秘宝09:内藤泰弘版サムライスピリッツ


ジャンル
コミックス
著者
内藤泰弘
発行
徳間書店
発売日
1995年4月20日
定価
490円
入手難易度
難(オークションではプレミア化。)


烈火のごとき剣戟に身を投じ…

我が身染める血風 絶える事無し

明日は別れよと今日の月に語り

草を褥にふるえて眠る

極むるは生 果てに待つるは死

哭きながら征く 阿修羅の道なり―



― 時は天明八年、徳川家斉公の治世に黄泉から蘇った天草四郎時貞!
天草の操る化け物に挑む、無敵の剣客覇王丸!修羅の旅が続く ―!!



サムスピ漫画といえばと聞かれた時、しろー大野先生の真サムかコレを挙げる人は多いんじゃないでしょうか。
今回の秘宝館は、「トライガン」などで絶大な人気を誇る内藤泰弘先生による漫画版サムライスピリッツです。

この作品が掲載されたのはファミリーコンピューターマガジン。通称ファミマガ。
あのウソテクで有名なファミマガです。当時ではファミコン通信と並ぶぐらいに人気があったゲーム雑誌。
そしてこの作品、他のサムスピ漫画と違い、完全なオリジナルストーリーです。
コミックス冒頭でも「このまんがの内容は、ゲーム設定と同一ではありません」と注釈が入るぐらいです。
その内容は・・・正直とても子供向けとは言えない超硬派なサムスピ漫画でした。
そのどう見ても青年誌向けな内容に、当時の子供達は新鮮な驚きを覚えました(自分含む)。

著者の内藤先生は単行本の著者のコメントでこう書かれています。

サムライの魂とは何か。
本書では「死」の淵に敢えてその身を置く事で、このうえない純度で「生」をつかみとる精神として捉えた。
その時、人は万物全てを見渡すのかもしれない。鬼の哭く声が、君には聞こえるだろうか。


・・・

これは本当に子供向けのファミコン雑誌に掲載された作品なのでしょうか?
その「サムライスピリッツ」の本質とも言えるテーマ性、迫力ある作画。
当時の自分を含む子供たちに多大なインパクトを与えたサムスピ漫画。
唯一、ラストが打ち切り的な展開となってしまったのが悔やまれます。
これは当HPで作品内容とかを紹介するよりも、是非自分の目で内容を確かめて欲しい漫画です。

「トライガンの作者が書いたサムスピ漫画」と言う事で、ネットオークションとかではけっこう高値がついたりしています。
新品の入手は実質不可能なので、やはりブックオフなどの中古本屋を巡るのがイチバンでしょうか。
運がよければ100円であっさり手に入ったりします。

そしてこの内藤版サムスピ、その後のサムスピに少なからず影響を与えた側面があると考えています。
その部分を意識しながら見所ポイントを紹介していきたいと思います。





Pickup:1 オリジナルキャラクター「小綱」





この物語のサブ主人公と言えるオリジナルキャラクター。名前の読み方は「おづな」。
兄と父母を殺した天草の手下、楠田霊鑑(くすだりょうがん)を追う少年剣士。
剣術自体あまり好きではない性格。しかし、偶然出会った覇王丸と行動を共にするうちに
強さとは、強いと言う事とは何かという事を知るようになる。

さて、この小綱。
背中に刀を背負った少年剣士です。それってなんかどっかで見た事が無いですか?
そう、斬紅郎無双剣で新主人公として登場した緋雨閑丸です。
確証は全く無いのですが、自分はこの小綱が閑丸のモチーフの1つだったんじゃないかと思っています。



2話以降になるとちゃんとした着物を着るようになりました。
・・・なんかますます閑丸きゅんチックに。これで傘をもてばそのまま閑丸と言っても違和感ないかも。

    

後ろ姿三連発。
肩付近に書かれてるお経のようなものも、斬紅郎がつけてる輪袈裟に名残が残ってるような気がします。
アーケードで斬紅郎無双剣が出たのが1995年11月15日。
そしてこの漫画が連載されていたのが1994年末。時間的にその差は1年。
ドット絵を打つ時間とかを考えても参考にするには十分な時間です。

また、閑丸のモチーフでよく言われるのがるろうに剣心の緋村剣心。
るろうに剣心の連載がはじまったのが1994年19号から。読み切りもあるので、緋村剣心の初登場はもっと前です。
こちらも十分な時間と言えるでしょう。また、作者の和月先生が単行本8巻で

「サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣」のとある某キャラについて、 「あれはもしかして…」

とコメントしていたりする。まぁ、それでもその後に

「SNKのスタッフの方々が『るろうに剣心』を参考にしたのであれば光栄」

と言ってるあたりが実に和月先生らしい。
SNK作品と和月先生はこの後、月華の剣士などの登場もあって切っても切れない仲になっていきます(笑)。

 

そんな剣術嫌いの小綱くん、覇王丸の生き様とかを目の当たりにして成長していきます。
最後の方ではナコルルさんとちょっといい仲に。
男の子は女の子のために頑張る。これまた基本です。王道です。



ナコルル「小綱さん 私…さしでがましい事を言うようだけれども
生きるのに人を傷つけずむにすむ人が、その道をあえて外れて生きる事は無いと思うの。」

小綱「すいませんナコルルさん もう僕は…
誰かのさしてくれる傘の下で降りかかる石をよける真似をしたくはありません。
頭上にいつも日の光を浴びて、雲の様に道を行く自由な背中を知ってしまったから。
覇王丸さんは生きていますよね。次に会う日には僕はもう少しましな自分でありたい。
そう思うんです。





Pickup:2 主人公「覇王丸」






「あの侍……何と雄大な構えだ。大型の肉食獣だぜ まるで。」



これは第一話でザコキャラが覇王丸の構えを見た時に漏らした言葉です。
いまだにこの一言は、「覇王丸」というキャラクター完璧に体現した言葉だと思っています。

本編の堂々たる主人公の覇王丸。
作中ではとにかく格好いい。文句なしにこれでもかと格好いいキャラクターに仕上がってます。





ざんばら髪に小汚い格好。ただひたすらに「強さ」を追い求める豪快なサムライ。
サブ主人公の小綱がその生き方に憧れを抱くのも当然でしょう。
というか当時読んでいた子供の俺もすっかり魅了されていました。





この内藤版サムライは中身を思いっきり要約すると「覇王丸が妖怪みたいな敵を相手をなぎ倒していく話」です。
時にはその「敵」に恐怖を抱き、迷いを見せる覇王丸。しかしその迷いも死闘と共に乗り越えていく。
その生き様は正にみんなが心の中に描いていた「覇王丸」そのものだったのではないでしょうか。
当然ながら、それはそのストーリー構成&内藤先生のド迫力の作画の賜物でしょう。
子供向けのファミリーコンピューターマガジンに掲載されていたのでそれが更に際立った結果に。





さて、内藤先生の覇王丸の特徴として・・・。まずそのボリュームUPしまくった髪の毛が実に印象に残ります。
この豪快な髪の毛が絵的に見て映えること映えること。
当時は初代〜真サム時代でしたから、覇王丸の髪の毛はそこまで豪快な事にはなっていません。
ゲーム中での覇王丸の髪は斬紅郎無双剣のドット絵で一気にボリュームUPした記憶が強いです。
これまた憶測でしかないですが、斬紅郎無双剣の時に
スタッフがこの内藤版覇王丸をちょっと参考にしたんじゃないかとか妄想してみたり。





コミックスを見れば分かりますが、この物語はどちらかというと未完の物語です。
最終回にちょっとダッシュ展開になり、いわゆる「最後の決着」のシーンが描かれていません。
覇王丸の天草との戦いはどうなったのか。それは語られる事無く終わっています。
できればラスト部分を単行本3冊分ぐらいで描いて欲しかったと思ったのは自分だけでしょうか(笑)。


しかし、この内藤版はやはり「覇王丸の物語」なのです。覇王丸の生き様に決着がついている以上、
あのラストでも1つの作品としてのラストとしては、相応しい内容だったのかもしれません。


「そうさ俺は…果し合いばかりやって生きてきた。
何故なんだろうな…麻薬みたいなもんでよ。これじゃなきゃ生きられねぇ…
凄え奴が居るんだ。忘れられねぇ目をした奴が居るんだ。
そんな連中がまだゴロゴロしてるかも知れねえじゃねか!世界には!!
……すまねえ…すまねえな天草…これだけ…これだけは…譲れねぇよ…」





Pickup:3 強烈なインパクトを持った「敵キャラ達」



  

覇王丸たちが戦うことになる、天草四郎時貞が率いる敵キャラ達。
こいつらが作中でこれでもかというぐらいの存在感を醸し出しています。
小綱の項目で触れた楠田霊鑑もそうですが、カムイコタンの村人を惨殺した怨天丸、そしてその部下。
(上の画像左。作中で名前の明記は確認できず。)
この怨天丸&部下の凄惨さは今考えるとよくファミマガに掲載できたなと思えるレベルです。
特に部下の方はその怪物っぷりを遺憾なく発揮。
明らかに「人間じゃない」凄惨な殺戮シーンをナコルルの目の前で繰り広げます。

ちなみに画像左の部下が口にくわえてる物は・・・カムイコタンにいたと思われる妊婦の死体。
正直ファミマガ購読層の子供が見たらトラウマになりそうなシーンです。
この後、コイツは口から妊婦の中に居た胎児の目玉を口から出して
「とっても 美味しかったですよおー」とのたまいます。

・・・もう残虐とかそーゆーレベルを超越なさってます。
ファミマガ購読層の大半は小学生だったと思うので、コレは本気で怖かったと思います。
しかし、ファミマガでは他にもストU漫画で春麗でおっぱいポロリとかやってるので実はそーゆー雑誌だったのかも。
余談ですが、そのストUのコミックスで春麗の乳首に「!」で修正が入ってたのを見て心底落胆したのは俺だけではないはず。

しかし、この作品のナコルルさんはとにかくつらい役回りが多い。
カムイコタンの村人は怨天丸に惨殺され全滅、そしてナコルルの目の前で親しいと思われる人々も皆殺し。
商業ベースでここまで悲惨な目にあったナコルルはこの内籐版ぐらいじゃないでしょうか。
しかし、この凄惨さを見て「残虐だ!」という印象しか浮かばないと言うとそうでは無いです。
覇王丸たちが戦う天草四郎時貞の軍団はここまで強くて不気味な連中なのか!
というとてつもないインパクトを当時読んでいた自分は感じました。
この敵キャラたちを見てこの漫画は他のサムライ漫画とは明らかに違うと実感したのです。



そしてやはり語らずにはいられないのが天草の側近集団の「来須衆」!!!
この展開は少年漫画としてはやはり王道パターン。
来須衆はるろうに剣心に出てきた十本刀と同じようなポジションでしょう。
しかし、最終回に一気に新キャラ12人!
いくら打ち切りダッシュ展開とはいえなんと勿体無い(泣)。
元から敵側はサムライらしくない連中でしたが、それが一気に12人も増えました。
(12人の中に怨天丸もいるので正式には11人追加。)
残念ながら名前が分かっているのは「機操手八郎」(きそうしゅはちろう)という人物1人のみ。

相手は天草+来須衆12人!
それに立ち向かうのは覇王丸・小綱・ナコルル・右京・十兵衛の5人のみ。
当然ながら圧倒的不利な覇王丸たち。この危機をどうやって脱出するか!
と思ったら。








突然サムライキャラ全員集合!!



どーやら覇王丸が武者修行の最中に戦った連中、という事で一気に全員参戦。
これで13人vs13人という超燃える展開が実現しました(笑)。
最終回ですからねぇ・・・(遠い目)。
正直この作品は完結させるにはコミックス5巻ぐらいは必要ですって。
勿体無い、本当に勿体無いー。
魔人・来須衆12人の大活躍が見たかったのは自分だけではないはず。

しかし話的には打ち切りですが、
前述の通り「覇王丸の物語」としてはしっかり完結してるので、読後は何故かスッキリした感覚になる作品なのです。
あくまで自分的には、ですが(笑)。


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