。
--本文サンプル--
俺がこの会社に就職して二ヶ月ほど。社員研修も終わり、最近は新入社員の俺でも、いや、
だからなのかはわからないが毎日残業している。
今日も渡された仕事が片づかず、残業になりそうだ。
時計が就業時間を指す。
今日の夕食はどうしようかと思いながら仕事を続けていると、横から声を掛けられた。
「上杉さん、お疲れ様です。余り根を詰めないでね」
「あ、ああ。いつもありがとう」
パソコンに集中しているように見せかけ、俺は横を見なかったけれど、
声のした方からそっと綺麗な手が出てきて、コーヒーを机の上に置いた。
給湯室のポットは保温している温度が低いと言っていたか、少しぬるめのコーヒーに口を付けると、甘い。
いつもなら酸味の強いブラックコーヒーを飲むのだが、残業に差し掛かるような疲れた時間には、
これくらい甘いコーヒーが良い。
横から人が居なくなったのを確認した俺は、そっと社内を見渡す。
すると、一人の男性社員が残業している社員皆に飲み物を差し入れしている。
……ほんと柏原は気が利くよな……
飲み物の差し入れをしているのは、俺と同期の柏原。
今までお茶汲みは新人女子社員が主にやっていたらしいのだが、昨今、
女子社員にばかりそう言った仕事を押しつけるのはどうなのかという話が多く出ているので、
今年からお茶は自分で淹れるように。となったらしい我が社。
なので、昼間は皆各々好きな飲み物を入れているのだけれど、
飲み物を取りに行く気力も無くなりがちな終業時間後は、柏原が残業社員に飲み物を持って来てくれている。
緑茶か紅茶かコーヒーかしか給湯室に無いけれど。と言っていたけれど、
その三種類をちゃんと社員の好み通りに配布しているというのが凄い。
これを上司や先輩へのゴマすりだって言う奴も居るけど、
ゴマすりだけだったら俺みたいな新入社員に持ってくる理由は無いと思う。
何はともあれこのお茶汲みが功を奏したのか、柏原は上司からなかなか評判が良い。
まぁ、柏原は仕事が早いってのも評判が良い理由ではあるだろうけど。
それにしても、と思いながらパソコン越しに柏原が居る方を見る。
飲み物を配る柏原の横顔がとても綺麗で、男だって言うのが信じられない。
手もなんか、華奢な感じだしなぁ。
柏原を見ながらコーヒーを置いてくれた手を思い出していると、段々顔が熱くなってきた。
うう……こんな思いするの、高校時代以来だ……
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