ライオンと子供

 

 あるところに分別のある賢いライオンがいた。ある日、ライオンは子供に出会った。

 子供は言った。「僕を食べないでおくれ。」

 ライオンは言った。「いいとも。」

 そしてライオンは子供に聞いた。

 「君は不注意な人間だね。なんでこんなところを1人で歩いていたのかね?。」

 

 

 すると子供は答えた。「僕は不注意じゃないんだ。ただ・・・・、同じことを時々やってしまうんだ。」

 「それはどういうことかね?」ライオンは聞いた。

 「僕は何か不始末をして皆に怒られるんだ、その時は反省するんだけど、同じような間違いをしてしまうのさ。ライオンのいるところに近づいてはいけない、と何度も言われたのに、それでもここに来てしまったのもそのせいさ」

 そして子供は言葉を続けた。「あんたが分別のあるライオンでよかったよ」

  

 

 子供がそう言うと、ライオンは不思議そうに聞いた。

 「君にとって失敗を悔いるということと、失敗を改めることは同じじゃない、そういうことかい?」

 子供は答えた。「悔いるということと、改めることは同じじゃないよ」

 「それはそうだ」ライオンはしばらく考えこんで、そしてまた子供に聞いた。

 「しかし悔いるということと、改めるという動作はセットになっていた方がいいのではないかな?」

 「そうは思わないね」子供は答えた。

 

 

 ライオンは、今度は少しばかり長く考え込むと次のように話した。

 「君は失敗を反省するが、失敗した原因になった動作を是正しない。君が目を閉じて、そして手探りもしないで歩いたらどうなるだろう?。それをしたら君はいずれ何かにぶち当たるだろう。」

 ライオンは話を続けた。

 

 「もし君が障害物に当たったことを失敗と感じ、そして歩く向きを変えるか、あるいは回れ右したら君は障害物から離れることになるだろう。失敗に気がつき、行動を是正したからこそ、そうしたことができるのだ。だが、もし失敗に気がつくことと、失敗の原因になった行動を是正することがセットになっていなかったらどうなるだろうか?。その場合、今言ったようなことを君はできまい、君はずっと同じ障害物に頭を打ち付けているだろう」

 さらにライオンは話を続けた。

 

 「君は私の前に来た。君にとって私は目を閉じて歩いてぶつかった障害物ということになる。先ほど私は君を見のがしたので、君は失敗を反省する機会を得たわけだ。しかし君は失敗を反省しても、自分の行動を改めないのだから、ライオンたる私の前にいずれまたノコノコ出てくることになるだろう。」

 

 そう言い終えると、はたして賢いライオンは子供を食べた。