『章間 闇の胎動』

 薄暗い部屋の中、端整な顔立ちの青年と年輪を刻んでいる顔立ちの老爺とがカードゲームを興じていた。
「ふむ、これで『邪竜』が狩られましたな」
 老爺はそう言うと場に出ている『女騎士』のカードで青年の『邪竜』のカードを討ち取る。
「ま、『鱗の女帝』殿には悪いがそんなものだろう。最初からこの手で『混沌の門(カオスゲート)』を開けるとは思っていないさ」
 青年は手元の手札をちらっと見てから老人が場に出している一枚のカードを意味深に見た。
「はて、それでは何が目的で?」
「やっこさん方の手札の確認だよ」
「おや、まあ。それは剛毅なことですな。切り札クラスを捨て札に使うとは……」
「最初からその程度にしか使えまい? ……特にそこの『屠龍剣』を携えた『女騎士』には、な」
「ふむ、それはたしかにそうですな」
 老爺は白い見事な顎髭を扱きながら手札を場に出す。「それにしても『邪龍』封じの策をそのまま地鎮祭に用いられるとはある意味裏をかかれましたな」
「奴らの運が良かっただけだろ」
 秀麗な顔を忌々しそうな表情で歪めながら、「……流石にそこまでは計算ずくではないはずだ。あの忍びたちの動きから見てな……」と、呟く。
「そう願いたいものですな」
「それに僕の打った手には気づいてないらしい。それだけで充分だ。『女帝』殿には悪いがそういう意味では予想外の働きをしてくれたよ、かの『邪龍』は」
 表情を一転させ、不敵な笑みを浮かべながら手札を場に出す。「さて、これはあと四ヶ所で完成だな……」
「ほぅ、この爺もその手は聞いておりませぬが?」
「全てを話す義務が僕にあるのか?」
「……ないですな。なに、爺の世迷い言を一々気になさらないで欲しいものですな」
「ふん、そうは聞こえなかったものでね。まあ、どっちでもいいさ」
「そういえば予想外にも『砂塵の魔王』までやられましたな」
「……予想外? 思ってもないことを言わないで欲しいものだな。あれとていつかは討たれるのは目に見えていた。まあ、時間稼ぎにはなったと言ったところか。いや、それにしては少し不甲斐なかったかな……」
 露骨な話題転換に対し青年は淡々と『魔王』のカードを場から除外する。「まあ、今はこれで良しとしよう。……問題は次のカードをどれにするかだが……」
 青年は手札を一枚一枚確認する。
「う~ん。意外とどれもいまいちだな……」
「それでは牽制の一手でも打ちますかな?」
「……それも良いな」
 青年はニヤリと笑いながら屈強な男のカードを二枚ほど場に出す。
「おや? それだけですか?」
「……これのことを言いたいのかな?」
 青年は手札を一枚弾いてみせる。「ふふ、これはもっと他に使いでがあろう? もう少し様子を見てからよ……」
「それもそうですな」
 老爺はあっさりと認め、己の手札を見直す。「それにしてもこちらも呆れるくらい切り札がありますな。……その上まだ分からないものも多い」
「僕もまだ切り札は使った記憶はないがね」
 青年はその端正な顔に酷薄な笑みを浮かべる。「さぁて、お楽しみはこれからだよ、さざなみ寮の諸君」




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