気が付いたら、私はその部屋にいた。
なんだろう、何をして居るんだろう。解らない。
どうして自分がここに居るかも解らない。
生活するために必要な家具は揃っている。
机の上にはパソコンとその周辺機器、それとデジタル式の時計。
その時計にはこう表示されていた。
『1249年……』
その表示を見て私は呆然とする。
今が本当に時計の指す年代だとしたら、
この部屋に置かれた家具は明らかにオーバーテクノロジーなのだ。
「やれやれ、ようやく体裁が整いましたね」
その声に私が振り向くと、そこにはフワフワとした白い髪の女性が居た。
どう言うことだろう、何が何だか全く解らない。
戸惑う私に、彼女は言葉を続ける。
「この街が出来て、ようやくあなたに仕事をして貰う場所を確保できました」
「仕事って、何が何だかさっぱり解らないし、
この部屋に置いてある物もおかしいんだけど……」
ふと彼女がパソコンのディスプレイを指さした。
何かと思って覗き込むと、そこには疎らに埋められた年表が表示されていた。
取り敢えずこれを見ろって事?
なんだろう、凄く細かく書いてある上に、未来の事まで書いてある。
私が年表と睨めっこしていると、彼女が言う。
「あなたの仕事は、この年表を埋めることです」
「え?埋めるって、すっごく未来の事まで書いて有るんだけど?」
「そうです。未来の年表も埋めるんです。今有る年表に矛盾しない範囲で」
「そんな事して何になるの?」
そう訊ねられるのはいかにも意外と言った顔をする彼女。
少し考える素振りを見せた後、ゆっくりと説明をし始めた。
「そうですね、まず前提としてあるのは、あなたは人間の形をしていますが、
人間ではありません。
この世界を構築する自己再生プログラムです。
そうですね、この世界では余り一般的な表現ではないですけれど、
『神』と言えば解りやすいですかね?
そして、その年表のファイルはこの世界その物です。
そのファイルはあなたにしか操作することが出来ません。
代わりと言っては何ですけれど、あなたにはそのファイルを書き換えることによって、
例えば5分前に存在していた物を根本から否定する事が可能です」
なんかとんでもないことを言われている気がして、思わず手の平に汗が滲む。
「世界が全部プログラムで出来てて、私はそれの構築をする係って事でファイナルアンサー?」
「あ、解って貰えたようで良かったです。その通りです。
でも、その作業でずっと部屋に籠もりっきりと言うのも精神衛生上宜しくないと思うので、
満月の夜と新月の夜は、部屋から出られる仕様になっています。
行動範囲はそんなに広くないですけど」
「何その微妙すぎる気遣い」
随分と重い仕事を押しつけられた物だ。そう思うとついつい顔も暗くなる。
そして、ひとつ気になることがあった。
「ねぇ、この年表を埋め終わったら、私はどうなるの?」
その問いに、彼女は微笑んで答える。
「まぁ、そのまま存在し続けることは出来ないんですけれど、
その時が来たら有る程度要望を聞きますよ」
なんか凄い使い捨て感がある。神様ってみんなこんな何だろうか。
でも、それでも私の存在意義はこれしか無さそうだし、
大人しく年表を埋める仕事を引き受けた。
「まぁ、偶にぼろが出たりとか歪みが出たりとかはすると思うんですが、
その辺はこちらで何とかします」
そんな事を言う彼女。
彼女は私の事を神様みたいな物だって言ってたけど、彼女も似たような物何じゃないかと思う。
取り敢えず、頑張ってみるか。
でも、出来れば自分が作った世界って言うのを、ゆっくり眺めてみたいな。
†the end†