秘宝12:侍魂斬紅郎無双剣 斬肉の夏



ジャンル
漫画(読み切り)
著者
広江礼威
発売日
1996年4月19日
発行
新声社
入手難易度

 

今回の秘宝館はコミックゲーメストに収録された読みきり漫画の紹介です。
この作品を知ってる人はかなりのサムライマニアですね(笑)。
作者は何とあの「ブラック・ラグーン」を描いた広江礼威先生!!!
実は広江先生は昔ネオジオ系の漫画を何本か描いていたりしていて、これらもそのうちの一つ。
この作品は斬紅郎無双剣を題材にした超シリアス漫画。
それでは内容のほうをどうぞ。

 

 

少年が歩いていました。
場所は田畑の間にあり、小川のせせらぎの聞こえるあぜ道。
少年はふと、自分の手のにおいを嗅ぎます。





「まだ…臭う…あの…血の臭い…」



手にこびりついた強い血の臭い 。
そして少年の脳裏に映る、自ら斬り倒し、血にまみれた居合いの剣士の姿。



少年は小川の土手で休息を取ります。
陽射しの中、浅い眠りに落ちていく少年。
その夢の中で少年に警告を伝える、黒装束の忍者の姿。



「汝、…心して聞くがよい…」





「汝もし鬼に会わんとする所存ならば…

冥途黄泉の下に於ても止まぬ…後悔をすることになるであろう。

―己の業を断ち斬るのが懸命よ。とくと考えるがよい。

―刻は――まだ…ある!! 」




それは先ほどの居合いの剣士の姿と同じく、少年の脳裏に浮かんだ光景なのでしょうか。
それとも・・・?
そして少年は自問します。鬼とは。自分が覚えている鬼の光景とは。



「闇に光る刃 電光の如き蓬髪 紅く濡れた眼差し

―――それが僕の覚えている…鬼… でも何故か、―ほっとする光景 」




少年は水音で目を覚まします。
どうやら、小川の土手に自分以外の誰かが来ていたようです。



「ご免なさい。起こしちゃった?」







「暑いね。今日は。」



少年の目に映ったのは不思議な装束を身に纏った、自分と同じぐらいの年齢に見える少女の姿。






二人は小川の土手で語り合います。
二人とも旅をしている事。少年は奥州から来た事。少女はカムイコタンという蝦夷の地から来たという事…







しかし、少年は不慣れな異性との会話に困惑気味です。
それはどこか微笑ましい光景。
少女は少年に旅の目的を聞きます。



「ん――そうだなァ…言葉にするのは難しいけど…

捜してるものがあるんだ。」




少年の瞼に映るのは’鬼’の姿―
それはどんなモノなのかと聞く少女。



「…僕にもよく分からない…でもいつかはわかると思う。」



少女は不明瞭な回答に納得がいかないような表情をしています。
少年はあわてて話題を変えようと、少女の少し変わった服装について聞きます。



―少女は語り始めます。
この服は「姉様」が自分の為に編んでくれた服だという事。
自分はその姉を追って旅をしている事。
姉は「鬼」…人々を困らせる悪しき魂から人々を救うために家を出て行った事。










そして…少女が礼拝をしている時に姉の魂が砕け散るのを感じたという事を―。
少年は…何故かその光景が―少女の姉の魂が砕け散る様をありありと思い浮かべる事が出来たのです。










「不憫な子…鬼を求めるうちに―己の心にも鬼を創ってしまったのね。

私の血が…貴方の見る最後の血になりますように…

貴方自身が―鬼になりたくないのなら…

…ご免ね…リムルル… 」




嗅ぎなれた血の臭い。
手に持った刀から感じる感触。
抱きかかえられた自分の頭に伝わる鼓動の音。
その音がだんだん小さくなっていく…その光景を。






少年は少女に聞きます。



「あ…君の…名…前は…」







「名前?ご免なさい…―あたしうっかりしてた…

あたし、リムルルって云うんだ!」




少年は返答します。まるで独白のように。懺悔のように。



「―知ってる…いや、知ってた!! 鷹と灰色の狼を連れた女の人だった

彼女がいまはの際に呼んだのは、君の名前だった… 」








「君の姉さんを斬ったのは―この僕だ」







「どうして…?どう…してよォ…!!」



絞り出すような声。まるで慟哭のように。
そして少女―リムルルは腰から小刀(マキリ)を抜き放ちます。
そのまま少年の下へ…







素早く手元にある傘を手繰り寄せ―そう、まるで何の躊躇いも無いようにリムルルに打ち付ける少年。
リムルルは低姿勢のままその傘の下をくぐる。
すぐさま反応して少年は傘を跳ね上げてリムルルの小刀を受け止めます。







「もう止めよう…終わりに…したいんだよ―こんなこと……」



その体制のままリムルルを傘で跳ね飛ばす少年。
離れた間合いで構えるリムルル。
しかし、少年は構えもせず正面を見ないで、独白のような言葉を紡ぎ続けます。






「もう…嫌だ…血の臭いは嫌なんだ…

終わりに…しよう…でないと…僕は…」







信じられないものを見たような表情をするリムルル。






「何…言ってんの…?」



そして、激昂。



「ふざけないでよ!!!!」







「子供だからってバカにしてんの?

姉様を斬っといてどうしてそんな事言えるのよ!!

あたしはあなたを… 」




リムルルの掌に氷のつららが収束していきます。
そしてそれらを少年に向けて投射。







「許さないッ!!」



そのつららを前に防戦一方な少年。
傘を回転させてつららを弾いていきます。
その少年の様子を見て好機と感じたか、リムルルが右手の小刀を振り上げながら少年に向かって走る!



そして―










少年の右手は肩口に背負った太刀 ― 大祓禍神閑丸の元に。
その太刀から放たれる技は―。


















緋刀流 雨流狂落斬。






…いつの間にか降って来ていた雨。
その中でたたずむ少年。どこからかざんばら頭の剣豪の言葉が聞こえてきます。
これも自分の記憶なのか、それとも―。



「生きても地獄…死んだ所で十万億土にゃ渡れねェ!!

修羅道を歩んじまった限りはな。一刀(そいつ)を手離せなけりゃァ…

どんなにもがいた所で行きつく所は冥府魔道だ。 」








剣に仁などありゃしねぇ

そいつを納得出来なきゃ手前が仏になった方が―――







「…そうだ…―――その通りだ…!!」







どれぐらい時間がたったのでしょうか。
降りしきる雨の中、傘を差して立ち上がる少年。
その足元にはリムルルが使っていた小刀が。







「…ご免よ――もう…行かなきゃ 鬼が――僕を待っている……」







少年の瞳に少女は何を見て散って逝ったのだろうか……











…いや、ぶっちゃけ酷い話です(笑)。
少年(作中に閑丸という表記は無し)はただひたすら人を斬殺。
向かってきたリムルルも何の躊躇も無く一刀両断。そのまま少年は去って行くという内容。
零SPクラスの残虐表現でリムルルを斬り殺すなんて後にも先にもこの作品だけでしょう。



しかし。
この作品は駄作でしょうか?残虐表現を前面に押し出しただけの唾棄すべき作品でしょうか?
自分はそうは思いませんでした。
逆に、「斬紅郎無双剣」という作品を完全に体現した作品の一つだと思っています。
そこにはどこか淀んだようで研ぎ澄まされた空気があり、血があり、そこで「修羅」とも呼べる人物達が剣技を振るう。
自分が「斬紅郎無双剣」という作品に感じていた「空気」をこの作品から感じる事ができました。

この作品で描写される少年―緋雨閑丸は正に修羅道を歩んでいきます。
自分内での妄想ですが、閑丸は回想という形で登場した半蔵や覇王丸も既に斬り殺しているような気がします。
そう考えると最終ページのどこか淀んだ瞳をしている閑丸もなんか納得できる。



この作品が収録された雑誌は新声社から出されていた「コミックゲーメスト」の1996年4月号。
その中の「SNK大特集」というコーナーで扱われていた作品です。
その後、商業ベースで発行された単行本などでの再収録はありませんでした。
当時立ち読みでこの雑誌を読んでいてパラパラとページをめくっている時に
この漫画のページから放たれるオーラのようなもので指が止まって、食い入るように読んだ記憶がありありと蘇ります。
まぁ、ハッキリ言ってこの作品は雑誌の中でも明らかに浮いていました!
他の漫画はどちらかと言うとライトなノリのギャグ漫画が大半だったのですから尚更ですね。



よって、この作品を読むには雑誌のバックナンバーを捜すしかない・・・と思ったら
なんとこの作品、作者の広江礼威氏が出したサムスピ同人誌に再録されているのです。
その同人誌のタイトルは「枕辺仮名手本侍魂圖」。
・・・まぁ18禁の同人誌で表紙もえろえろなのでここでの画像の掲載は控えます。
サークル名前は「TEX-MEX」。
広江先生は同人では「れっどべあ」(REDBEAR)という名前で活動される事が多いです。
これらのサークル名、タイトル名、作者名で秋葉原等にある中古同人ショップを捜せば
結構簡単に見つかるんじゃないでしょうか。
一応表紙画像が見れるリンクはこちら。18歳以下の人は見ちゃダメよー!



ちなみにこの同人誌にて、広江先生はこの作品について

「商業のパロディで真剣にリムルルを切り殺したのは僕だけじゃ無いでしょうかね」

とコメントされております。いやはや全くですね(笑)。
でも、自分の中ではこの作品を超える斬紅郎無双剣の商業パロディは見た事がありません。
それぐらいインパクト絶大の作品だったのです。



しかし、彼が行き着く先はどこなのでしょうか。
それこそ、ゲーム「斬紅郎無双剣」の閑丸エンディングに行き着くと思うのです。
以下、斬紅郎無双剣の閑丸ENDより抜粋。





 

 

 











真っ赤な雨の中、たたずむ閑丸‥‥‥‥‥

虚しさが心をよぎる。

確実に殺したはずの斬紅郎の死骸はそこにはなく、風景さえも違う‥‥

周りの木々は無惨に切り倒され、気が付くと斬紅郎の刀を持っていた。

「僕は・・どうなったんだ?」

閑丸は気が付かない、斬ったのは斬紅郎の心の「鬼」である事に。

記憶は戻らない‥‥‥‥ しかし、かすかに甦る何かがあった。

「僕は‥‥‥鬼‥‥‥なのか‥‥」













 

 


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