『剣聖を名乗るもの』

 リサにとって、それは驚くべき状況であった。
 己の人生の中で、敵に翻弄されることはあっても、足元にすら及ばない相手とは出会ったことがなかったのである。
 昔の自分ならそのことに動揺も何もしなかっただろうが、理解もできずに負けていただろう。
 逆に、今の自分はそのことに気が付いた分動揺しており、ある意味で冷静な判断を下せる点では昔よりマシと言えたが。
「成る程。近頃噂になっている二人組とは貴公らか。楽しませてくれる事よ」
 男はにやにやと笑いながら、階段を下りてくる。「この仕事、受けた甲斐があったわ」
「それは光栄ですね」
 リサはそうとだけ言い返すと、独特の形をした片刃の小剣(ショートソード)を握り直し、常人からは考えられない跳躍で吹き抜けになっている天井まで跳ね上がると、音もなく男の頭上から斬り掛かった。
 男はそれを予測していたかのように左手の鉄扇で受けて押し返す。
 その力に逆らわず空中で身を捻り、左手で構えていたもう一振りの小剣を男の顔面めがけて叩き付ける。
 男はそれを寸前で見切り、反撃しようとしたところで一気に跳躍して、階下に降りる。その直後、男のいた場所に雨霰の如く炎の矢が降り注ぎ、業火で大理石製の階段を変形させる。
「やれやれ。一人一人は大したことないが、その連携ともなると手も足も出ないな」
 男は笑みを隠さぬまま、楽しそうに呟く。
「こちらも手が出ないんで困っていますけどね」
 珍しく、苦虫を潰した表情でサイアスがぼやく。「サービスで一発ぐらい当たってくれませんかね?」
「あの世行きの一撃を只で受けてやる理由が無くてな」
 男は豪快に笑い飛ばし、着地した態勢から立ち上がった。
 それを再開の合図とばかりに、再びリサは跳躍し、炎を陰とした死角から襲い掛かろうとする。男は直ぐさまに反応し、何時の間にやら地を這うように接近してきていたリサに腰に差した大刀を抜き撃つ。
 明らかに避けられない間合いでの一撃だったものを、リサは残像だけ残し、瞬時に男とサイアスの間に入る。
 男が次の行動に入る寸前に、今度は氷の矢がやはり回避できないタイミングで降り注ぐのだが、最初から追撃を諦めていたかのように、男は余裕を持って後ろに飛び退った。
「やはり陽動か」
 男は多少つまらなそうに、「成る程なあ。一見リードしているのは前衛の暗殺者の嬢ちゃんかと思っていたが、実際の指揮官は後ろの魔導師か。こっちの殺気がそっちに向いた途端守りにはいるわけだ、嬢ちゃんが」と、肩を竦める。
 サイアスは涼しげな表情のままだったが、リサは一瞬だけ顔を引き攣らせた。
(読まれたというの、こちらのやり口が?!)
 動揺を抑えようとするリサに、
(まあまあ。別に知られてもさほど困った話じゃありませんよ)
 と、おっとりとした思考をサイアスは送ってきた。
「ふむ……図星か……。暗殺者のわりには表情が豊かな嬢ちゃんだ。初めて見るよ、そう云うタイプは」
 興味深いとばかりに、にやにやと笑いながら男は一気に間合いを詰める。
「ははは、リサさんはあげませんよ?」
 サイアスは軽口を叩きながら信じられない早さで詠唱を終わらせ、具現化した雷球を四方八方から男に叩き付ける。(それじゃ、逃げましょう、リサ)
 男はそれを気合い一閃刀で全て断ち斬り、態勢を整えるが、その時にはリサがサイアスを抱えて出窓に辿り着いていた。
「退くのか?」
 意外そうな表情を浮かべ、男は二人に尋ねる。
「まあ、今日のところはどうにもなりそうにありませんし」
 サイアスはリサにお姫様抱っこされたまま苦笑する。「その上、こんな締まらない状況ですので、出直してきます」
「そうか。ならば、また会えると云うことかね?」
 嬉しそうに男は質問し、
「少なくとも、僕らは今回の依頼をキャンセルする気はありませんよ」
 と、サイアスは笑ってみせる。
「そうか。ならば、貴公らは俺の獲物だ。依頼料全額前払いして貰ったのだ。せいぜい楽しませてくれ。俺の名は、ハヤテ・ライドウ」
「随分とご大層な名前を名乗りますね? 今代の剣聖の名前ではありませんか?」
「さて、な」
 男は否定も肯定もせずに不敵に笑う。「ところでいつまでその態勢でいるんだ?」
「この窓から地面に下りるまでですよ。リサさんは兎も角、この高さじゃ、僕は飛び降りたら死にますから」
「魔導を使えば良かろうに」
「貴方が踏み込んでくる方が早そうでしてね。だったら、自分の格好悪い状況よりも命を優先します。ま、そんなところですよ。それでは、また」
 その姿勢のまま、サイアスは手を振り、会話中に開けていた窓からリサは飛び降りる。
 悠々とした歩調でその窓に近づき、五階から飛び降りたのに何事もなかったかのように夜闇へと走り去っていく二人を、何時までも獰猛な笑みを浮かべたまま、ハヤテは見送るのであった。

 壁を飛び越え、屋敷の敷地から出た時、
「ここら辺で良いですよ」
 と、リサにサイアスは促す。
 リサは無言で彼を降ろすと、周囲を探る。
「いませんよ、ここら辺にはね」
 リサにそう一言いうと、サイアスは大きく伸びをした。
「その根拠は?」
「あの男が獲物を人に譲るタイプに見えなかったから、で納得して貰えますかね?」
 くすくすと笑いながら、逃走用として最初から決めていたルートを歩み始める。
「納得はできる。だからといって油断して良いとは思えない」
 女の声とは思えない低い抑揚のない声色でリサは返事をした。
「はいはい。論理的に、って事ね。まず、僕たちの侵入はあちらさんにとって予定外の事柄でした。その証拠に、警備は前情報通り常時のものでしたし、こちらの侵入に最後まで気が付いていませんでしたからね。僕たちにとって計算外だったのは、あの侍が目的地の前で待ちかまえていたことでしょうね。どうやって知ったかまでは分かりませんが、僕たちの依頼の内容を知った上で、邪魔をしてきたようですし。で、あの侍との交戦時間中に警備の人間が一人も寄ってこなかったことから、おびき寄せてから僕たちを仕留めるという策ではないのも確実ですね。仕留める気なら、あの状況で僕たちに退却させるという選択肢を無くす場所で、無くす状況を作り出すことぐらい簡単にやってのけそうな相手でしたから。多分、逃がしても確実に僕たちを狩り出すことができるという自信と腕の持ち主なんでしょう。自信は兎も角、腕は間違いなく二人がかりでどうにかなるかですからねえ。いやはや、僕とリサさんのコンビネーションを見抜いたこともさながら、リサさんではなく僕が司令塔であることを初見で見抜かれるとはねえ。イヤな相手がいたものです」
 肩を竦め、首を横に振り、サイアスはお手上げとばかりに渇いた笑みを浮かべる。
「それで、勝算は?」
「ありますよ? 要は相手をしなければ良いんです。僕たちの依頼は彼を駆逐して目的の物を手に入れる事じゃないんですからねえ。……って、云いたいですよねえ」
 苦虫を纏めて数十匹噛み潰して無理矢理飲み込まされたかの様な口調でぼやいてみせる。
「問題があるのか?」
「大ありですよ。自己申告を信じるのならば、依頼料全額前払いの侍で当代の剣聖の名前を名乗る男。僕の記憶に間違いがなければ、依頼遂行率百パーセントの化け物ヒットマン、ハヤテ・ライドウ。依頼主がキャンセル懸けようとも、確実に標的を殺す。狙われたら最後、待ちかまえるのは破滅と死だけと云われていた伝説の男ですからねえ」
 困ったモンだと呟きながら、サイアスは大きな溜息を付く。「やれやれ。随分とけちが付きましたねえ、今回の依頼は。あんな大物が出てくるなら、報酬が安すぎるくらいですよ」
「そのわりには何か引っ掛かる物言いだな」
 深い澱みの様な瞳をサイアスに向け、リサは尋ねる。
「ああ、気が付きましたか? 確かに、ハヤテ・ライドウに狙われたら命はないものと思いますがね、おかしいんですよね、少しばかり」
「何がだ?」
「ハヤテ・ライドウが。なんで、この時期になって現れたのか」
「……現れた?」
「ええ。僕が知る限り、数年前から行方不明だったんですよ。殺し以外の依頼を最後に姿を消したんですよね。これまた綺麗なぐらいに。痕跡一つ残さず行方不明。その行方不明の男が、こんな田舎町のちんけな仕事に唐突に現れる。首の一つでも捻りたくなる様なシチュエーションですな」
「貴男はハヤテ・ライドウの正体を信じていない?」
「騙り野郎かどうかを断じるにはまだ早いですが、本物じゃない気がしますねえ。まあ、問題は、本物かどうかと云うことより、彼が我々から見れば本物と変わらない実力を有しているという点ですけどねえ」
 どちらにしろお手上げだと言った表情で、リサに頬笑む。「ま、頑張って返り討ちにしないと、依頼どころか自分たちの命が危ないと来たモノですよ。いやはや、人生世知辛いですなあ」
「その方策は?」
「さて、今のところとんと。まあ、こっちの依頼はあそこだけじゃないんで、他の件を先に片付けながら情報を集め、あっちを引っ掻き回して疲れさせるところから始めましょう。なに、どうせ勝ち目は薄いんです。足掻けるだけ足掻きましょう」
 悲観的な内容を、呵々大笑とばかりに笑い飛ばす楽観的な思考で語る。
 リサは大きく溜息を付き、
「貴男はもう少し計画性というモノを考えた方が良いと思います」
 と、難詰する。
「失礼だなあ。今回ばかりは相手が悪すぎるから、対処の仕様がないんだよ。まあ、いつも臨機応変に行動する方が好きなのは否定でないけどさ」
「私が云いたいのは、今回の依頼をなぜ受けたかと云うことです」
 渋い表情を隠そうともせずにリサは、「どう考えても胡散臭かったはずです」と、詰問する。
「ああ、それは、ね……」
 サイアスは満面の笑みを浮かべ、「面白そうだったからさ」と、身も蓋もない返事をするのだった。

 道すがら、サイアスはリサに謝り続けたが、リサは全てを黙殺した。
 そうこうしている内に、二人がこの街で拠点にしている長屋へと辿り着く。
「おや、早いのに出ていたのかい?」
「ええ、宅の宿六と来たら、アタシがせっつかないと働かないんですもの。お陰でこんな時間から仕事なんです」
「いやはや、面目ない」
 サイアスはリサに合わせ、情けない亭主の演技をする。「どうにも、怠け心が、ね」
「情けないねー、良い若い者が。と云っても、うちの亭主はどうにもならないからねえ。うちのみたいにならない様に、しっかりとやるんだよ」
「ええ、そうします」
 リサは満面の笑みを浮かべ、そのまま自室に入っていく。
 サイアスも慌ててそれに続いたせいか、部屋の扉を閉める時に隣のおばちゃんの豪快な笑い声が聞こえてきた。
(……どうやら、僕の演技もそれなりのようですね)
 サイアスは満足げな思念をリサに送った。
(貴男の場合はそれが地だと思いますが?)
 リサは呆れた様子で返事をする。
(失敬な! 僕は何時だって真面目ですよ)
 サイアスは抗議をしながら、変装を解く。(それにしてもリサは用心深いですねえ。顔も知られていないのにわざわざ変装させるんですから)
(貴男が油断の塊のだけです)
 リサも変装を解きながら、溜息を付く。(こちらの正体が知れて良いことなど一つもないのに、素顔で仕事を受ける方が不思議です)
(そりゃ、君が暗殺者だったからだよ。ほら、僕は只の魔導師ですからね)
(只の魔導師が、暗殺者の襲撃を返り討ちにした上、僕(しもべ)にするわけですか)
(いやはや、あれは運が良かったねえ。二度とやりたくない危ない橋を何度も渡ったけどねえ)
 肩を竦めながら、サイアスは部屋の隅々を調べる。(さて、どうやらここは無事だったみたいだね。さてはて、【結界】を再構築してっと……)
 両手で複雑な印をいくつも組み、あっと言う間に術を発動させる。
「さて、これで盗み聞きはできなくなった。喋っても良いよ」
「喋るよりも思念の方が早い気がしますが?」
「ま、そりゃそうなんだけどねえ。ぶっちゃけ、思念で会話するの疲れるんだよねえ。人の精神同士を無理矢理くっつけるわけだからさ、しんどいのよ」
 大きな伸びをして、サイアスは笑う。
「そうなのですか?」
「そうなんですよ。君は大変じゃないだろうけど、僕は色々と調整しないといけないんでねえ。とってもしんどいのです。何せ、他人の精神と自分の精神を触れ合わせるんですから、混ざり合わない様にするとか、反発し合わない様にするとか、熟練の業が必要なのですよ? その上、リサさんは特殊ですからねえ。ま、そのお陰でやりやすい面もありますが」
「一体誰の所為で特殊になったのやら」
 皮肉げな口調でリサは呟く。
「僕が一枚噛んでいるのは肯定しますが、もともとリサさんが特殊だったのは否定しないで欲しいですねえ。むしろ、僕の掛けた施術がなければ、念話自体できないんですけどねえ」
「そうでしたかしら?」
「生まれが生まれな上、育ちが育ちじゃないですか、リサさんは。もともと術が効きにくい種族で、精神操作系の術や薬が効かない様な刷り込みを植え込まれていますし。なるべく無茶は云わないでくださいね」
 へらへらと笑いながらも、口調は真剣そのものであった。
「相変わらず、顔と台詞が一致しない人ですね、貴男は」
 リサは深々と溜息を付いた。
「さて、そろそろ真面目に話しますか。とりあえず、私たちが受けた依頼は、竜皇の宝珠、大地の宝珠、均衡の宝珠、幸運の宝珠、知識の宝珠の五つを手に入れること。今日は竜皇の宝珠を手に入れようとしたら、ハヤテ・ライドウを名乗る手練れに邪魔をされた、と。現在手に入っている宝珠は均衡と幸運の二つ。残りの大地と知識はこの街の別の場所に存在。ハヤテ・ライドウが竜皇の宝珠の護衛のためにあの屋敷にいたのか、それとも三種の宝珠全ての護衛なのか、はたまたあの屋敷の主を護衛するためだけに雇われたのかは不明。こんな所ですかね、手短に纏めると」
「そうですね」
 淡々とリサは返事する。「二つの宝珠はどうします?」
「今まで通り、お互いに一つずつ所有。リスクは分散しましょう」
 笑みを引っ込めた冷徹な眼差しでサイアスは指示を出す。「あと、どちらかが襲われ、強奪されない様に、お互いにしか分からない符丁で何処に隠したかを分かる様にしておくこと」
「それでどうにかなると思いますか?」
「正直思わないな。あの男が本気でこの件に乗り出してきたら、その程度の小細工は突破されるだろうなあ。何せ、こっちのコンビネーションを初見で見切るほどだしねえ。その上、あの剣の腕。侍はおっかないと聞いてはいたけど、あれほどとは思わなんだ。なるべくなら、あの館の主個人に雇われたと信じたいが……」
 首を横に振り、「ま、ありえないな。何せ、俺達が竜皇の宝珠狙いだと云うことを見切っていた節があるからなあ。最悪の場合、宝珠を集める他の個人もしくは組織があると見なすべきかも知れないな」
「貴男はどちらだと?」
 リサの問いに、
「後者だろうな。偶然にしては、都合が良すぎる。僕たちにとって」
 と、真顔で答えた。
「酷い理由付けがあったものですね」
 呆れた口調でリサは呟いたが、
「そう云う星回りなんだから、仕方ないさ」
 と、あっさり答えた。
「付き合わなければならない私は災難ですね」
「リサさんもたいがい不運(ハードラック)だと思うがねえ。ま、冗談は兎も角、本当のところは、前情報として僕たち以外に宝珠を集めている存在を確認していたんでね。後はこの街の情報屋との接触で、補完するつもりだったんだけど、いやはや、予想外の展開の早さを見せています」
「言い様が、他人事ねえ」
「そりゃそうですよ。僕が作り出した状況じゃないんですからねえ。他人事にもなります」
 苦笑しながら、サイアスは手をぱたぱたと振る。「世の中僕しかいないなら、こういう状況下では他人事じゃないんでしょうけど、そうじゃありませんからねえ。それに、僕は何も動いていませんから、正直、どうでも良いンですよ、今の状況なんて。これから僕がどうこうしていく内に、どうにもならなかったら、深刻にもなりますけどね」
「どうにかできるという自信があると?」
「無ければ、この仕事を受けていませんよ」
「そうですか。そう云えば、今回集める宝珠は何か曰くでもあるのですか?」
 今更の様なリサの質問に対し、
「……冗談じゃないんですよね?」
 と、唖然とした表情を見せた。
「有名なのですか?」
「偶に、リサさんの物の知らなさに、畏れを抱きますよ」
 溜息混じりの苦笑を漏らし、「剣聖の御伽噺は御存知ですか?」と、尋ね返す。
「たらい回しにされるお話?」
「身も蓋もありませんが、そうですね。世界の危機を救うために神々を尋ね歩き、結果として己の身に神々の加護を受け、悪しきモノを斬る破邪顕正の太刀を手に入れたと云われていますね」」
「それとなんの関係が?」
「それぞれの宝珠は剣聖が尋ね歩いた神々に対応しています。一説に寄れば、その宝珠こそが、剣聖に与えられた力の源とも云われていますが、何処まで本当かは眉唾物です。教団当たりの神話捏造の一種だとは思うんですがね。本物(オリジナル)は教団の総本山に祀られているとの話ですから、今回の依頼の品は模造品(レプリカ)だと思うわけですが……」
 サイアスは渋い表情で言葉を濁した。
「何か気になることでも?」
「いえね」
 何もない空間に手を突っ込み、「それにしては、かなり強い力が込められているな、と」と、言いながら、宝珠を取り出す。
「確かに」
 リサもまた、懐から宝珠を取り出した。
「一応、力を隠すための細工はしてありますが、これだけ強いモノとなりますと、勘のいい人やら、この種の力を察知する能力を持った人からすれば、隠していないも同然ですからねえ。僕は、この宝珠と剣聖神話に直接の関係がないと思うわけですが、これだけの力を持つとなると、この宝珠の力まで偽物とは云いがたい。由来は兎も角、もしかしたら、これらの宝珠は模造品ではなく、本物なのかも知れませんねえ」
 難しい表情を隠そうともせず、サイアスは真剣な面持ちで呟く。
「本物だとして、何か厄介なことでもあるのですか?」
「さて、ねえ。僕だって全てを知っているわけじゃありませんからねえ。ただ、力ある道具は時として厄介な状況を作り出すだけに敵対の意志を持つ相手にだけは渡したくないものですね」
 そう言うと、サイアスはいつもの頬笑みを浮かべるのだった。